映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「一月の声に歓びを刻め」 カルーセル麻紀&前田敦子&三島有紀子

2024-02-12 17:36:38 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「一月の声に歓びを刻め」を映画館で観てきました。


映画「一月の声に歓びを刻め」は女流監督の三島有紀子が、幼児時代の性暴力体験に関するトラウマに基づき企画した作品だ。一線級の俳優が集まり、北海道、八丈島、大阪で3本の短編映画を撮る。三島有紀子監督の「幼な子われらに生まれ」荒井晴彦の脚本ということもあってか実に良かった。ただ、その後の監督作品「ビブリア古書堂の事件手帖」「Red」はストーリー自体に気にくわない場面があった。何気なく見たこのポスターの名前にカルーセル麻紀とある。ずいぶん久しぶりだなあと感じつつ映画館に向かう。

雪降り積もる洞爺湖の湖畔の家で一人暮らすマキ(カルーセル麻紀)が長女(片岡礼子)夫婦と孫と4人でおせち料理を食べながら新年を祝う。しかし、会話にはわだかまりがある。それは6歳で性暴力を受けて亡くなった次女の存在があったからだ。父親はその後性転換して女性になっていた。 

八丈島で牛飼いをしている誠(哀川翔)のもとに娘の海(松本妃代)が5年ぶりに帰郷した。妻は交通事故で亡くなっている。海はお腹が大きくて妊娠しているようだが、何も言わない。ただ、海岸で一人泣いていて海の様子がおかしい。誠が海のいない部屋に⼊ると⼿紙に同封された離婚届を見つけてしまう。


大阪の堂島、れいこ(前田敦子)は元恋人の葬儀出席で大阪に戻る。葬式帰り、鉄橋の下で悶々としていると、レンタル彼氏をしている男(坂東龍汰)に誘われる。名刺の名前に吸い寄せられそのまま男とホテルに入っていく。そこで、幼少期性暴力にあったトラウマで元恋人と向き合いきれなかった自分を回顧する。


久々に観たカルーセル麻紀の怪演に圧倒される。必見だ。
洞爺湖周りの雪景色が美しく、湖畔の家での家族の団欒のシーンでは、きめ細かくおせち料理の数々が美しく映し出される。老いてグレーヘアの少し変貌したカルーセル麻紀宇野祥平、片岡礼子との食卓での立ち回りがどこかおかしい。亡くなった片岡礼子の妹の存在は徐々にわかっていく。女性として生きてきた父親を、娘は今も受け入れていない。ツライ親子関係だ。

家族が帰った後カルーセル麻紀が一人で次女を憂うシーンや一気にニューハーフ系の濃い化粧に化けるシーン、雪降り積もる湖畔を歩きながら嘆き悲しむシーンが圧巻だ。10年ぶりの映画出演だというカルーセル麻紀が各種主演女優賞を受賞してもいいと感じる。改めて1942年生まれと確認して驚く。なぜなら、彼女と同世代の自分の元上司が近年次々と亡くなっているからだ。今の若い人はカルーセル麻紀を知っているだろうか。


自分が小学生の頃、当時はオトコ女なんて言われていたカルーセル麻紀はレアな存在だった。親に隠れてこっそり見るエロ系番組では常連で、TVのショーでスカートをハサミで切られる場面が50年以上たつけど脳裏に浮かぶ。モロッコでアソコを切った後、何かというとTVで見かけた日本のニューハーフのはしりだ。今回はカルーセル麻紀に出演をオーダーした三島有紀子のキャスティングの勝利であろう。すごい!

八丈島の物語は、5年ぶりに実家に帰ってきた娘が懐妊していて、その娘が結婚したことも親に告げずに離婚届を持ってきて慌てるという話だ。ちょっとした短編小説を読んだような後味をもつ。ここでの八丈島とその周囲を映し出すカメラワークは抜群で、じっくり映像素材になるシーンをストックするために長く島に滞在した感じがする。三島有紀子監督の映像センスを感じる。


三島有紀子自らの体験にダブらせるのは三島の故郷大阪を舞台に前田敦子が演じる短編だ。作品情報を読むと、大阪を舞台にした同作のロケハンで三島有紀子が訪れた場所で、偶然事件の犯行現場に遭遇したらしい。これもすごい話だ。そこで自身の過去を映画にすることを決意したようだ。

この映画だけモノクロだ。何か意味があるんだろう。やたらとを映すが、女性器を連想させるため?前田敦子がこの映画ではメインなんだろうが、正直なところこの短編がすごく良いとまで思わなかった昔の哀しみを表現するための長回しは三島有紀子自らの考えだろうが、ちょっと間延びした印象を持った。


カルーセル麻紀が雪の中演技し終わった後で太地喜和子から声をかけられたそうだ。人智を超えた記事があった。大酒のみの仲間だったのだろう。こんな台詞がカルーセル麻紀は似合う。なぜか昭和の怪優が復活した。一世一代の芝居だ。
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映画「市子」 杉咲花&若葉竜也

2023-12-20 21:42:53 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「市子」を映画館で観てきました。


映画「市子」は突然失踪した同居人女性は他人だったことがわかって、彼女の過去を追いながら現在の行方を探るミステリードラマだ。ここに来て主役での起用が増えている杉咲花と若者の偶像を描く作品で活躍する若葉竜也の共演。監督脚本の戸田彬弘監督作品を観るのは初めてでオリジナル作品だ。

予告編で、結婚を申し込んだのにその女性が別人だったという設定は分かっていた。ただ、それだけではストーリーの全容はわからない。昨年公開の死んだ夫が別人だった「ある男」をとっさに連想する。若葉竜也が毎度常連の今泉力哉監督の新作に出ずにこちらにかけたのかとも思いつつ映画館に向かう。

市子(杉咲花)が同棲している長谷川(若葉竜也)からプロポーズを受けて喜んでいる。ところが、市子は長谷川が帰宅する前にアパートを飛び出して行方不明になる。その長谷川を後藤刑事(宇野祥平)が市子の写真を持って訪ねてくる。そして、あなたの暮らしていた女性は市子ではないと言われあぜんとする。警察が捜査を進めるとのと同時に、長谷川は市子が歩んできた道筋を追いかけていく。



構成力に優れたミステリーだ。
時間軸をずらしながら、市子の歩んできた道筋を追っていく。途中でこの映画の結末がどのようになるのかよめないミステリー要素がある。映像から目が離せない。それぞれの場面に軽い伏線を残しながら、真実に迫る。俳優陣の演技もいいけど、巧みに構成して編集をまとめた戸田彬弘監督をほめるべき映画だ。予想外によくできている。もっと評価されてもいい。

時間軸は小学校時代、高校生時代、そして現在と3つの時代をめぐっていく。

小学校時代にすでに母親(中村ゆり)はシングルマザーで、夜は飲み屋で働いている。市子は小学校時代から普通ではない。カネがないので万引きもしてしまう。同級の友人とのお付き合いで、仲良くなったり、ケンカしたりするエピソードに伏線を散りばめる。それがのちのちの謎解きにつながっていく。

高校時代からは、市子を杉咲花が自ら演じる。市子の付き合っている男、市子を慕う男子の同級生母親のもとにたむろう男たちとの関わりが映し出される。シングルマザーの母親はいかにもという感じで男出入りが多い。そこからある事件につながっていく。


いくつもの時代を巡るエピソードで、少しづつ市子のこれまでの人生がわかっていく。市子はTVのニュースで白骨遺体が発見されたことに敏感に反応して家を飛び出す。でも、少しずつ謎が解けても肝心の市子が最終どうなっていくのかがわからない。どういう形でストーリーに区切りをつけるのかドキドキしながら追っていた。

