子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

2023年春シーズン新作映画レヴューNO.3:「アダマン号に乗って」「聖地には蜘蛛が巣を張る」など

2023年06月04日 14時28分57秒 | 映画(新作レヴュー)
「トリとロキタ」:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
名古屋出入国在留管理局で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの支援者の活動について「詐病の可能性を指摘される状況へつながったおそれも否定できない」という発言をした国会議員を,党の幹部が当初は庇う発言をした国で,このダルデンヌ兄弟の新作がどれだけの人の目に触れたのかが,とても気になる。ヨーロッパの映画祭で常に高い評価を受けている監督コンビでありながら,日本ではその評価以前に作品自体の露出が極端に少なく,多くのメジャーなメディアでほぼ黙殺された状態を危惧しながら行った劇場(シアター・キノ)の椅子に座っていた観客は,やはり両手に満たない数だった。
けれど疑似姉弟難民が送る過酷な日常を描く監督の視線は,いつも通りにフラットでありながらも温かく,独特のリズムで綴られたショットが誘発する感情は,上記の発言をした際の議員の自信に満ちた威圧的な声を凌ぐ強さを持っている。少年の真っ直ぐな歌声は,間違いなく悲惨な最期を遂げた姉の耳にも届いたはずだ。
★★★★☆
(★★★★★が最高)

「アダマン号に乗って」:ニコラ・フィリベール
セーヌ川に浮かぶ,様々な人々が乗船してくる文字通りの「船」=アダマン号を舞台に,彼らの生き生きとした日常を捉えたベルリン国際映画祭金熊賞受賞作。登場人物がカメラに向かって自らを語る姿は,まさに「宇宙船地球号」のクルーそのもの。船を運航させるために自分の持ち場でなすべきことをなしていく姿の記録であり,その過程において障碍や困り事の有無は,そう大きな問題ではないという,偉大な発見が確かな足取りで迫ってくる。
「ぼくの好きな先生」と同様にフィリベール監督のまなざしは実に穏やかで,微笑ましい語りには驚きや発見も多い。ただ同様のアプローチで対象に迫って,対象同士の衝突や摩擦によって生まれる,より大きなサプライズを内包したフレデリック・ワイズマンの諸作品に比べると,クルーが自己完結しているように見える分,驚きの振れ幅は小さい。ドキュメンタリーに優しいベルリンの招待状は,是非ワイズマン作品にも。
★★☆
(★★★★★が最高)

「聖地には蜘蛛が巣を張る」:アリ・アッバシ
死刑廃止が重大な社会的課題にはなり得ていないこの国において,この作品のクライマックスについて語るのは難しいものがある。一方で多くの女性を殺しておきながら,裁判の過程で悪びれることもなく犯行の状況や心情を話し,ミソジニーが蔓延した法廷で笑いさえをも取る犯人の醜悪な姿を炙り出すアッバシ監督の手腕は見事の一語に尽きる。女性ジャーナリストが犯罪は勿論,警察やイランの司法制度をも糾弾していくストレートな社会派作品でありながら,途中まではミステリーとしての体裁を保ち,かつ犯人が暮らす家庭の描写を巧みに織り込むことによって,復讐の連鎖まで想像させる展開は,役者の素晴らしさと相俟って映画の醍醐味を味あわせてくれる。自身のプライベートな体験と重なるような物語を,肉を削ぐような思いで演じたであろうザーラ・アミール=エブラヒミに拍手。
★★★★
(★★★★★が最高)


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