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映画「ナポレオン」:フランス人が英語を喋る,長大だが重厚とは言えない歴史絵巻

2023年12月13日 21時13分57秒 | 映画(新作レヴュー)
デビュー作の「デュエリスト/決闘者」でカンヌの新人監督賞を獲って映画の世界に躍り出たリドリー・スコットは,H.R.ギーガーの優れた造形デザインのサポートも得て,CMディレクターならではのアイデアとビジュアルセンスの合体という未踏のルートからSF映画の新たな頂きを征服してみせた「エイリアン」の若きクリエイター,というイメージが強かった。そのイメージは「ブレードランナー」によって更に強化されたものの,その後に撮った「グラディエーター」に代表される歴史ジャンルへの挑戦が評判を呼んだことによって,あっと言う間に大物感漂う巨匠となった展開に呆気にとられた,というのが彼のフィルモグラフィーに関する正直な感想だ。出発点に戻って新たに足元を見つめ直すかと思われたものの,取り戻せなかったフットワークの鈍重さを暴露する結果となった「エイリアン:コヴェナント」の出来が,実に象徴的だった。
そんなスコットが,開き直ったかのように一大歴史絵巻物に挑戦した新作が,過去にアベル・ガンスが撮ったサイレント作品をF.F.コッポラが復元して話題を呼んだ作品と同一題名・題材の「ナポレオン」だ。

コルシカ島出身の戦略に長けたひとりの軍人が,重要な港を占拠していたイギリス軍を打ち破ったことを端緒に,見る間に権力を掌握していき,ヨーロッパの統一まであと一歩の所まで行きながら,ロシアの大地に鎮座していた冬将軍に敗れて一度は流刑を宣告されてしまう。捲土重来を期して島を出るものの,再起をかけた戦いにも敗れて全てを失い,失意のうちに一生を終えるまでの姿を描いた大作は,19世紀初頭の「戦争」を描き出すリアルな筆致で突っ走る。
何度も描かれる戦闘シーンの中でも,白眉はアウステルリッツの戦いだ。表面が雪で覆われた氷上に相手を誘い出し,大砲でその氷を砕くことによって,人馬諸共極寒の水中に突き落とされる様を水中カメラで捉えた映像は,若き日のスコットの切れ味鋭いセンスを彷彿とさせる見事なショットの連続だ。

一方で妻ジョセフィーヌへの恋慕と彼女の奔放な生き方への嫉妬という,「人間ナポレオン」の側面も描かれはするものの,初戦のトゥールーズの戦いにおける緊張故の激しい息遣いと同様に,物語を支えるサブプロットとしての役割を果たすことさえ覚束ない。「優秀な戦争屋」としか見えないナポレオンの行動を忠実に辿った近代欧州史の副読本,という役割はまっとうしているものの,映像から喚起されるべき感情の襞は,鑑賞後時間が経っても生まれる気配はない。でも新しく出来た「TOHOシネマすすきの」の大きなスクリーンと鮮やかな音響で観た絵巻物は,ある意味「見世物体験」という映画本来のあるべき姿だったと言えなくもない,かもしれない,ってどっちだよ〜!
★★★
(★★★★★が最高)


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