子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「女王陛下のお気に入り」:ついに来た,ランティモスの時代

2019年02月24日 11時21分00秒 | 映画(新作レヴュー)
決められた期間内に結婚相手を見つけないと動物になってしまう世界。自分の母親の相手をしなかったことを逆恨みして,男に自分の家族を殺すよう迫る少年。「ロブスター」も「聖なる鹿殺し」も,実に暗くも熱いエネルギーに満ちた作品ではあったものの,とてもではないけれど天下のアカデミー会員の多くから拍手を得られるような作品ではなかったことは確かだ。それ故に,今回のアカデミー賞の本命候補扱いは驚き以外の何物でもない . . . 本文を読む

映画「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」:精神世界からの回帰の困難さ

2019年02月23日 21時02分00秒 | 映画(新作レヴュー)
「ライ麦畑でつかまえて」には感動し,「ナイン・ストーリーズ」も読んではいたものの,J.D.サリンジャーと記されることが多いサリンジャーの名前Jがジェロームのイニシャルだということを,本作を観て初めて知ったくらいの知識しかなかった私は,勿論サリンジャーの良い読者ではない。けれども「ライ麦畑〜」と違って,なぜ「フラニーとズーイ」を読み通せなかったのかが,これまた本作を観てよく理解することができた。さな . . . 本文を読む

映画「ファースト・マン」:騒音と振動と悲しい記憶と愛情を携えて月に立った男の物語

2019年02月17日 12時05分43秒 | 映画(新作レヴュー)
少し前の北海道新聞に「NASAの宇宙服が寿命を迎えている」という記事が載っていた。記事によると現在船外活動で使われている宇宙服は11着しかなく,しかもほぼ40年前に製造されたものを,修繕しながら使ってきたのだが,それも限界に近付きつつあるとのこと。「スター・ウォーズ」のミレニアム・ファルコンは,使い古した「くたびれ感」が売りだったが,リアルな宇宙開発では,そんな悠長なことは言っていられない状況のよ . . . 本文を読む

映画「ナチス第三の男」:実力派女優の揃い踏みにも拘わらず

2019年02月11日 11時26分43秒 | 映画(新作レヴュー)
本屋大賞を受賞した原作の「HHhHプラハ,1942年」でもなく,映画の原題「THA MAN WITH THE IRON HEART」の訳でもなく,「ナチス」を除いたら往年の名作と同じ題名となってしまうタイトルを敢えて選んだ理由は,少しでもキャロル・リードが遺したクラシックの威光を借りようとしたのだろうか。仮にそうだとしたら,配給会社の担当者は本作の構造的な弱さに自覚的だったと言えるだろう。高い志と . . . 本文を読む

映画「サスペリア」:えげつなくも美しい6幕の舞踊劇

2019年02月09日 12時35分19秒 | 映画(新作レヴュー)
高校の時に観たダリオ・アルジェントのオリジナル「サスペリア」は,繰り返されるテーマ曲の旋律とクライマックスに流される血が作り物っぽかったこと以外,ほとんど記憶に残っていない。その数年前にウィリアム・フリードキンの「エクソシスト」に驚喜したミドルティーンには,いくらホラーの古典と言われても,緻密に組み上げられ,かつ分かり易い対決構図で盛り上げてくれた「エクソシスト」とはまったく異なる言語構造を持った . . . 本文を読む

映画「家へ帰ろう」:予定調和を超える力

2019年02月02日 15時11分33秒 | 映画(新作レヴュー)
このところ,実話に基づくナチス関連の作品が立て続けに公開されているが,本作もフィクションながら,そういった一連の歴史検証ムーヴィーの流れの中に位置付けられる作品と言える。祖父の家庭が「ポーランドという言葉がタブーであった」というパブロ・ソラルス監督にとって,「ドイツを通らずにポーランドに行くのだ」という強い決意のもとでアルゼンチンからポーランドへと人生最後の旅をする主人公の姿を描くことは,自らのル . . . 本文を読む