スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

変化する『平和』の捉え方

2007-10-15 06:44:29 | コラム
(前の記事の続き)
前の記事:ノーベル平和賞、アル・ゴア へ(2007-10-13)

ところで、最近は平和賞が、平和とは直接かかわりのない人々や団体にも授与されるようになった、との批判がある。ノーベル賞の創設を唱ったノーベルの遺言書には、平和賞の対象「人々が流血する事態の防止や軍備の廃棄もしくは削減、さらには平和のための国際会議の実現に強く貢献した人」としている。

ただ、これは19世紀後半の時代(植民地化、欧米列強、軍備増強、大国間の戦争)から見た『平和』の概念だ。それに対し、今では紛争の局地化、内戦、自国政府による人権抑圧など『平和』を達成すべき対象も変化してきている。そのため、ノーベル平和賞の選考を担当するノルウェーのノーベル委員会は、平和賞の対象をより拡大して「紛争の根源の撲滅」にもスポットを当てるようになった、と見ることができる。そうすれば、近年の平和賞の対象もより理解できるようになるかもしれない。

アフリカなどの貧困地域での紛争の原因の一つは、限られた資源の争奪。人口増加や自然災害のために食料や水が枯渇し、それを奪い合う。貧困のために生活が成り立たず、子供までもが民兵に加わり、村々を襲い、紛争と貧困の悪循環が進む。地球の気候が変化していけば、砂漠地域の拡大や旱魃などが、伝統的な農業を困難にしていく。食料や水を求めて、人々の大規模な移住が始まり、そこで新たな対立が生まれる。地主と小作人の間でも対立が生まれ、それを地方の権力者が政治的に利用しかねない。そのような観点からすれば、環境問題戦争や紛争の主要な原因の一つとして考えられる。

実際、今年の平和賞授与の動機として、ノーベル委員会は「気候変動は世界の平和・安定にとって大きな脅威となっている」としている。

また、環境問題だけでなく、貧困そのものも紛争・戦争の原因として考えられるようになっている。

去年の受賞者であるバングラディシュのMohammad Yunusは、グラミーン銀行の貸し出す「マイクロ・ローン」によって貧困の改善や女性の地位向上に貢献した。受賞動機には
”Varaktig fred kan inte skapas utan att stora folkgrupper finner vägar till att bryta sig ut ur fattigdom. Mikrokrediter är en sådan väg. Utveckling underifrån främjar demokrati och mänskliga rättigheter”
持続的な平和は、国民の大部分が貧困から抜け出す術(すべ)を見出すことなしには成し得られない。マイクロ・ローンはその術の一つである。人々によるボトムアップの発展は、民主主義と人権保護を促進する)と書かれている。

また、その前の年は、ケニアの女性Wangari Maathaiが民主主義の促進や人権の保護、そして3000万本に及ぶ植林活動を讃えられた。これも、紛争の根源となりかねない環境問題や貧困問題の解決に貢献した、とされるためだ。

もう一度、アル・ゴアに話を戻そう。環境問題の解決は、世界規模での協力を必要とする。迫り来る問題に対して、かつては対立していた人々や国同士も、今では互いに協力しなければ、自らの生存も危機に瀕する時代となっている。だから、アル・ゴアの貢献は、なにも環境問題に対する直接的な関与だけでなく、世界規模での協力関係の土壌を準備した、という面からの平和貢献も見逃してはならない。

最後に、これは私の憶測であり、半分ジョークなのだが、自国の経済の大きな部分を石油輸出によって成り立たせているノルウェーは、アル・ゴアとIPCCに平和賞を贈ることで「罪滅ぼし」をしたかったのではないだろうか・・・?