杉咲花は身近にどこにでもいそうな女の子だ。高校生役を演じてもあまり不自然さはない。シングルマザーにまとわりつく変な男との微妙な関係を巧みに演じる。「法廷遊戯」でも殺人に絡んだが、むずかしいシリアスドラマを平気な顔をしてこなす。起用しやすいタイプなので来年も出番は多いだろう。


若葉竜也現代若者の偶像を描くには欠かせない俳優だ。失踪して探していく中で、刑事だけでなくむかし市子が関わり合った同僚、同級生、市子の身内など色んな人と交わる。探す側なので出番がむしろ杉咲花より多いかもしれない。今泉力哉監督作品などで超絶長回しをこなしているので、演技には安定感がある。

特に中村ゆり演じる母親と会う場面がよく見えた。徳島の海辺の町での場面は、海辺のロケーションも含めて肝となるシーンだ。ここのところ、シングルマザーがでる映画が多く、人気女優が次々と堕落したシングルマザーを演じている中でも美形の中村ゆりに実際にいそうな水商売独特の匂いを感じる。杉咲花に漏らすあるセリフにドキッとする。

もともとは舞台劇として設定した「市子」とは言え、今回は登場人物が住む寂れたアパート、むかし市子が住んだ古めの団地小学校校内ベイサイドなどロケーションが主体でリアルな空気を感じさせる。


エンディングの前まで、結末がわからなかった。最後はディテールを語らずにある人物を映し出した。
これでいいのではないか。
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映画「隣人X 疑惑の彼女」上野樹里

2023-12-09 08:17:37 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「隣人X 疑惑の彼女」を映画館で観てきました。


映画「隣人X 疑惑の彼女」は小説現代長編新人賞を受賞したパリュスあや子の小説「隣人X」を、上野樹里と林遣都の共演で映画化した作品だ。もちろん原作は未読。映画ポスターの上野樹里には、30代半ばの凛々しさがあって素敵だ。気になる。

「スウィングガール」上野樹里に注目した後も三木聡のカルト映画「亀は意外と速く泳ぐ」「陽だまりの彼女」などが好きだ。いずれもファンタジーとまでいかないが、異類との交わりの要素をもつ。この映画にもその匂いを感じて映画館に向かう。

ある日、日本は故郷を追われた惑星難民X の受け入れを発表した。 Xは人間の姿をそっくりコピーして日常に紛れ込んだ。 X は誰なのか?日本中でX を見つけ出そうと躍起 になっている 。

スクープがとれない鳴かず飛ばずの週刊誌記者の笹(林遣都)が「X特集」の取材班に起用される。各取材記者にX 疑惑リストが配られて身辺を調べるよう指示される。笹のリストには良子(上野樹里)と留学生のリン(ファン・ペイチャ)の2人のリストがあった。2人は同じコンビニで働いていた。笹は正体を隠して宝くじ売り場で掛け持ちで働く良子に近づく。

ちょっとしたきっかけで強引に良子を食事に誘った後も、笹は積極的にアプローチするとともに距離を縮め良子の素性に迫る。そうしているうちに恋心が徐々に芽生える。しかし、Xだと示す決定的証拠が見つからない。編集長(嶋田久作)からは記事になるネタを出せと結果を求められる。クビ一歩手前だ。笹は契約社員でカネがない。スクープを取るために,良子の実家に行って両親に会うことを決意する。


次にどうなるかが読みづらい。
世間の諸問題をいくつも含んだ物語の構造で、意外性もある映画であった。


SF的な展開を予想したが,さほどでもない。非現実の世界を描くことは少ない。原作者パリュスあや子フランス居住で、イスラム系難民の話題から原作の発想を得たという。それを監督脚本の熊澤尚人がかなりアレンジしているようだ。しかも、上野樹里と監督がディスカッションした結果、セリフも都度書きかえて脚本にしているという。なるほど良くできているのもうなずける。

主人公良子(上野樹里)は、田舎に両親がいる36歳独身の1人暮らしの設定だ。感情の起伏が少ない。女性っぽい女々しさはなく泣いたりわめいたりしない。セリフは淡々としている。同世代の女性の目線で作り上げた物語に不思議なリアル感を感じる。

映画は、週刊誌記者の目線で物語が展開していく。スクープがとれない契約社員のダメ週刊誌記者が,世間で話題になっている宇宙から来た移民者Xの謎を明かす取材班に運良く加わることができた。功を急いで良子に焦点を絞って、ないふり構わず近づいていく。

もともとはスクープをとることしか考えていなかったのに、ずっと近づいていると徐々に恋愛感情が生まれる。ただ、いかんせん金がない。祖母の施設費用も払えなくて追い出されそうだ。編集長からも責められる。窮地に立たされて、好きになった良子の両親からXだという証拠をとることで解決しようとする。記者としてXの正体を暴くのと、恋愛を成功させるのはトレードオフだ。複雑な立場に頭を悩ませながらも功を急ぐ林遣都が上手い。自分が同じ境遇だったらきっと発狂しているだろう。


ずっと前から好きな上野樹里が30代半ばになってグッといい女になった。
かわいさで売る初期の作品も良いが、少し大人になって撮った「陽だまりの彼女」上野樹里が抜群に良い。中学の時いじめられっ子だった女の子が突然美しくなって目の前に現れる。そんな設定も良かった。そんな1人のファンとして30代半ば過ぎた上野樹里をここで再度見直す。ストーリー展開だけでなく、セリフまで提案するというのは、若くして数多くの作品に出演して映画を知り尽くしたからだろう。渡辺淳一の「失楽園」をはじめとして、素敵な女性主人公に30代半ば過ぎの女性が多い。また、彼女の出演作が観たい。


この映画を観て、反省しなければならないことがあった。Xの疑念を持たれた台湾留学生リンが登場する。学業に専念したいが、生活のためにコンビニと居酒屋の両方でバイトする。言葉が不完全なので、顧客の要望に応えられない時がある。映画では繰り返し登場する。それもテーマになっている。原作者パリュスあや子日本育ちでフランスに移住するあたりで似たような苦労をしたかもしれない。

最近街中では、留学生のバイトを見ることが多い。確かに、たどたどしい言葉は聞こえずらいし、意思疎通を図りにくい。この映画では登場人物がかなり留学生をバカにしている場面がでてくる。ただ、自分を振り返ってそれに近いことをしていなかったのか?自分は絶対に違うとは言い切れないと思い、同じような場面に出くわしたら、こちらから目線を落として助けてあげねばならないのかと感じた。
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映画「朝がくるとむなしくなる」唐田えりか&芋生悠

2023-12-07 19:06:53 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「朝がくるとむなしくなる」を映画館で観てきました。


映画「朝がくるとむなしくなる」唐田えりか主演の新作でつい先日「こいびとのみつけかた」で主演を張っていた芋生悠が共演している。女流監督の⽯橋⼣帆がメガホンを持つ。2人の注目の若手女優が共演というのが気になる。瑞々しい2人である。サイン会兼ねた舞台挨拶付き上映に行った人うらやましい。

コンビニでバイトしている希(唐田えりか)は営業の仕事に疲れて会社を辞めたあと、1人暮らしで平凡な日々を送っている。たまたま、来店した加奈子(芋生悠)は中学の同級生で、希に声をかける。中学の時加奈子が転校して久々の再会だったが、それぞれの心の悩みを語り合う。

