1932年のアメリカ映画「グランド・ホテル」に範を取って,一つの場所に集まる大勢の人々を描いた群像劇を「グランドホテル」形式と呼ぶが,それを歌舞伎町の「ラブ・ホテル」に舞台を移してやってしまおうと考えたのは,日本の映画人ならば極めて自然で正しい発想だと思う。
彼女に勤め先を偽りラブホテルの店長を務める男と,枕営業をしてでもシンガーとして成り上がりたい女のカップル。お金を稼ぐため共に東京で働きなが . . . 本文を読む
デヴィッド・クローネンバーグのファンを自認していた私だが,前2作「危険なメソッド」と「コズモポリス」における睡魔との戦いは,本当に厳しいものだった。どちらも物語が何処に向かって進んでいるのかを示す手がかりは極めて限られており,聡明な観客だけ付いて来てくれれば良い,と言わんばかりの展開が,ひたすら観念的な台詞によって彩られた高尚な芸術品。結果,私のような「映画はあくまで大衆娯楽」と考える観客にとって . . . 本文を読む
日本中を席巻した感のある2012年の大ヒット作(なんとフランス映画歴代興収第1位!)「最強のふたり」の監督と主演が再びタッグを組んだ,お正月映画に相応しい明るくホットな空気をまとった作品がパリから届いた。アフリカからフランスに渡り,おじの家に居候しながらレストランで働く青年が,国外退去を命じられながらも,心を病んだボランティアの女性との触れ合いを通じて,逞しく生きていく姿を描いた「サンバ」だ。
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毎年,映画祭で受賞するような芸術作品からエログロ満載の三流アクションまで,ありとあるゆる映画をチェックしては,その年のベストテンを選んで発表しているクエンティン・タランティーノの批評眼を,見逃していた優秀作品の「落ち穂拾い」の指針にしている映画ファンは私だけではないはずだ。
そんな人間にとって,チラシに記された『「今年のナンバーワンだ!」クエンティン・タランティーノ大絶賛』という言葉ほど,魅力的な . . . 本文を読む
学生映画出身で「川の底からこんにちは」によって,映画界の話題を浚った俊英とは言え,それから僅か4年でフジテレビ開局55周年記念作品と銘打った大作のメガホンを取ることになるとは,誰が想像しただろう。ひょっとしたら石井裕也監督本人が事の展開に最も驚いているのかもしれないが,作品のフレームは実に堂々としており「ビッグバジェットを仕切ることの出来る初のPFFグランプリ受賞者」としての名前は,間違いなく歴史 . . . 本文を読む