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映画「おーい!どんちゃん」:泣いて泣かれて,育て育てられてのかけがえのない3年間に拍手

2023年11月26日 21時02分41秒 | 映画(新作レヴュー)
現役の映画監督が選んだ作品を上映し,上映終了後に監督自身が作品を解説し,併せて自作や制作姿勢などについて語る札幌市芸術文化財団主催の企画「映画へと導く映画」シリーズの6回目のゲストは,「あのこは貴族」の岨手由貴子監督だった。彼女がアニエス・ヴァルダの「冬の旅」と共に選んだ「おーい!どんちゃん」の上映後は,同作の監督である沖田修一と出演した女優宮部純子がステージ挨拶をするという嬉しいサプライズもあり,とても温かな上映会となったが,映画自体も自主制作の温もりと手練れの業のブレンドが絶妙な味を醸し出す,素晴らしいものだった。監督のお嬢さんで監督と一緒に会場に姿を見せた本作の「主役」,9歳になったどんちゃんの成長ぶりを見つめる観客の目線は,間違いなく作品に登場する三人のお父さんのそれになっていた。

役者志望の三人の若者が生活する家の玄関前に,ある日女の子の乳児が寝かされたベビーカーが置き去りにされる。置き手紙とは言えない「置きメモ」によると,その子は若者のひとりの元彼女が置いていった赤ちゃんらしいのだが,おむつも着替えもミルクも何もない状況で,未経験のパパトリオの育児冒険が始まる。オーディションや劇団の稽古やバイトに追い立てられる日々の中「子供を育てる」という,それまで彼らの視野にはなかった,けれども役者の求職活動よりも遥かに重い仕事を担うことになったことで,役者に必要な経験や創造力をそれと知らずに獲得していく「お父さんたち」の姿は,笑えて泣ける。2時間半を超える長尺ながら,「え?ここまでなの?」と言いたくなるような余韻を醸し出すラストの引っ越しエピソードは,アラン・パーカーの「バーディ」を越える脱力オチだ。

実の娘の成長の記録を,「劇映画」として残そうと決めた沖田監督の目論見は,同じように子役の成長を長期間に亘って撮影したリチャード・リンクレイターの「6才のボクが,大人になるまで。」に似ているようだが,どんちゃんが「演じる」ことを意識するまで,と明確に区切った点で明らかに異なる。脚本は一応用意していたものの,どんちゃんの状況にアダプトしていく,という方式を採用することによって,4人が寝オチしたあの見事な俯瞰ショットが生まれたことを寿ぎたい。人生ゲーム,買おっかなぁ。
★★★★
(★★★★★が最高)


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