唐田えりかと芋生悠の2人の魅力的な若手女優を観に行くためだけの映画である。
これも低予算の映画であろう。先日「こいびとのみつけかた」の時もそうだったが、それよりも予算が少なさそう。コンビニや居酒屋など身近な所だけでロケをしている。コンビニの店員が芋生悠から唐田えりかに代わっただけで同じようなものだ。

ストーリーに大きな起伏がない。いろんな映画賞にエントリーしていると書いているけど、監督もさすがにずぶと過ぎる。悪いけど、そのレベルの映画ではない。でも、唐田えりかと芋生悠は魅力的なので許せる。


都会で就職したが、営業の仕事に疲れて辞めて悶々とバイトしながら暮らす女の子ってこんな気持ちを持ちながら暮らしているというセリフが続く。芋生悠も派遣社員の役だ。

大学新卒も一般職での募集は少なく、ほとんど総合職かつ営業でスタートの場合が多い。入社したては希望に満ちて元気がいいけど、すぐに夢破れ辞めていく。女性がやろうと思ってもたいていは脱落する。今の世の中には、この映画の唐田えりかみたいな女の子が多いと思う。

ただ、コンビニのバイトだけで家賃払って暮らしていけるのかな?別にマンションでなく普通のアパートでも都内周辺で家賃7万以上にはなる。この映画の設定では、会社を辞めたことは親には言っていない。生活の不足分がもらえる訳でもない。同じような境遇で、女性が付くスナックやラウンジには昼仕事してバイトしている女の子が東京にはわんさかいる。そうでないと生活できない。そう設定した映画をつくったほうが現代で考えると自然だと思う。そんな唐田えりかも見てみたい。


それにしても唐田えりかはかわいい。濱口監督「寝ても覚めても」で初めてみてから追いかけている。東出昌大に引っかかったのは運がなかった。世間のバッシングを浴びて気の毒だった。おそらくは、女性に嫌われがちの警戒されるタイプだろう。この映画での独白を聞きながら、あの低迷時期の彼女を想い、ジーンとくる。マスコミやへんな女にいじめられてかわいそうだったね。

でも、のような美人がいても唐田えりかを口説く東出の気持ちはほとんどの男たちはよくわかるだろう。毎日、高級フレンチばかり食べていても、シンプルな和食が食べたくなるものだ。ただ、「寝ても覚めても」以降の主演作品はイマイチ。作品に恵まれてほしい。映画への予算が大きい韓国映画界に進出という記事もあり、それもいいかもしれない。


芋生悠は素朴な感じがよかった「ソワレ」で注目して「こいびとのみつけかた」で主演を張り、それも観に行った。彼女もかわいい。唐田えりかとは仲がいいらしい。もうちょっと、レベルの高い映画で2人の共演が見たい。
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映画「ほかげ」

2023-12-02 09:44:38 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「ほかげ」を映画館で観てきました。

映画「ほかげ」は戦後のまもない時に懸命に生きようとしていた人たちを描く塚本晋也監督の作品である。朝の連続ドラマ「ブギウギ」で主演を張る趣里がクレジットトップとなるが、実際には子役の塚尾桜雅が中心である。謎の男森山未來にも絡んでいく。感想は書きづらい。

女(趣里)は、 半焼けになった小さな居酒屋で1人暮らしている。体を売ることを斡旋され、戦争の絶望から抗うこともできずにその日を過ごしていた。空襲で家族をなくした子供(塚尾桜雅)がいる。 闇市で食べ物を盗んで暮らしていたが、ある日盗みに入った居酒屋の女を目にしてそこに入り浸るようになり…。(作品情報 引用)


趣里が出ている場面は舞台劇のようだ。居酒屋も兼ねている小さな小屋のセットで話が繰り広げられる。居酒屋の金主のような男に加えて、戦災孤児と金なしの復員兵の3人が登場する。本当は客をとってもっと稼ぎたいのに、孤児と復員兵が出入りして居座ってしまう。なかなか稼げない。戦災孤児は食糧を盗みに入り生き延びてきた。なぜか拳銃を持っている。カネを工面すると言っていた復員兵は徐々に精神が安定しない状態になる。

しかし、イザコザができて2人とも趣里の元を離れる。

そのあと少年は復員兵の負傷した男と行動を共にする。閉鎖的な舞台劇のような場面から、屋外に風景が移る。古い家と闇市のセットが登場する。復員兵にはある企みがあったのだ。


ともかく暗い映画だ。
戦後間もない時期で、しかもその中でも底辺を彷徨う人間を映す。明るいきざしは見当たらない。もともと期待しないで観た映画だが、観ている途中から身体中がどんよりしていく。自分にはちょっと合わなかった。気分の悪い時にはお勧めしない。

それぞれの俳優はむしろ頑張っている。特に、子役の塚尾桜雅の演技レベルは大人並みだ。少年がもつ純粋な目の輝きが際立つ。今後も子役として頻繁に起用されるだろう。「ブギウギ」のノリで趣里に期待した人は対照的な姿で肩透かしをくったかもしれない。でも趣里の演技にも見所があるし、森山未來もいつも通りでいい。瓦礫が残るこの町が回復していく姿をもう少し見られれば、少しは気が晴れたかもしれない。
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映画「愛にイナズマ」 松岡茉優&石井裕也

2023-10-29 17:10:22 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「愛にイナズマ」を映画館で観てきました。

映画「愛にイナズマ」は先日「月」を公開したばかりの石井裕也監督松岡茉優主演で描く新作ヒューマンドラマである。2作同時並行でつくったのだろうか?暗さの極致をゆく「月」とはタイプが違うのは予告編でわかる。ただ、松岡茉優や池松壮亮が大声をだしてケンカしているような印象はあまりよくない。

それでも、石井裕也のオリジナル脚本となると興味はわく。元妻満島ひかり主演の「川の底からこんにちは」で石井裕也監督を知ってから、作品によって好き嫌いがあっても追いかけている監督だ。先入観なく恐る恐る観にいく。

映画監督として名前がWikipediaにも載る折村花子(松岡茉優)は、プロデューサーの原(MEGUMI)の推薦で新作の監督を任せられる。新作は花子の実家について書いた脚本で映画歴の長い荒川(三浦貴大)が助監督につくことが決まる。ところが、花子のやり方に原と荒川がやたらとケチをつけるので、嫌気がさしている。そんな時花子は町を歩いていると、ケンカの仲裁に入ったのに殴られて倒れている男を見つけた。その後、バーでバッタリその男正夫(窪田正孝)に会う。正夫と同居する落合(仲野大賀)がたまたま花子の映画に出ることになっていて意気投合する。


その後、花子は自分のオリジナル脚本なのに監督を降ろされる始末に憤慨。実家の父親(佐藤浩市)に連絡して、実際の家族ドキュメンタリーとして映画を撮ろうと長い間疎遠だった長兄誠一(池松壮亮)や次兄雄二(若葉竜也)を呼び出し、正夫も連れて行ってカメラをまわす。

予想外によくできた作品だった。十分楽しめた。
予告編を観て良いなあと思った後、実際に観に行く。悪くはないけど期待ほどでもないことがある。昨年でいえば「ある男」や「死刑にいたる病」がそうだった。この映画は真逆で、予告編の期待を裏切ってよかった。出演者がよくわからずわめいていて家族再生の物語と想像できるけど、ごちゃごちゃしているなあと思っていた。自分と同じように感じてスルーした映画ファンがいれば悲劇だ。

基調になるのは松岡茉優演じる映画監督の成長物語である。前半戦は窪田正孝との出会いも語られるけど、ようやくチャンスをもらって這いあがろうとする健気な姿を映す。そこに石井裕也監督がたぶん実体験として感じてきた業界の暗部や映画づくりのエピソードを織り込む。これがリアルでいい。

