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映画「アメリカン・ファクトリー」

2020-05-25 08:47:58 | 映画(洋画:2019年以降主演男性)
映画「アメリカン・ファクトリー」は2019年のNetflix映画


「アメリカン・ファクトリー」は本年のアカデミー賞最優秀ドキュメンタリー映画である。その評判だけで観てみた作品である。オハイオ州に中国企業が進出してGM工場跡を居抜きで稼働させる。その経緯をドキュメンタリーにまとめている。フィクションのシナリオができていたが如くに、経営者と労働者側の両方の立場を随時映像として捉える。それを巧みに編集して一本の映画にまとめた。片方の立場だけでは浮かび上がらない裏話がすべて織り込まれているところがすごい。


 中国は共産主義国というけれど、どちらかというと今は一国資本主義で統制をとる。むしろアメリカ企業の工場の方が前近代的資本主義の色彩が強い。それがくみ取れる映画である。ただ、この映画を観てアメリカ工場労働者の自信のなさとレベルの低さに正直驚いた。 

2008年冬、ゼネラルモーターズ(GM)社はオハイオ州デイトンの工場を閉鎖し、1万人が解雇された。その後オバマ大統領はGMの再建を試みるがデイトン工場は復活できなかった。2016年、中国の自動車ガラス製造会社フーヤオが廃工場の再生にあたることになり、GM社を解雇された人を含むアメリカ人労働者が雇用された。


アメリカ人の幹部のもと、中国から派遣された人々とアメリカ人が合同で工場を稼働させた。米中の従業員同士ではプライベートの交流も生まれている。しかし、アメリカ人は仕事に慣れない。また、従業員の組合結成については経営者側が反対し対立が徐々に深まっていく。アメリカ人の幹部も解雇され、英語も堪能の新しい幹部が工場を仕切ることになる。

1.どっちが資本主義国?
中国企業フーヤオのデイトン工場開所式には、地元オハイオ州選出の共和党の上院議員が来賓で登場しスピーチする。この上院議員はスピーチで経営者側と組合側がうまく協力し合ってという話をする。アメリカの工場では当然という労使関係である。しかし、下打ち合わせができていなかったせいか、これを聞いてフーヤオの会長は組合ができるのであれば撤退すると納得しない。


たしかに、まだ出来たての工場でいきなり組合ができたら困るというのは経営者側からみたら全くごもっとも。従業員を懐柔しようとパーティを仕掛けて一緒にYMCAなんて歌って踊ったりして経営者側も労使協調を仕掛ける。組合を作らせないためのコンサルタントなんてすごい人物が登場する。

米国は資本主義で、中国は共産主義というように学校では今でも教えているんであろうか?米国の資本主義は今だ変わらないが、中国に関しては一国資本主義というべき、中国共産党主導の資本主義経済前提の全体主義という体制である。絶対的な権力を持つ中国共産党には誰も逆らえない。全体主義ということではナチスやスターリン時代のソ連と同じだ。逆らったらたいへんなことになる。

ここでは昔のGM時代の流れもあったので、組合をつくって従業員の権利を主張したいという意向のようである。ただ、組合を作らせないフーヤオの動きを見て、自動車労連のような外部の連中までがプラカードもって大騒ぎする。むしろ外野がうるさい。おいおい、これって昭和40年代までの日本の学園紛争や労働運動みたいじゃない。レベル低い。別の会社に共産党系の闘士がちょっかい出すといった感じだ。昔の教育を受けてきた人がみると、米中どっちが資本主義かと一瞬違和感を覚えるだろう。

2.階級闘争が日本と違う
工場の作業に慣れきれないアメリカ人が続出している。それはそれで仕方ない。でも、日本であれば熟練工になろうと努力するであろうが、それもない。日本の場合、いわゆるブルーカラーと言われる工場労働者とホワイトカラーとの障壁はなくなってきている。昭和40年代から大企業ではブルーカラーの待遇がホワイトカラーと一般社員なら大きく変わらない人事制度を作り上げてきた。(小熊英二 日本社会のしくみ pp.463-465、477-488) 


それだけに社員の中での分断はなく欧米にまだみられる職種別の労働運動というのは日本ではみられなくなっている。今朝の日経新聞の記事によると労組組織率は16%だという。それでも十分労使はうまくいっている。この映画で見る限りは日本の労働者と比較すると、工場労働者は組合に頼らないと何もできないように見受けられる存在だ。

GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、Amazon、マイクロソフト)5社の株価の時価総額が日本の一部上場会社の時価総額を抜くほど大きく経済が進化したアメリカで労働者とインテリジェンスと知的格差が極端になっていると言える。

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