スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

またもやスキャンダル

2007-10-04 06:40:43 | スウェーデン・その他の政治
北欧有数の投資銀行の中に、Carnegie(カネーギェ)と呼ばれるストックホルムに本社を置く銀行がある。19世紀初頭にヨーテボリで創業した貿易および酒造会社が発祥だという。

(アメリカにカーネギー(Carnegie)財団があるが、これとは全く別組織。元を辿れば両者ともスコットランドの資本家の名前らしい。産業革命前後のスウェーデンには、スコットランド出身の資本家がいくらか移民して来て、主にヨーテボリを拠点に産業活動を始めたという歴史がある。)

この投資銀行は、ここ2年の間、オプション株の取引で生まれた利益や所有ポートフォリオの時価を水増しし、過大な会計報告を行っていた。そして、その会計報告に基づき、役員や従業員が多大なボーナスを引き出していたのだった。スウェーデンの金融監督庁(Finansinspektionen)は、先週、Carnegie投資銀行に法律で規定された最大の罰金額である5000万クローナ(8.8億円)を課した上に、取締役や役員の入れ替えを命じたのだった。

また今年の5月には、スウェーデンの経済犯罪特捜部(Ekobrottsmyndigheten)が、同じくこの投資銀行で行われたスウェーデン史上最大規模のインサイダー取引を告発し、立件したのだった。

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と、ここで終わればいいのだが、このスキャンダルにはさらなる続きがある。

昨年誕生した中道右派のラインフェルト政権の公約の一つは、国営企業の売却。どこの国もおそらくそうだが、スウェーデン政府もいくつかの企業を全体的、もしくは部分的に所有しており、業績のよい企業からは毎年、多額の利益が国庫を潤しているのだ。

ラインフェルト政権はそのうちの27社の随時売却を考えているが、まず手始めに以下の6つの企業の完全売却を行う方針を打ち出している。
OMX(ストックホルム株式市場):政府の所有率6.6%
Nordea(北欧最大規模の銀行):同19.9%
SBAB(住宅金融公庫):同100%
Vin och Sprit(酒造、Absolute Vodkaで有名):同100%
Vasakronan(不動産):同100%
TeliaSonera(電話通信、NTTに相当):同37.3%

これらの企業の売却は、財務省の中でも、財務大臣の下に設置された「地方自治体および金融市場担当大臣」Mats Odell(マッツ・オデル)(キリスト教民主党)の管轄である。

地方自治体および金融市場担当大臣・Mats Odell
トミー(富)とマッツ?

Mats Odellは企業売却のプロセスを進める上でのアドバイザーとして、民間から専門家を雇い入れていたのだが、これが実はCarnegieの元部長だったのだ。さらに、スウェーデンでは各省の事務方のトップである政務次官(statssekreterare)は政権によって任命されるため、政権が変わるごとに入れ替えられるのだが、Mats Odellの任命した政務次官も最近までCarnegieで勤務していたのだった。

というわけで、Carnegieの大きなスキャンダルを受けて、大臣Mats Odellに雇われていたこの二人も解雇された。

Mats Odellは経済界と太いパイプを持っているが、あまりに経済界にベッタリと引っ付いており、民間からの人選や民間企業との取引において冷静な判断ができない、と批判されてきた。1994年にストックホルム国際空港と市内を結ぶ特急(Arlanda Express)ができたときも、破格の値段と条件で民間委託を行い、激しい批判を受けた。

荒波の中を突き進むラインフェルト政権。次の大臣辞任も近いか・・・?