主人公が葛藤する相手として、いやらしくMEGUMIや三浦友和のセガレを配置する。石井裕也が映画界で言われたことのあるイヤな言葉をセリフにしている感じがする。いじめられる松岡茉優応援したくなる気持ちになってくる。


加えて、コロナ禍で出没した道徳自警団的な少年を登場させたり、アベノマスクのことや飲食店が休業補償金でかえって潤う話などコロナ禍で経験したエピソードを盛り込む。われわれが昭和30年代の映画を観てこんなことあったんだと思うのと同じように後世の人たちはコロナ禍を振り返るかもしれない。

単なる家族再生の物語だけだったら、こんなにいいとは思わなかっただろう。映画界の裏話的要素が濃くでていい。だから退屈しない。池松壮亮や若葉竜也、佐藤浩市など石井裕也監督作品の常連をうまく脇に使って、監督と初コンビの松岡茉優と窪田正孝を引き立てる。いくつか疑問点はあっても満足できる。

⒈松岡茉優
花子は常にハンディカメラをもって外出先での一挙一動に目を配る。気がつくことがあると、左利きのペンでメモを走らせる。カッコいい。あとで何か使えることがあればと映画ネタをかき集める姿勢がいい。でも、家賃は滞納して督促がくるくらいの極貧生活だ。Wikipediaに映画監督として名前があっても、実質デビュー作。プロデューサーと助監督から、「あらゆる行為には理由がないとダメだ」と散々言われてめげるけど後がないから粘る

実家の父親とは疎遠。父から電話が来ても出ない。兄2人とは10年会っていない。それでも、自らの脚本で映画化が決まり準備していた監督を外されると、実家に乗りこみ、家族を撮っていくぞと父と兄にカメラを向ける。食肉工場で働いていた従順な正夫を実家に引き連れ挽回をはかる。思わず応援したくなる女の子だ。


働き方改革で日本人がみんな怠け者になりつつある中で、昨年の「ハケンアニメ」吉岡美帆のように仕事にがっつく女の子がメインになる映画って好きだ。

⒉池松壮亮
黒澤明に対する三船敏郎みたいな存在になりつつある石井裕也監督作品の常連だ。前半戦は松岡茉優の映画づくりに向けての話が中心で出番がない。今回は主役の兄役で脇に回るけど、後半に向けて徐々に存在感が高まる。池松壮亮は斜に構えた感じの会社社長秘書役で1500万するBMWを乗り回す見栄っ張り。妹の撮影になんで付き合うの?という感じから徐々に変わっていく。

主役のジャズピアニストを一人二役で演じる「黒鍵と白鍵のあいだ」が公開されたばかりだ。池松壮亮はピアノを練習して頑張ったにもかかわらず、残念ながら映画自体に欠点が多すぎた。しかも、一晩の話にしようとするのに無理があった。

ネタバレに近いが、最後に向けて池松壮亮の見せ場を用意する。個人的にはこのパフォーマンスを見て胸がスッとした


⒊佐藤浩市
今年は公開作多いなと思ったら、なんと8作目(Wikipediaでは9作)だ。自分より少し年下で同世代なのに頑張るねえ。殺し屋役だった「藤枝梅安2」では強い存在で恐怖感を増してくれた。おかげで映画に広がりができた。意外に流行らなかったが、自分は好きだ。

こうやって15年間ブログやっていると、佐藤浩市が主役を張った「KT」「ああ、春」なんて古い作品も取り上げている。三井住友信託銀行のCMなどで映画だけでなく露出度が高い。

もともと二枚目俳優なんだけど、「春に散る」「愛にイナズマ」いずれも白髪で登場して死にいたる病にかかっている設定だ。今回の方が、妻に逃げられて家族も近寄らず男一人で余生を過ごす情けない役。こんな役が続くと、同世代としては複雑な思いもする。ただ、家族の再生が実現しそうなのでまあいいか。


⒋窪田正孝と仲野大賀
食肉工場で働く飄々とした青年だ。ひょんなキッカケで花子と知り合う。地道に貯めたお金を金欠の花子に提供して、花子の思い通りに映画を撮らせてあげようとする。いわゆるいい人だ。宮沢りえが選挙に臨む「決戦は日曜日」の秘書役も宮沢りえの不始末を処理する良い人役で、気のいい奴って配役も多い。その反面で、「春に散る」では横浜流星と対決するアクティブなボクサーを演じた。斜に構えた男って池松壮亮が演じそうな役だったけど、うまくこなす。

石井裕也監督の「生きちゃった」で主役を演じた仲野大賀窪田正孝と同居する俳優志望の役だ。ただ、配役がもらえず結局自殺してしまう。この映画にはベテラン俳優の役で大賀の実父中野英雄も出演している。2人同時には出ないが、場面が近いので思わず唸った。石井裕也はあえて意識したのか?

中野英雄が自殺する証券マン役で出ていた「愛という名のもとに」は高視聴率で自分も見ていた。当時、バブル崩壊が表面化したころで、自分の後輩がいた大手證券ではバブル崩壊で住宅ローンが支払えない人が社内で百人単位で出たと言っていた。金利も現在より数倍高いし証券マン受難の時期だ。もっとも今のZ世代は生まれていないけど。
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映画「こいびとのみつけかた」 芋生悠

2023-10-28 07:10:33 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「こいびとのみつけかた」を映画館で観てきました。


映画「こいびとのみつけかた」は日本のラブコメディ映画。成田凌と清原果耶共演「まともじゃないのは君も一緒」監督前田弘二と脚本高田亮が再度コンビを組む。好きな映画なので、気になってしまう。主演2人はメジャーではないけど、ヒロインの芋生悠村上虹郎共演の「ソワレ」で素朴な田舎の女の子を演じた時の印象が残る。普通だったらスルーしそうなパターンだけど、名脚本家高田亮の存在も気になり早速映画館に向かう。

植木屋で働く杜和(倉悠貴)はコンビニの店員園子(芋生悠)のことがずっと気になっていた。どうやって接近したらいいかと妄想を巡らせる中、親方の大沢(川瀬陽太)や同僚の脇坂(奥野瑛太)に早く声をかけろよとせかされる。杜和に名案が浮かび、木の葉をコンビニからずっと一つずつ置いていく。園子が気づいて歩いていくと、公園で杜和が待っていた。そんなきっかけで2人は会うようになる。園子は何故か廃工場の片隅で1人で暮らしていた。ちょっと風変わりな杜和のことも園子が気に入ってくれたように見えたが。


いかにも低予算の質素なラブコメディだ。
清楚で可愛い芋生悠のような女の子がいつも通うコンビニにいたら、若い男子は誰しもときめくだろう。どうしようかと想う気持ちがうまく進まないのがこの手の映画には多い。でも、主人公の杜和がすぐあこがれの女の子と付き合えるようになる。おや、これってどう展開するのか?時間が余るぞとふと考えてしまう。

主人公は植木屋に勤めている。植木職人というより、剪定した葉っぱを拾ったり下働きだ。人とうまく話せないのを補うのか、ニュース記事の切り抜きをいつも持って突然相手に記事の話題を語る。レアアースがどうしたとか、グローバルな話題を唐突に持ち出す。場の雰囲気がまったく読めない。樹木の剪定に行ったお客様の家でもそんな話を奥さんにして、迷惑だと先輩に止められる。すると先輩に反発するのだ。自分がどうしておかしいのかわからない。

