子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

ドラマ「全裸監督」:バブルと共に生きる覚悟がまとう熱

2019年09月08日 21時35分30秒 | TVドラマ(新作レヴュー)
1980年代初頭,ヴィデオが家庭に普及し始めた頃に,その普及速度を速めた一つの要素が「AV」の存在だ,という趣旨の台詞が出てくる。当時,ヴィデオデッキを買った世代のど真ん中にいた私は,本作のハイライトである黒木香の作品こそ観たことはなかったものの,世の中が彼女とその生みの親とも言える本作の主人公村西とおるの「エロこそ人間の根源」的な言動に喝采を送った空気感はいまもはっきりと覚えている。
地上波では難しかったであろう,村西監督の自伝の映像化が,アルフォンソ・キュアロンの「ローマ」とは多少のニュアンスの違いはあれど何とか実現出来たのも,ネットフリックスという新しい媒体があればこそ。まずはこの企画を実現させた制作陣の勇気とエネルギーに敬意を表したい。

日活ロマンポルノにあったと言われる「10分に一度の濡れ場」という約束事には到底及ばないながら,一話に一回程度はベッドシーンもちゃんと盛り込まれている。森田望智が演じる黒木香が笛を吹き鳴らしながら「エロスを解放する」第5話は,村西との絡みが全体を通じてのひとつのクライマックスとなっている。けれどもシリーズを通じて,特にお茶の間での視聴を意識してと言うわけでもないのだろうが,ロマンポルノにあったような湿度の高い官能性を追い求める,という姿勢はあまり感じられない。その代わりに前面に出て物語を引っ張るのは,普段は早口で呟くように喋りながら,撮影に入った途端,突如としてテレビショッピングの司会者のような丁寧語をしゃべり出す村西の白いブリーフ姿だ。芸術的なビジョンも持たず,ひたすら女優を煽ることで,やがて自分が撮ったヴィデオを見つめるであろう孤独な男たちにひたすら奉仕しようと汗を流す村西が憑依したかのような山田孝之の姿は,どこか「アメリカン・アニマルズ」の犯人たちに通じる,無駄にエネルギー準位の高いバカな求道者と重なっていく。

シリーズが8話を通じてその熱量を落とさずに駆け抜けた理由の一つは,そんな村西に惹かれ,彼を支えようと奮闘する仲間たち,なかでも制作プロダクションの仲間となる満島真之介,玉山鉄二,伊藤沙莉の3人が躍動感たっぷりに描かれていることだ。特に村西を助けるために図らずもヤクザと手を組んでしまい,最後にはチームからも離れていかざるをえないトシを演じた満島は,もう一人の主人公と言っても良いくらい強度のある演技を見せる。
黒木香以外の女優陣にやや輝きが足りなかったり,最終回でライバル会社の社長石橋凌がやけにあっさりと退場してしまったり,國村隼の台詞回しが聞きづらかったりと,幾つか残念な点はあったものの,刺激的な題材をお茶の間に「小さな波風」を立てる程度のコンテンツに仕上げる,というチャレンジは見事に成功している。物語の終わりから現在まで30年以上。制作が発表された続編のネタは尽きないはず。是非とも登場人物と共にヴィデオテープの「退場」まできっちりと描いて欲しい,と期待を込めて☆をひとつ追加。
★★★☆
(★★★★★が最高)


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