私は昔、学校で数多くの名言を暗記させられました。意味の説明がなく兎に角、暗記させられたのです。戦前、戦後の学校とはそういう雰囲気だったのです。
しかし意味不明のまま暗記した言葉は意識の底に棲みついています。
最近、暇になったのでそれらを思い出して、いろいろ考えてみると、それらは案外に日本人共通のものとしてこの国の文化に大きな影響を与えていると思います。
それにもかかわらず、多くの名言や漢語熟語は意味がよく定義されていなく、誤った考えかたを与える危険性がある場合があると思います。それらの例を数回に分けて示しながら日本人の考え方の傾向を考察してみたいと思います。
今日は「温故知新」という漢字4文字の名言を考えてみます。この4文字はよく額に入れて校長室や講堂に掲げてあったものです。
「温故知新」
この言葉は論語にあり、孔子が、「昔の人の思想や学問をよく勉強すれば新しいことも知ることが出来る。そうすれば人の師となれるのです」と教えたことに由来します。
この4文字を訓読すれば、「子いわく、ふるきをたずねて、新らしきを知り、もって師となるべし」と読めるそうです。
この言葉の弱点は歴史的な研究だけを重視して、時代の変化を見落としていることです。昔の偉い人の思想や学説だけを大切にしなさいということでは創造性が否定されます。すなわちこの教えに忠実であると、新しい学説の提案も学問の進歩も無くなります。
東洋にガリレオやニュートンが生まれなかった原因の一つになったような気がします。
このような額を掲げている人は、自分は儒教が大好きで、孔子の教えだけを教条主義的に信じいますと宣言しているようでいけません。
誤解しないで下さい。私は孔子を傑出した指導者として尊敬しています。栃木県の足利学校や東京の湯島聖堂を訪れると孔子の偉さがしみじみと判ります。
だからこそ「温故知新」という言葉だけを有難がって振り回さないで貰いたいのです。
この欠点を指摘した中国の昔の「戦国策」という書もあるのです。その書には、「いにしえをもって今を制する者は、事の変にたっせず」とあるそうです。
過去を見つめる目、現在の的確な判断、そして未来への指針がなければ目的を達することが出来まいと教えているのです。(この部分は、リベラル社編「中国の名言集」44ページから引用しました)
温故知新の知新には新しい創造性も含めた意味があるという人もいますが、それは「ひいきのひきたおし」と言うものです。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。
後藤和弘(藤山杜人)