そんな主人公杜和を園子は嫌がらない。普通に受け止めるやさしい女の子だ。廃工場の中にいて、新聞紙を包んで人形を作ったりしている。変わり者同士気が合うという恋だ。「まともじゃないのは君も一緒」でも、成田凌を世間に疎い予備校教師という設定にして、お茶目な高校生の清原果耶とのチグハグなコンビを組ませていた。今回は主役の男女が両方変わっている。



結局、ある意外な事実がわかり急展開していく。ただ、そんなにビックリするほどのストーリーではない。気楽な短編小説を読んでいる感覚だ。芋生悠の魅力でギリギリもっている。最近は暗めの映画が多いので、普通にラブコメディをという気分には悪くない。

芋生悠が魅力的だ。こんなかわいい子と付き合えたら舞い上がっちゃうだろうなあ。「アナログ」波瑠がキレイだった。いわゆるご令嬢が着るような高そうな服を着て上品に話す。こういう子もいいけど、自分は芋生悠の普通ぽい清純さに魅了される。高校生が歌うようなさわやかな歌声で、自分の気持ちを歌詞にした歌を唄う。和歌山が舞台の「ソワレ」での素朴な感じ。その時よりキレイになった熊本出身である。宮崎美子、森高千里といった熊本出身の美少女は歳を重ねても魅力を失わない。同じようになってほしい前途有望な女優だ。


高田亮の脚本で「さよなら渓谷」「そこのみにて光輝く」そして「オーバーフェンス」自分のベストの中にはいる好きな作品だ。若くして亡くなった佐藤泰志の作品の映画化をはじめとして、原作のある作品を巧みに映画にまとめるのが上手。直近の阿部サダヲ主演「死刑にいたる病」も同様である。

「まともじゃないのは君も一緒」と今回の作品は一連の作品と若干タッチが違う。オリジナルのこれらの作品には世間ズレした変人の主人公を放つ。男女の際どいシーンがない。ラブコメディで楽しんでいる感じだ。ミニシアター作品には常連の宇野祥平、川瀬陽太、奥野瑛太に加えて前作の主演成田凌も含めて脇を固める。映画としては普通だが、後味は悪くない。
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映画「月」宮沢りえ&磯村勇斗&石井裕也

2023-10-19 18:11:48 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「月」を映画館で観てきました。


映画「月」は辺見庸の原作を石井裕也監督脚本で描いた新作である。原作は未読だが、神奈川の障がい者施設での殺傷事件をもとにしていることはわかる。障がい者施設で働く職員を宮沢りえ、磯村勇斗、二階堂ふみが演じて、オダギリジョーが宮沢りえの夫役となる。暗そうなイメージでどうしようかと思ったが、怖いもの見たさに映画館に向かう。底知れぬ暗さをもった作品であった。

重度障がい者施設で非正規雇用で働くことになった堂島洋子(宮沢りえ)は、著名な文学賞を受賞したこともある作家だった。夫(オダギリジョー)との間に障がいのある男の子がいたが、亡くなっていた。洋子はスランプに陥って書けなくなり、生活のために施設に職を求める。小説家志望の坪内陽子(二階堂ふみ)や絵を描くのが得意なさとくん(磯村勇斗)などの若者が施設の職員として障がい者たちの面倒を見る。

施設に入所してみると、障がい者の病気の度合いは想像以上にひどい。職員による虐待と思しき行為も見られる。さとくんはもともと面倒見がよかった。でも、周囲の患者たちへの行為を見るうちに、自力で生活のできない障がい者たちがこの世に存在すること自体良いのかと思い始めていた。

障がい者の扱いについて問題提起する重いムードの作品だった。
舞台となる重度障がい者施設は森の中にある。そもそも、重度でなくても障がい者施設は市街中心部にはない。映画のシーンで、夜暗くなってから仕事を終えて職員が帰ろうとするけど、真っ暗で大丈夫なの?と思ってしまう。暗い場所に蛇や小動物がいるのを月あかりだけで映す。室内の照明設計もホラー映画のような薄暗さだ。

俳優が障がい者になりきって演技する場面が中心でも、どこかの施設で撮った本物の障がい者を映し出す。家族の承諾はもらったのであろう。実際の患者を宮沢りえや二階堂ふみが面倒を見る一コマもあるので、リアル感が高まる。街の心療内科や精神科に通院する心の病にかかった一般の患者とはわけが違う。精神科患者のデイケア施設を描くドキュメンタリー映画「アダマン号に乗って」よりも症状はキツそうだ。入所して監禁されてから一気に悪化して、目で見ることも聞くことも身体を動かすこともできない患者もいる。扱いが難しい重度の患者だらけだ。


あの事件がもとになっているなら、結末は見えている。韓国映画だったら、大量虐殺もえげつなく表現するだろう。ここでは残虐性の程度は抑えている。この映画は、殺人に及んだ施設従業員の狂気を見せつけるだけがテーマではない。障がい者施設に勤める人たちが月給17万の安月給でいかに大変な仕事をしているかを執拗に見せつける。その実態を石井裕也監督は示したいのであろう。

狂ったような大声を出したり、言うことを聞かない障がい者に虐待におよぶシーンもある。重度障がい者の面倒はたいへんな仕事なので、あの大量殺人事件の犯人のように優生思想に陥ってしまう職員が出てきてしまうことまで訴えている。

狂気の世界に踏み込む男の役を演じる磯村勇斗は若手の売れっ子だ。最近は「最後まで行く」「渇水」「波紋」と続く。もともと宮沢りえが入所した時の表情は温和で、絵が得意で紙芝居を障がい者たちに見せたりする模範的な職員だった。オマエは面倒見すぎでやりすぎだと他の男性職員に迫られる。でも、途中から急変する。一気に優生思想に陥る。自分には変わり方が不自然にも見えた。最後に向けての強行シーンは「八つ墓村」の殺人鬼が夜襲におよぶシーンにダブる


宮沢りえ、二階堂ふみ、いずれの職員も心に闇がある。宮沢りえ夫妻の子どもは生まれながらに障がいがあり、3歳になって言葉が発せないうちに亡くなった。言葉を話せない障がい者が自らの子どもにだぶる懐妊がわかっても複雑な心境だ。40歳すぎての出産では障がい児を生む可能性があると中絶を考える。それが優生思想によって重度障がい者を始末する行為とダブって混乱する。二階堂ふみには父親からの虐待の事実がある。小説を書いても認められない。


登場人物の心の闇のエピソードと障がい者たちへの対応をつなげるシーンが多い。全部示さなくて時間を短縮した方がいいのかなとは感じた。それにしても、考えさせられる映画だった。磯村勇斗の彼女が聴覚障がいなのに運転して、できるの?と思っていたらどうやら可能になったようだ。初めて知った。個人的には飄々としたオダギリジョーのキャラクターに好感をもてた。救いがないわけではなかった。
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映画「BAD LANDS バッドランズ」安藤サクラ

2023-09-30 17:20:23 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「バッドランズ」を映画館で観てきました。


映画「BAD LANDS バッドランズ」は振込詐欺を描いた黒川博行の小説「勁草(けいそう)」の主人公を男性から女性に代えた安藤サクラ主演の新作映画だ。原田眞人監督の監督脚本である。予告編の時からアウトローで面白そうだなという雰囲気がにじみ出ていた。「ある男」「怪物」安藤サクラよりも予告編で見るようなクセのある女が見たかった。大阪が舞台である。裏社会が絡む世界はやっぱり大阪が似合う。安藤サクラは東京人だけど、周囲の俳優に関西出身者を集めているようだ。飽きずに140分盛りだくさんの内容である。

