子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「フォードvsフェラーリ」:タコメーターで興奮させる見事な技

2020年01月19日 12時02分38秒 | 映画(新作レヴュー)
同じ「X-MEN」シリーズの2本だけを取っても,かなり波の荒いディレクターという印象のあるジェームズ・マンゴールドだが,本作は主演二人の素晴らしい演技という強力なサポートもあって,見事な大当たりを引き当てた。車離れの著しい昨今,スピードに賭けた男のオイルと汗の匂いがほとばしる物語が,どこまで幅広い層の興味を惹きつけることが出来るか疑問は残るが,かつてウォシャウスキー姉妹が「スピードレーサー」でVFXを駆使して描き出そうとして失敗した疾走感を,大画面で体感しないという選択肢はないやろ,と鶴瓶師匠も仰っている(はず)。

日本公開作のタイトルは原題と同じく,ル・マン24時間レースを巡る二つの自動車メーカー間の争いを表しているが,実際はフォード社内の現場対官房部門の闘い,すなわちフォード版「半沢直樹」と言っても良い内容だ。
元ドライヴァーで今は持病のために車を降りて設計に回ったキャロル・シェルビー(マット・デイモン)と,年齢はいっているが天才肌のドライヴァーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)のコンビが,フォード社の命運を賭けてレース界のガリバーたるフェラーリに挑むというメイン・プロットの中に,社長のフォード2世を中心として副社長のレオと後に社長となるアイアコッカのせめぎ合いがうまくはめ込まれることによって,シンプルな筋立てが深い奥行きを獲得することになった。ケンとその妻(カトリーナ・バルフ),息子(ノア・ジュプ)との心温まるやり取りも,レースの緊張感を和らげるインターミッションとして,実に有効に機能している。

だが何と言っても本作の魅力はレースシーンが持つ類い希な迫力だ。本来ならデイモンとベイルの役柄は逆ではないかと思うのだが,コーナーの手前や先行する相手を追い抜きにかかる地点でギヤを変えることによって,タコメーターの針が上下し,エンジンがうなりを上げるだけで観客の心拍数までもをコントロールするに至ったのは,哲学者のような風貌のベイルが負けず嫌いの職人ドライヴァーを嬉々として演じたことに負うところが大きい。「ウォーク・ザ・ライン」を監督したマンゴールド故に,レースシーンを盛り上げる音楽にも抜かりはない。マルコ・ベルトラミとバック・サンダースが作り上げたサウンドは,1960年代テイスト溢れる美術とは一線を画す電子音の洪水によって,もはや死語となりつつある「ガッツ」を見事に表出させてみせる。

本国アメリカでは賞レースにも絡んできているようだが,「アナ雪」「SW」などの娯楽系ヒット作群vs通向け「パラサイト」という色分けが鮮明な正月興行において,話題の狭間に埋もれることなく出来るだけ多くの人々とこの興奮を分かち合いたくなる,そんな秀作だ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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