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映画「アルゴ」:娯楽映画の王道を,胸を張って歩くベン・アフレックに喝采

2012年11月11日 21時31分52秒 | 映画(新作レヴュー)
ベン・アフレックが監督した第2作の「ザ・タウン」と3作目となる本作を観る限り(監督デビュー作は日本劇場未公開),資質は幾分異なるものの,同じく俳優出身で監督として映画史にその名を刻み続けるクリント・イーストウッドの後を継ぐ存在になる可能性は非常に高いと見た。マット・デイモンと共に脚本を書き,俳優としても脚光を浴びた「グッド・ウィル・ハンティング」から15年。「アルマゲドン」や「パール・ハーバー」等における,陰影のない退屈なヒーロー役からは想像も出来ないような,したたかで渋いプレーヤーとしての重みと併せて,映画人としての確かな成長ぶりを楽しませて貰った2時間だった。

1979年のイランの米国大使館占拠時に,カナダ大使の公邸に逃げ込んだ6人の外交官を,CIAが偽の映画の製作スタッフに偽装させて国外脱出を企てた,という実際に起こった事件を映画化した作品。大使館占拠事件は記憶に残っているものの,その陰でこんな事件が起こっていたなんてついぞ知らずに30年余を過ごしてきた訳だが,それもそのはず。事件の顛末は解決から18年後に,当時のカーター大統領と所属政党を同じくするクリントンが解禁するまで,CIAの倉庫の中で眠り続けていたというのだから。

そんな仰天の救出作戦を映画化した「映画監督」ベン・アフレックは,まず登場人物全てを徹底的に当時のファッション・髪型に漬け込んで,70年代の原液が滴り落ちるような空気を作り出している点が秀逸だ。当時から約30年を経て,もはや一種の「コスチューム・プレイ」として捉えなければならないような時代を,リアルに映像化するというチャレンジは,当時のニュースフィルムと思しき映像とシンクロさせた冒頭の暴動事件のモンタージュから,ゾクゾクするような緊迫感で観客を鷲掴みにする。
ラストのジェット機とイラン軍の車輌の追跡劇には,やり過ぎ感が少し漂ってしまっているが,メインのプロットを支えるカナダ大使の使用人に関するエピソードや,CIA内部のやり取りなどは,予想以上に抑えた筆致で描かれており,監督アフレックの技量と節度を充分に感じさせる出来映えと言える。ハリウッドに残ってイランで奮闘する若造を支える,アラン・アーキンとジョン・グッドマンというふたりの怪優の存在感が肝,という点も,映画ファンには嬉しいサーヴィスだ。

アラン・J・パクラの秀作「大統領の陰謀」を想起させるような全体的なプロダクションも含めた映画的な興趣と,幅広い層にアピールし得るアトラクティブな魅力とを両立させた(公開後4週を経た11/4付けの全米興収ランキングで何と第3位!)アフレックだが,次作あたりで御大イーストウッドとのタッグ,なんてことにはならないかな?
★★★★☆
(★★★★★が最高)


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