電話で振り込め詐欺の被害者を呼び出し、カネをおろさせて、金の授受の場所を指示して「受け子」が受けとる。振込め詐欺チーム戦だ。被害者の元を警察が尾行しているかどうかを見極めて判断するのがネリ(安藤サクラ)だ。一方で警察側も日野班長(江口のりこ)率いる特殊詐欺対策チームをつくって、佐竹刑事(吉原光夫)を中心に詐欺グループを摘発しようと躍起だ。

名簿屋高城(生瀬勝久)は表向きホームレスを救済するNPO法人を運営していながら、振込め詐欺の親玉である。裏社会にも政治家にもつながっている。西成の貧民宿舎には元ヤクザの曼荼羅(宇崎竜童)も住んでいる。生活保護や医療補助金でもらったお金を高木が吸い上げる。ネリは血のつながらない弟ジョー(山田涼介)とコンビを組んで貧困ビジネスにも手を染めている。


ジョーは裏の仕事を依頼する賭博場の胴元(サリngROCK)から仕事を依頼される。ネリが急用で不在になったときに手本引賭博で大きな穴をあけて借りをつくってしまい、危ない仕事に手を染めた後に予想もできない行動に出る。

これはおもしろい。安藤サクラが冴える。
いきなり特殊詐欺グループの親玉高城とネリが振込め詐欺でカネの受領に着手する場面からスタートする。銀行にいる被害者がTELの相手から大阪の銀行から難波、天王寺、中之島と大阪の主要エリアを転々と移される。ネリたちは身を隠しながら、チーム戦で被害者を罠に落とそうとする。あちらこちら行けば、被害者もおかしいと感じるのは普通と思いながら「受け手」を指示する安藤サクラが動く。これは成功しない。警察がキッチリ張っていたのだ。いきなり緊迫した場面が続き目が釘付けになる。同時に、特殊詐欺事件での詐欺側、警察側の動きを見せつける。


そもそも俳優二世で血筋もいい安藤サクラなのに、堅気の役柄より下層社会にルーツをもつ女の方が似合う。傑作「百円の恋」「0.5ミリ」もその類だ。ネリはもともと育ちがよくない。ギリギリのところで彷徨って生きてきた。機転が効いて悪知恵がはたらく。明らかに腕力が強い男が迫る危機一髪の場面になっても動じない。すごいヒロインだ。

普通だったら、安藤サクラのワンマンショーになってもおかしくない。でも、周囲もいい仕事をする。登場人物は多い。配役が適切で、それぞれの役割分担を短いシーンで示す。脚本が簡潔なのでわかりやすい。それらの人物を大阪の街に放つ。メインの繁華街だけでなく、猥雑な裏筋通りにもカメラを運ぶ。ギャンブル好きで有名な黒川博行の原作なだけに裏賭博の鉄火場や賭け麻雀の現場、競艇場なども映し出す。エリア描写がキッチリしていると映画のリアリティが高まる。


内田裕也亡き後、元ヤクザのならず者なんて役を演じられるのは宇崎竜童に限られていく。NPOの下層社会相手のアパートに住んで、しかも身体はボロボロだ。でも、肝心な時に安藤サクラをフォローする。信頼できる男だ。ダウンタウンの時代、阿木耀子と一緒に楽曲を提供した時代、映画をかじり始めた時代それぞれを思い出しながらいい役者になったと感動する。天童よしみ特殊詐欺組織の親玉に起用する。いかにも大阪のめんどくさいオバサンのキャラだけにピッタリくる。


弟役の山田涼介もチャランポランな最近のワル役がうまい。行動が極端で姉のネリが尻拭いをする。度胸よくのりこんでいくのに怖気づくシーンが笑える。最近流行の仮想通貨系青年実業家を演じる淵上泰史も最近のワルらしい風貌だ。裏社会としっかり繋がっている。高級個室で会食しながら妖しい女に性的遊戯を強制する。しかも、DVが半端じゃない。こんな感じのやつが世の中で悪いことをしているのかもしれない。

すごい存在感だったのがサリngROCKだ。初めて見るけど、裏社会の女そのもので見ようによってはカッコいい手本引の賭博が繰り広げられている鉄火場の胴元であるばかりでなく、チンピラをヒットマンに仕立て裏仕事を手配する。主要人物の動きなどの裏情報は誰よりも早く耳に入る。最後に向けても、金の精算で抜け目ないところを見せる。今後の活躍に期待だ。


江口のり子は自分が好きな女優だけど、ここではひょうひょうとした警察の係長を演じる。その下の吉原光夫演じる刑事がリーダー的存在だ。この映画は警察側の立場で特殊詐欺に対抗する動きを見せているのがいい。昨年「冬薔薇」が高評価だったが、警察側がまったく語られていないのが大きな欠点だった。「太陽がいっぱい」ヒッチコックの「見知らぬ乗客」を書いたパトリシアハイスミスは自らの著書で刑事ができる犯人への対処の暴力的限度は難しいと書いている。警察小説をいくつも書いている黒川博行なら信憑性ある警察の仕事を書けるかもしれない。

ラストシーンも良かった。いくつかのシーンでわれわれに迷彩を作ってわからないようにする。
これだけ悪いことをしても、主人公を応援したい気持ちにする。
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映画「ほつれる」 門脇麦

2023-09-13 17:08:20 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「ほつれる」を映画館で観てきました。


映画「ほつれる」は門脇麦が不倫していた主婦を演じる演劇畑の加藤拓也監督作品である。不倫していたと過去形にするのは、浮気相手が突然亡くなってしまうからである。

映画評は最悪、日経新聞は星2つだし、映画comも2.9と良くない。それでも観に行くのは門脇麦のファンだからである。前作「渇水」では売春まがいのことをしていて水道代を滞納するシングルマザーを演じた。主演ではないが、存在感があった。理由があるわけでない。ずっと追いかけてみたい女優である。映画館内はガラガラ、いつ公開打切りになってもおかしくない状況だった。

人妻の綿子(門脇麦)は夫に友人英梨(黒木華)と旅行に行くと夫(田村健太郎)にウソをいって木村(染谷将太)とキャンプに出かけていた。ところが、その帰路で木村は交通事故に遭う。綿子は救急車を呼ぼうとしたが、やめて自宅に戻る。夫との関係は冷めきっていたが、夫は修復しようとしていた。もともと木村は英梨を通じて知り合った。英梨より死亡の知らせを受けるが葬儀には参列しなかった。

それでも、綿子は木村のことが気になって仕方ない。英梨と一緒にまだお骨が納められていない山梨のお墓に向かう。夫との約束があったのに突然予定外の行動をとる綿子の動きに夫が疑いをもつようになる。


内容は普通、ストーリーには驚くような起伏はない。
低い点数をつける人の気持ちもわかる。
でも、門脇麦はよかった。現代版夫のいる不倫女になりきる。

夫がいながら不倫をしてしまっている若い女性を追いかける映画である。不倫にのめり込んでいるわけではない。熟女の不倫のような官能的な世界ではない。若い夫を騙して別の男に心を移す若い女性の揺れを門脇麦が巧みに演じる。ウソが重なり収拾がつかなくなる時もあると思うが、この手の女性は身近な男を騙すのが上手いので乗り切る。脚本の加藤拓也夫のある若い女性とつき合った経験があるのかもしれない。そういう女性を間近で見ないと書けない。


