子供はかまってくれない

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映画「娼年」:松坂桃李,大きな声を出す,の巻

2018年04月14日 13時16分16秒 | 映画(新作レヴュー)
本作と同じく,三浦大輔が自作の戯曲を映画化した「愛の渦」は,裏風俗店に集った初対面の男女10名が,気に入った相手に対してどうやってセックスのきっかけを見つけ,相手に迫るかを競い合う際にこぼれ出る本音が刺激的な,セックスそのものを描いた官能ドラマと言うより,服を着ない役者による会話劇と呼ぶべき作品だった。導入部などは,志を同じくする,という点では共通点のある「ワークショップ」の参考書にしたら良いのでは,と思ったことを憶えている。数多いエピソードの中で一番印象に残っているのは,過剰な性欲を持て余す女子大生役の門脇麦が発する,尋常ではない喘ぎ声だった。その三浦の新作「娼年」は,「愛の渦」に比べるとより肉体の触れ合いにフォーカスしているように見えるが,観終わって残るのはやはり松坂桃李の「喘ぎ声」だった。その大きな声は性の歓び,というより,女性との交わりを通じて自分が世界の一部であることを確認できた歓喜の雄叫びのように,女性だらけの劇場の空間に響くのだった。

自堕落な生活を送る大学生が,非合法の派遣風俗店で働くことになり,孤独な女性たちと抱き合うことで,人生に目覚めていく。経験という部分にやや偏りはあれど,典型的なビルドゥングスロマン(成長物語)だ。
松坂の頑張りは目を瞠るばかりだが,それ以上に彼の前に現れる女性たちが皆実に魅力的だ。佐々木心音や冨手麻妙のように既にスクリーンで見ていた若手は勿論,大谷麻衣や桜井ユキといった初めて観る女優たちが生き生きと松坂を煽る姿は爽快ですらある。谷崎潤一郎を意識したかのような役柄に嬉々として取り組む西岡徳馬と,鉄火場で柔肌を見せていた若かりし頃を思い起こさせるような江波杏子のヴェテラン二人が,物語のフレームをしっかりと固めているのも頼もしい。クライマックスのモンタージュには「実は石井輝男の未公開作品なのだ」と言われたら「そうだったのか」とうっかり信じてしまいそうな,妖しげなパワーがあった。

その一方で,かつての日活ロマンポルノの秀作群には確実に存在していた,下世話な艶っぽさには欠ける。人間の根源的な寂しさの表象としての官能性は,監督の意図とは異なるものだったようだ。物語全体も,女性たちとの出会いがほぼ孤立したエピソードに収まってしまっているため,松坂の成長を貫く縦串のようなものが足りない,という印象も受ける。本来ならその役割を引き受けるべき店のオーナー役の真飛聖が,きりりとしたビジネスパーソンにしか見えないことが,作品の構造的な欠点になってしまっているようだ。三浦のオリジナル作品での再チャレンジを期待したい。
★★★
(★★★★★が最高)


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