子供はかまってくれない

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2024年春シーズン 新作映画レヴュー「デューン 砂の惑星 Part2」「オッペンハイマー」など

2024年04月27日 10時37分33秒 | 映画(新作レヴュー)
「デューン 砂の惑星 PART2」ドゥニ・ヴィルヌーヴ
かつてデヴィッド・リンチやホドロフスキーといった巨匠が映画化に挑み,断念または道半ばで撤退したフランク・ハーバートによる原作「砂の惑星」が,一体どれ程魅力に溢れた小説だったのか,未読の私には分からない。
カナダの秀英という立ち位置から,いつの間にかすっかり世界的な「SFの巨匠」と化した感のあるヴィルヌーヴが取り組んでいる今回のプロジェクトの第2弾も,世界興収が7億ドルに迫る大ヒットとなっており,スピルバーグが「これまで観た中で最も優れたSF作品のひとつ」と絶賛しているにも拘わらず,前作同様に私にはピンとこなかった。ヴィルヌーヴは,実は自分が一族の血をほぼ根絶やしにした敵方の血を引いていたことが判明する,という劇的な展開に,出生の秘密が物語の核となっていた自身の初期作「灼熱の魂」と共振するものを感じたのだろうか。
しかし砂にまみれた惑星という,魅力のある絵を作るには大変な努力を要したであろう舞台を背景に繰り広げられる長大な因縁劇は,レア・セドゥやフローレンス・ピューといった当代きっての人気と実力を兼ね備えた俳優たちを端役で使うという超贅沢なキャスティングを活かせないまま,「続く」というエンディングで,観客を砂ならぬ煙に巻く。「メッセージ」の鮮やかな手腕の復活は,砂嵐が収まるまでは期待できないのだろうか。
★★
(★★★★★が最高)

「オッペンハイマー」クリストファー・ノーラン
原爆投下に関する描写を巡って,ということなのだろうが,配給会社が二の足を踏んだために日本公開が危ぶまれたクリストファー・ノーランの新作。原爆開発者でありながら,水爆の開発を目論む大統領と意見を違え,赤狩りの標的にまでなってしまうという波瀾の人生を,ノーランお得意の敢えて時制をずらす手法を取り入れて描いた作品は,膨大な登場人物と構成の複雑さにも拘わらず,これまでの作品群とは異なる「重要な現代史として残したい」という熱い思いが迸り出た傑作だ。
大きな物語を支えるのが,アインシュタインとの会話を巡る小役人の嫉妬というプロットが効いており,大作にありがちなご都合主義から生じる瑕疵とは無縁の繊細な心配りが全編を引き締める。
問題となった原爆投下を巡る描写については,オッペンハイマーの人物伝という体裁のもとで,可能な限り配慮されたものとなっていると感じた。オッペンハイマーが頭の中で想像する被爆の様相を,実の娘に演じさせたことも,配慮の表れのひとつだろう。政治的にはリベラルだった研究者が「時代の要求」という大きな流れの中で苦悩する姿は,唯一の戦争被爆国である日本でこそ多方面から語られる価値のあるものになっているものの,公開時期の問題もあってか,オスカーの獲得という追い風を興行に活かせなかったことが悔やまれる傑作だ。
★★★★★
(★★★★★が最高)

「プリシラ」ソフィア・コッポラ
世間的には評価の高かった「エルビス」だが,パーカー大佐との延々と続く脂ぎったやり取りよりも,プレスリーの音楽を唯一無二のステージに押し上げる原動力となった,黒人音楽との接触を描いたイントロダクションこそが,稀代のエンターテイナーを謳い上げるエピソードに相応しかったのではと感じてしまい,深く落胆する結果に終わった。
けれどもエルビスと妻との出逢いと切ない別れを描いた「プリシラ」は,音楽を背景に引っ込めて,ヒリヒリするようなリアルお伽噺に徹するというソフィア・コッポラの英断が功を奏し,プリシラを演じたケイリー・スピーニーと共に創り上げた「異世界との邂逅」は,瑞々しくも普遍的な成長物語に昇華していた。最終的にエルビスの命を奪うこととなったドラッグに関する描写や,エルビスの周囲を固めるグレイスランドのマフィアとプリシラのプロットも,抑制の効いた手練れの業。カンヌに出るお父さんの新作は果たして?
★★★
(★★★★★が最高)

「パスト ライブス 再会」セリーヌ・ソン
韓国と米国,距離と時間を隔てて展開する幼馴染みとの再会と別れ。描きようによっては,お手軽な叙情に流れてしまいそうな物語を,映像の力を信じるセリーヌ・ソンの演出が瑞々しい佳篇に仕上げている。
印象的なのは劇中何度も訪れる「沈黙」の濃さ。思いをうまく言葉に出来ない,してはいけないという思いの結果生まれる居心地の悪さを正面から見つめる時間は,タイパ重視のトレンドに対するソンのアンチ・テーゼのように渋い光を発する。主人公の目標がノーベル賞からピューリツァー賞,そしてトニー賞へと変わっていくことが,人生に何度か訪れる重大な決断や出逢いの結果であると同時に,その結果を引き受けて前に進んでいかなくてはならないという運命と決意を,寡黙なエンターテインメントとして語り切ったソンの力量を讃えたい。
★★★★
(★★★★★が最高)


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