杉田水脈衆議院議員「女はいくらでもウソをつく」と言って、世間から強いパッシングを浴びた。(本人は否定しているが)でも、「それって当たっているんじゃない。」と思っている人は逆に多いと思う。大手をふっては誰も肯定しない。動物行動研究家で数多くのおもしろい本を書いている竹内久美子女史杉田の言葉は概ね本当だという。「うそをついている自覚がないのだから,挙動不審にもならず,見破られにくい。つまり,うそをつくのがうまいのだ。」(「ウェストがくびれた女は男心をお見通し」竹内久美子 pp.109-112)

「止められるか、俺たちを」若松孝二監督の助手を演じた門脇麦にグッと惹かれてから追いかけている。音楽をキーとしたロードムービー「さよならくちびる」や東京のハイソなご令嬢を演じた「あの子は貴族」は良かった。でも、自分には「止められるか」や本当は歌手になりたいストリップ嬢を演じた「浅草キッド」や売春行為で生きるシングルマザーを演じた「渇水」のような汚れて堕ちていく役柄に真骨頂を感じる。

ここでも、門脇麦「ウソをつく女」がもつ心の真実の揺れを表情で実にうまく見せてくれる。着実に成長しているのをみれるのはうれしい。本音を話した時の言葉の噴出が妙にリアルだ。演技の熟練度が増したのを見るだけでいいのでは。
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映画「こんにちは、母さん」 吉永小百合&山田洋次

2023-09-12 17:35:40 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「こんにちは、母さん」を映画館で観てきました。


映画「こんにちは、母さん」は9月13日で92歳になる山田洋次監督吉永小百合主演で東京向島を舞台に母と息子の交情を描いた作品である。自分にとって大先輩にあたる山田洋次監督は、沢田研二主演「キネマの神様」以来の監督作品である。吉永小百合ももう78歳、永野芽郁のおばあちゃん役だが信じられないくらいに若い。妖怪のようだ。今回は息子役に大泉洋を迎えて、いかにも山田洋次監督作品らしい人情劇としている。

大手会社の人事部長を務める神崎昭夫(大泉洋)は向島の足袋屋の息子だ。父は亡くなり家業は母福江(吉永小百合)が継いでいた。昭夫は妻と大学生の娘舞(永野芽郁)と暮らしていたが、現在別居中で舞は向島の家に入り浸っていた。
母は地元のご婦人たちとボランティアサークルでの活動に励んでいたが、牧師(寺尾聰)も一緒に活動している。実家に寄った昭夫が牧師に接する母親の様子がどこか違うと感じるのであった。

いかにも伝統的な松竹のホームドラマの肌合いだ。
東京スカイツリーを臨む隅田川の言問橋より北側の向島エリアが今回の舞台だ。地下鉄の本所吾妻橋駅から歩くのが普通の行き方か。向島芸者はいまだに数多くいる。両国の相撲取りを含めて着物を着る人たちの足袋の需要がないわけでない。映画では隅田川および周辺が繰り返し映し出される。東京らしい風景で趣きがある。

映画では、美しい未亡人の母の老いらくの恋、リストラで同期のクビを切らなければならない上に家庭不和の息子の苦悩が主な焦点だ。隅田川の岸辺にはホームレスで生活する人たちが大勢いて、そのうちの1人田中泯演じるホームレスをクローズアップする。


ただ、現状東京都の取り締まりで掘立て小屋で野宿するホームレスは大幅に減った。しかも、有効求人倍率がアップして、人手は足りないくらいだ。主人公昭夫のオフィスからは東京駅が見える。そんなロケーションのオフィスがある会社では、最近は以前のようなリストラはないはずだ。他にもリストラ者への通告や解雇の取り扱いなど映画を観ながら、ビジネスの世界にいる身で観ると、絶対おかしいと感じる場面はいくつもある。共同脚本の山田洋次も近年の世間の動きがわかっていないんじゃないかとも思っていた。

実は「こんにちは、母さん」は劇作家の永井愛2001年に作った戯曲である。2001年製作なら、その時点のリストラ状況やホームレスの実態をそのまま戯曲にしたのはよくわかる。でも、現代を基軸にすると、原作内容と変わっているので違和感を感じる。でも、吉永小百合と山田洋次が組むわけだから目をつむっても仕方ないでしょう。

⒈吉永小百合
日曜日の日経新聞を読むと、ギターリストの村治佳織吉永小百合と一緒に2人で海外旅行に行くエッセイが掲載されていた。優しい文章で吉永小百合の楽しむ様子が目に浮かぶ。読んでから颯爽と映画館に向かった。

映画ポスターに写る吉永小百合の表情がかわいい。でも、自分より一回り以上年上である。自分が物心ついた時すでに青春スターだった。地元五反田にも日活の映画館はあったが、両親は関心がなかった。「キューポラのある街」のジュン役から61年も経つ。あの時の少女が東京下町の片隅でこんな感じで育っていると考えても理に合う。川口から向島までは隅田川をたどれば決して遠くはない。

器用な俳優ではない。78歳になっても精一杯こなしている。素敵だ。サユリストと言われる世の男性の老人たちは、この映画で寺尾聰の手を握った時の吉永小百合をみてどう思ったか?気になる。それにしても、隅田川沿いで着こなした夏っぽい薄い水色の着物は良かったなあ。


⒉山田洋次
いかにも松竹のホームドラマっぽい映画を今回も撮り切った。90過ぎてのお仕事お疲れ様でした。映画では前半から松竹っぽいわざとらしいセリフが続く。リズムはゆっくりだ。ただ、山田洋次の作品だと思って観に来た観客は安心してこの世界に入れる。「男はつらいよ」シリーズの特に前期では、渥美清のスピード感あふれる口上でテンポはもう少し早かった。もともと喜劇中心だった山田洋次ミステリーに取り組んだ「霧の旗」という傑作がある。盟友倍賞千恵子悪女を演じて編集もよく、スピード感もある。

でも、90を過ぎた監督に、そんなスピード感を期待する方がどうかしている。吉永小百合という人智を超越した存在と自分が撮りたい作品を撮るという感じだ。もし、両国の花火が今年なかったらまずかったという山田洋次のインタビュー記事を見た。ホッとされたでしょう。完全復活とまでいかないがコロナ制約からの復帰を喜びたい。


⒊寺尾聰
後藤久美子が久々に登場した「寅さん」復帰の映画「男はつらいよ お帰り寅さん」を観た時、アレと思ったことがあった。後藤久美子の劇中の父親役は寺尾聰のはずだ。母親の夏木マリがいるのにどうしたんだろう?その時点で山田洋次、寺尾聰いずれも気にしていたと推察する。それが故での今回の出演だろうか?まあ吉永小百合の相手役の方がいいに決まっている。仏文科の大学教授を辞めて牧師になった設定だ。

寺尾聰が主役を張った中では時代劇の「雨あがる」が大好きだ。ひょうひょうとした雰囲気がいいけど、以前より出番は減った。最近周囲でカラオケタイムに寺尾聰の歌を歌う人が目立つ。大ヒットした「ルビーの指輪」が入っているRefrections には味のあるいい歌が多い。初っ端の「Havana Express 」のノリに身を任せると、勘定が予定外にエスカレートしてしまう。


⒋大泉洋
大泉洋といえば北海道だけど、今回は向島育ちの設定だ。主役的存在の「浅草キッド」は浅草が舞台だった。隣り合わせの向島と続き東京の下町が似合うようになってきた。現在50歳で実年齢相応の役柄だ。年齢差を考慮しても、吉永小百合の実子となってもおかしくない。大学の同窓同期の宮藤官九郎演じる課長がリストラになり、何とかしてくれとからまれる面倒な立場だ。リストラはする方もされる方もしんどい


