goo blog サービス終了のお知らせ 

子供はかまってくれない

子供はかまってくれないし,わかってくれないので,映画と音楽と本とサッカーに慰めを。

映画「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」:まさに「everything happens to me」を地で行くウディ・アレン

2020年07月05日 12時38分34秒 | 映画(新作レヴュー)
題名に偽りなし。こんな風に雨に濡れたニューヨークの街並みが次から次へと映し出される映画は,初めてではないだろうか。主役の大学生ギャツビー(ティモシー・シャラメ)が着るツイードのジャケットが雨に濡れ,ギャツビーが成り行きで昔の恋人の妹チャン(セレーナ・ゴメス)とキスをする車のウィンドウに落ちてくる雨粒を観ているうちに,4DXではないのにまるでこちらの髪にも水滴がついたような気分にさせられる。ウディとコンビを組むのが3作目となる撮影監督ヴィットリオ・ストラーロが仕掛けた魔法にまんまとかかってしまう90分には,騒動とは関わりなくいつも通りのウディ作品ならではの魅力が詰まっている。

元妻ミア・ファローから,過去に問題となった養子への性的虐待を改めて訴えられた件が,「#MeToo運動」の流れの中で大きく取り上げられ,本国での上映拒否運動,Amazonスタジオとの制作契約の破棄へと繋がり,窮地に追い込まれているウディ・アレンの新作。裕福な家に生まれた頭も外見もスマートな大学生ギャツビー(何という役名だ!)が,ジャーナリスト志望の恋人アシュレー(エル・ファニング)が急遽行うこととなった有名な映画監督とのインタビュー取材旅行に同行するため,生まれ育ったニューヨークにやってくる。アシュレーは自己嫌悪に陥った監督を追いかけているうちに,有名な映画スターに口説かれ,一方のギャツビーもひょんなことから,毛嫌いしていた母から出自を聞かされる羽目に陥る。

恋心を含めた人間の気持ちの移ろいやすさ,人間と彼らを作る街との関係,そして思いもかけない運命の悪戯といった,ウディ作品にはおなじみのモチーフが,リズミカルな掛け合いとジャズのスタンダードナンバーに乗って,軽快にマンハッタンの街角を転がっていく。一流の芸術家を気取りながらも下半身のことで頭がいっぱいの業界人を揶揄するエピソードや,動物的勘で相手を見抜いては射貫く女性の魅力などを,いつもながらの諧謔に溢れたトーンで描き出すウディの筆致にはいささかの衰えも見られない。中でもギャツビーがチャンの家で「everything happens to me」をピアノの弾き語りで歌うシークエンスは,雨降るたそがれの室内を自然光で描き出したストラーロの職人芸が冴える名シーンだ。

ウディが離婚したときにファローから投げつけられたという「地獄に落としてやる」という言葉の真偽が分からない以上,訴訟問題への言及は出来ないが,まさに作品のテーマを謳った「everything happens to me」という言葉に真実が宿っていることだけは確かなようだ。
★★★★
(★★★★★が最高)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。