子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「異端の鳥」:凄まじい暴力の果てに浮き上がる希望

2020年11月29日 11時50分56秒 | 映画(新作レヴュー)
舞台は第2次世界大戦のようだが,一体何処の国と何処が闘っているのか,登場人物が一体何語を話しているのか,といった物語を構成する重要な要素はほとんど判別できない。呪術師の老婆が出てきて,病人に祈祷を施しだすに至っては,中世の話なのかという疑問さえ頭を過ぎる。極端に台詞を削り,音楽も排された中,モノクロ3時間の作品は,各章に登場する人物の人名らしきものをサブ・タイトルに掲げつつ,ゆっくりと進んでいく。 . . . 本文を読む

映画「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!」:ウェルメイドな喜劇をはみ出す魅力

2020年11月23日 19時59分32秒 | 映画(新作レヴュー)
歴史上,実際に存在した人物や記録が残っている出来事を取り上げつつ,そこに今となっては厳密な検証が不可能な虚構を挟み込んでみる。表現者が歴史物を取り上げる際に用いる常套手段を巧みに使い,現実と虚構の境界を曖昧にすることで物語が持つエネルギーを最大限に引き出してみせたアレクシス・ミシャリク監督の「シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!」は,思いもよらない拾いものだった。 劇中,主人公の劇作家エドモン . . . 本文を読む

映画「ストックホルム・ケース」:北欧の風に吹かれて

2020年11月17日 21時37分03秒 | 映画(新作レヴュー)
COVID-19対策に関して、スウェーデンは独自の対策を取った。ジャシンダ・アーダーン首相の強いリーダーシップの下、果断かつ迅速な対応を取って、いち早く感染拡大を収束させたニュージーランドとは対照的に、基本的に強い制限はかけずにゆっくりと国民の間に免疫を獲得していく所謂「集団免疫」と呼ばれる対策だ。その判断が正しかったかどうか、結論が出るのはまだ先になるのだろうが、国民がその対策を支持したことだけ . . . 本文を読む

講演会「映画へと導く映画」:映画監督黒沢清氏特別講演

2020年11月07日 20時47分58秒 | Weblog
「スパイの妻」によりヴェネチア国際映画祭の監督賞にあたる銀獅子賞を受賞した黒沢清監督の特別講演会が札幌で行われた。元々は春に予定されていた企画だったが,COVID-19の感染拡大を受けて延期され,この度ようやく開催に漕ぎ着けたとのこと。その間に上述した受賞があり,受賞作の上映も市内の二つの映画館で始まったこともあって,会場は満員。年齢層は比較的高かったが,すでに受賞作を鑑賞してきた観客も多かったよ . . . 本文を読む

映画「はりぼて」:膨大な領収書の中に潜む闇を暴き出したジャーナリストの未来は?

2020年11月01日 12時19分19秒 | 映画(新作レヴュー)
廃線になったJRの線路を活かしてLRT(都市型の軽量路面電車)を導入したことで,全国のまちづくり関係者の注目を浴びた富山市。作品の中で雪を抱いた立山連峰が何度も遠景として映し出されるのだが,その雄大な眺めとは似ても似つかない人間の姑息な営みをあからさまにカメラに捉えた「はりぼて」は,爆笑と嘲笑の果てにこの国の今をも映し出して観るものを戦慄させる。恐ろしくもエネルギーに満ちた政治ドキュメンタリーだ。 . . . 本文を読む