子供はかまってくれない

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映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」:下世話なゴシップに彩られた至福のパラレルワールド

2019年09月01日 19時32分08秒 | 映画(新作レヴュー)
クエンティン・タランティーノの9作目となる監督作は,自らの映画漬けの半生を言祝ぐような,凄まじいばかりの幸福感に満ちたハリウッド・クロニクルだ。本人は来日中のインタビューで「デビューから本作まで既に9本撮った。映画監督としては10本目となる次作が最終作と決めている」という,タランティーノ・ファンにとっては胸を塞がれるような発言をしているが,本作の内容がそんな発言を裏付けるような「フィナーレ序章」という雰囲気を漂わせているとあっては,その発言を信じないわけにはいかないという,何とも複雑な感慨を抱かせる作品だ。

1950年代から60年代前半にかけてB級映画やテレビの西部劇で一世を風靡したが,今やレギュラー番組を打ち切られ,パイロットフィルムやマカロニ・ウェスタンへの出演に望みを託すだけとなりつつある役者リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と,彼の専属スタントマン兼アシスタントであるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)という二人の架空人物の1969年ハリウッド逍遙記。
この年タランティーノは6歳。多感な時期に映画好きだった母親の影響で世界中のB級映画を浴びるように観たことで,現在のダークかつユニークな人格が健全に育まれたと同時に,タランティーノが強い憧れを抱いたであろうハリウッドの姿を,実写映画で再現するというプロジェクトが,微に入り細を穿った完璧な姿で実現したのだ。

一言で言えば,「デス・プルーフ・イン・グラインドハウス」で顕著になった「グダグダと発展性のない無駄話から驚きのクライマックスに跳梁する」という鉄壁のタランティーノ・パターンの最上級の成果がここにある,ということになるだろう。「燃えよドラゴン」前夜のブルース・リーが奇声をあげ,フランコ・ゼフェレッリ版の「ロミオとジュリエット」の電光が輝き,LSD漬けのタバコを売るヒッピー娘が路上を闊歩する夢の街ハリウッド。ディカプリオとブラピという,二つの世紀を跨いで輝き続ける正真正銘の「映画スター」が,そんな街を発展性のない会話を続けながら彷徨う中年二人を演じるというだけで震えるのに,ラストには夢の街が忘れたくても忘れられない惨劇「シャロン・テート事件」に対する,考えられ得る最高の鎮魂歌と言える暴力劇が用意されている。それは願望や希望を超えた,ハリウッドに咲いた花への本物の「愛」そのものだ。

警察から解放され,シャロン宅に招かれたクリフが,シャロンと親愛のハグを交わす姿を見下ろすショットを撮ることこそが,タランティーノが映画監督になりたかった理由だ,と言われたら,これで引退されても文句は言えない,そんな愛と感動が詰まった161分だが,ここまでやったら最後はディカプリオ主演で本物の「マカロニ・スパイ」ものを,と願うのがファン心理。タラちゃん,何卒よろしく。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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