子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「枯れ葉」:カラオケを作った国への愛を滲ませた見事な復帰作

2024年02月18日 20時19分03秒 | 映画(新作レヴュー)
功成り名遂げたヴェテランが第一線にカムバックするというニュースは,場合によっては「今更?」という受け止められ方をする危険性が多分にある。ポピュラーミュージック界にあっては,特にグループの再結成において「何をやろうというのか?」「お金の問題か?」というネガティヴな反応が生まれやすく,その危惧はたいてい当たる。あの偉大なスティーリー・ダンでさえ,再結成後のアルバムはグラミー賞に輝いたとは言え「ガウチョ」までの素晴らしい軌跡にでこぼこの轍を刻んでしまったことは否めない。
それが映画監督となると,新作の報せがないまま訃報が届く,というパターンが主流で,映画を撮り続けている状況であえて「引退宣言」をするケースはそう多くはないような気がする。篠田正浩が最終監督作の前に「これで最後」と宣言したり,クエンティン・タランティーノが「10本撮って終わり」と公言したケースが思い浮かぶが,フィンランドの名匠アキ・カウリスマキも前作「希望のかなた」のプロモーション中に「普通のおじさんに戻ります(言い方は違うはずだが)」と言ったらしい。そんな世界中のカウリスマキ・ファンを落胆させた引退宣言をあっさり覆し,初期の作品群をブラッシュアップしたような新作を携え,何食わぬ顔でカムバックしてきたこと自体が,何よりも「カウリスマキ・テイスト」に溢れた椿事だ。

アル中の男と不運な女。カラオケバーで出逢い,運命の悪戯ですれ違いを繰り返す二人を覆う焦臭い世情の暗雲。けれど二人の周囲には音痴なのに絶世の美声だと信じる男や,大量のゾンビに勝てない警官,名画座に貼られたブレッソンの名作「ラルジャン」のポスターに,すんでのところで命拾いした捨て犬など,どこを切っても「待ってました」と拍手を送りたくなるしょぼくれ要素のてんこ盛り。すれ違う二人のプロットもまた「君の名は」的なベタなものにも拘わらず,いつかはきっと救われるはず,という希望の胎動を内包したフレッシュで前向きな不幸感で,観客を静かにドライブする。
そんな予感が「モダンタイムス」なショットで見事に昇華するラストシーンは,三宅唱の傑作「夜明けのすべて」のぎこちないキャッチボールと呼応するかのような多幸感に満ちて見事だ。

これまでも日本の文化や社会に作品内で言及してきたカウリスマキだが,今回の日本愛は「ラ・ヴィド・ボエーム」の「雪の降る町を」に続く歌ものの「竹田の子守歌」。沁みる,という言葉はこういう時に使うのかと思いつつ拍手を送る。
★★★★☆
(★★★★★が最高)

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