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映画「2023年の10本」:女性監督は10本中3本だが,秀作比率で男性を圧倒

2023年12月31日 15時50分38秒 | 映画(新作レヴュー)
アニメーション作品が年間を通じてシネコンのスクリーンを独占した一方で,グレタ・ガーウィクの「バービー」が圧倒的な高評価と裏腹に興行的には大苦戦をした2023年。同作とほぼ同時期にアメリカで旋風を巻き起こした「オッペンハイマー」が,日本では公開に至らないという事態を憂う中,とうとうケリー・ライカート作品がロードショー公開されることを寿いだ年末。鑑賞本数は減った割に,数え挙げると10本に絞る作業は困難を極めた結果が以下の10本。

NO.は鑑賞順。
1 SHE SAID その名を暴け マリア・シュラーダー
2 イニシェリン島の精霊 マーティン・マクドナー
3 エンパイア・オブ・ライト サム・メンデス
4 フェイブルマンズ スティーヴン・スピルバーグ
5 トリとロキタ リュック・ダルデンヌ
6 レッド・ロケット ショーン・ベイカー
7 TAR トッド・フィールド
8 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3 ジェームズ・ガン
9 アシスタント キティ・グリーン(写真)
10 ファースト・カウ ケリー・ライカート

#Metooを扱った社会劇に,子育て鬱からの回復というテーマを付加することで,作品の奥行きがぐっと広がった1。
映画における脚本の力と演技者の比重を再認識させられた2,映画館という特殊な場の磁力を最大限に活かした3,ラストのデヴィッド・リンチ登場に唸った4は,いずれも思ったほど話題にならなかったのが不思議な力作群。
移民が置かれた状況の過酷さという点で,砲弾飛び交う戦場と同じくらい硝煙の気配が濃厚だった5。
絶賛された「フロリダ・プロジェクト」よりも,主人公の悲哀が沁みた6。
才能に満ち溢れた女性が独力で生きることの困難さが,ラストで凄まじい昇華を見せる7。監督の最終作,という情報が唯一の瑕だ。
作られるのかどうか気を揉ませたが,出来上がってみれば絵に描いたような大団円を迎えた8。
1とは異なる視点から男性支配社会の歪みを静かに炙り出した9。
そして1年の掉尾を飾る堂々たる地味系「お正月映画」としてお目見えした10。
10本には入らなかったが「バービー」も新鮮な企画力と巨大なエンジンで楽しませてくれたことを考えると,1,9,10と併せて,女性ディレクターの優秀さが男性を圧倒した1年だった。

その他ではB級アクションの新たな地平を開いた「ドミノ」
特攻隊の描き方に少し首を捻りながらも,VFXの力でそのまま捻り潰されてしまった感のある「ゴジラ-1.0」
前作に続いて青春期の揺れ動く心と大人の関わりを見事に映像化した「CLOSE クロース」
アクの強い趣味が作家性に転換したヴァーホーヴェンの「ベネデッタ」
描写の徹底度合いに60年代の自国ドキュメンタリー作家の影響が伺える「ボーンズ・アンド・オール」
などが記憶に残った。
「オッペンハイマー」に加えて,ヨルゴス・ランティモスやジュスティーヌ・トリエなど作家性と娯楽性のバランスに優れた監督作が控える2024年が,スクリーン以外でも良い年となりますように。


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