子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「キャロル」:ニュアンスに富んだ眼差しを捉える高度な技術

2016年02月28日 09時16分57秒 | 映画(新作レヴュー)
パトリシア・ハイスミスの著作の中で,これまで唯一邦訳がなかったという原作の舞台を,現代に置き換えることなく1950年代初頭のニューヨークのままで撮り上げるというのは,制作チーム全員にとって大きなチャレンジだったはず。 トッド・ヘインズのそんな芸術的なチャレンジを見事に成功に導いた最大の原動力は,ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラという,芸歴だけを柔道の重量別階級で喩えたならば,無差別級と軽量 . . . 本文を読む

映画「ゾンビスクール」:守られるべきか弱い存在を叩き潰すホビット

2016年02月21日 20時32分56秒 | 映画(新作レヴュー)
真偽の程は定かではないが,イライジャ・ウッドには「ロード・オブ・ザ・リング」のプロモーションで来日した際,フリッパーズ・ギターのアルバムを探し求めて東京の街中をうろついていた,という噂がある。くだんのシリーズでスターダムにのし上がりながら,ごく普通の欧米人ならその名前すら知らないであろう極東のグループに関心を持つという性行は,どうやら彼に備わった生来のオタク気質を象徴しているのかもしれない。「R. . . . 本文を読む

映画「オデッセイ」:最悪の音楽によって紡がれる,人糞によるサバイバル術

2016年02月14日 10時02分17秒 | 映画(新作レヴュー)
「エイリアン」の10倍以上の予算を注ぎ込んだ「プロメテウス」の,図体ばかりでかくてスピード感に欠けた出来上がりに象徴されるように,TVのCMで鍛え上げられたリドリー・スコットの巧手は,可能な限りコンパクトな設定の下でこそ発揮されるものと,個人的に思ってきた。舞台を宇宙船の船内に限定した「エイリアン」しかり,中年女性ふたりの行く当てのないドライブを描いた「テルマ&ルイーズ」しかり。 勿論「グラディエ . . . 本文を読む

映画「の・ようなもの のようなもの」:故森田芳光監督への愛によって出た眼

2016年02月06日 11時45分19秒 | 映画(新作レヴュー)
1981年に制作された森田芳光監督の劇場用映画デビュー作である「の・ようなもの」が当時,一体これは何なんだ?という懐疑の声と,これぞ80年代を代表する「新しい映画」と賞賛する声が相半ばする議論を巻き起こしたことは,既に35年という歳月が経っているとは思えないほど記憶に新しい「事件」だった。当時のそんな雰囲気を反映してか,権威あるキネマ旬報ベストテンでは圏外となった一方で,ヨコハマ映画祭では「第1位 . . . 本文を読む