山田洋次監督の作品は人情ものなので、普通だと冷徹そのものな野郎を人事部長に配役するが、そうはならない。観ると欠点が目立つ映画だけど、終了間際に急に涙腺が刺激された。何かよくわからない。まだまだ山田洋次監督には頑張ってもらいたい気持ちがあったのかもしれない。
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映画「バカ塗りの娘」 堀田真由&小林薫

2023-09-02 18:44:38 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「バカ塗りの娘」を映画館で観てきました。


映画「バカ塗りの娘」は青森県の伝統工芸である津軽塗の職人とその娘の物語である。初めて知ったが、塗っては研ぐを繰り返す手間のかかる手法で完成した漆器は美的感覚に優れている。監督は不思議な映画だった「まく子」鶴岡慧子で、津軽塗の職人に小林薫、その娘が堀田真由だ。弘前で家を借りて撮影された。青森を舞台にした映画は相性がよく、2021年の「いとみち」には特に感動した。津軽の岩木山をバックにした風景が実に美しい。ポスターを見て期待して早速映画館に向かう。

青森の弘前で伝統の津軽塗の工房を営む青木清史郎(小林薫)は、高校を出てからスーパーでパートをしながら仕事を手伝っている娘の美也子(堀田真由)と暮らしている。本来は坂東龍汰)が跡を継ぐのを父が希望していたが、結局美容師になってしまう。元妻も夫に愛想をつかして家を出ていった。美也子が津軽塗を真剣にやりたいと言っても父親は無理だというばかりだ。でも、美也子は廃校になった母校にあったピアノに津軽塗で色づけしようと本気を出して取り組む。


不器用な生き方をしていた23歳の女の子が、父親とともに郷土の工芸品づくりで身を立てようと奮闘する成長物語だ。好感がもてる。

先日観たばかりの「高野豆腐店の春」と物語の構造は類似している。地方の町を舞台にして、職人肌の父と娘が一緒に暮らして家業に取り組む。頑固オヤジの振る舞いに翻弄されながら、娘が父についていく姿を見るのは娘を持つ自分には親しみがある。そういえば、同じ青森が舞台の「いとみち」豊川悦司の父親と娘の物語だった。普通に父娘の交情を描いていくだけかと思ったら、若干意外な題材を組み込む。それがわかった時は思わず「え!」と声が出てしまった。

髙森美由紀の原作「ジャパン・ディグニティ」はあれど、プロデューサーと鶴岡慧子監督が数年かけて現地で津軽塗の世界を追求したのがよくわかる映像だ。小林薫と堀田真由も工房で津軽塗の漆器を実際に製作している。作品情報で津軽塗の解説を見ると、制作者の強い思い入れが感じられる。父娘が仕事する工房も実際に職工が使っている部屋なのでリアル感がある。岩木山はもとより、弘前内のレトロ感覚あふれる建物でのロケが随所に映るのもいい。


堀田真由はもしかして初めて観るかもしれない。映画のスタートで自転車を走らせる堀田真由をカメラが追い続けるシーンがある。さわやかで清々しい。不器用に生きている姿をスーパーでオロオロする場面などで示す。でも、青森の田舎にこんなにかわいい子はそうはいないと思う。普通だったら放っておかないだろう。ちょっとかわいすぎる。想いを寄せる花屋で働く男との関係が意外な展開になるのには自分も驚いた。

小林薫の出演作はよく観ている。今回は津軽塗の職工だ。地方都市の職人肌で熟練を要する仕事に長い間携わった頑固オヤジという役柄が多くなった。「深夜食堂」の店主だけでなく、昨年も「冬薔薇」の船乗りや「とべない風船」の元教師役などに味があった。青森弁の習得に苦労したとは作品情報での本人弁だ。確かに地元民が話す青森弁は普通の日本人が聞いてよくわからないだから気持ちはよくわかる。


美也子が慕うオバさんにこれまた出演作が多い名脇役木野花で、どうも青森県出身らしい。小林薫みたいには苦労しなかっただろう。家を飛び出した兄を演じるのが坂東龍汰だ。つい最近観たばかりの「春に散る」に出ていることを知り、横浜流星が世界戦の前哨戦で闘う相手ボクサー役だと映画が終わって気づきギャップに驚いた。
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映画「リボルバーリリー」 綾瀬はるか

2023-08-13 16:34:48 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「リボルバーリリー」を映画館で観てきました。


映画「リボルバーリリー」は大正末期の1924年(大正13年)を舞台にした秘密諜報機関の元女性工作員にスポットを当てる映画である。綾瀬はるかが工作員を演じて、行定勲がメガホンをとる長浦京の原作の映画化である。予告編で見ると綾瀬はるかの動きがアクション俳優としてサマになっている。

元工作員リリーこと百合(綾瀬はるか)は50人以上の殺しを請け負っていたスナイパーだったが、今は足を洗って玉ノ井のサロンで静かにしていた。ところが、旧知の男性が秩父で亡くなった新聞記事を見て現地に向かった。帰りの列車で陸軍兵士に追われている少年慎太(羽村仁成)を匿う。少年は身内を殺されて逃げる途中で、玉ノ井の百合に渡すように父親から書類を預かっていた。そこには陸軍が知りたかった隠密資金の情報が書いてあった。東京に戻ろうとするが、陸軍の部隊は執拗にリリーと少年を追う。


出演者は豪華で、常に窮地に追われる綾瀬はるかのアクションはカッコいい。
映画が始まって1時間以上経って初めてある事実がわかる。ストーリーに深みがでてくる。気の利いた推理小説のようだ。ただ、状況設定に無理がある部分が多いのが欠点だ。

陸軍中野学校をはじめとして、秘密諜報員を国家で育成していたのは間違いない。ここでは幣原機関という名前を使って女性工作員を登場させる。それ自体は悪くない。格闘能力にも優れて、銃を操り爆破装置の知識もある。ひと時代前だと志穂美悦子なんかを登場させた感じだ。最近の日本映画では少ない設定なので新鮮だ。

日本映画では比較的予算はある方なのであろう。東映製作なのでセットも利用できる。大正12年の関東大震災を経て一年たった東京の浅草六区と思しき芝居小屋や都電が走る上野広小路や娼婦が呼び込みをする猥雑な玉ノ井などを再現する。震災で壊滅状態の東京が1年でここまで復興されたかは疑問だけど、まあいいだろう。この時代にはすでに開通していた秩父鉄道の荒川橋梁陸海軍の本部や執務室などもきっちり映し出す。海軍の本部を映すVFXを使った映像もよく、背景の映像はよくできている方だ。


同時に配役も豪華だ。味方も敵も好配役だ。
百合に好意を寄せる海軍兵学校出の弁護士が長谷川勝己だ。玉ノ井のサロンにいる女性にシシドカフカと古川琴音を起用する。銃も扱う謎の女は鼻筋がきれいな美形だ。一体何者なのか?最初は永井荷風の濹東綺譚を映画化した時の墨田ゆきに見えてしまった。シシドカフカという名は初めて知った。


「街の上で」や「偶然と想像」で重要な役割を演じたので古川琴音はすぐわかった。実年齢より10歳若い役柄だけど、個性派俳優らしく巧みに10代の娼婦を演じる。


海軍大佐の山本五十六阿部サダヲを起用して、文書の謎を握る男が豊川悦司で、リリーが依頼するドレスの仕立て屋の店主に野村萬斎とぜいたくな使い方をする。山本五十六は実際小柄だったらしい。

リリーをおとしめようとする陸軍の男たちの使い方も上手い。不穏な雰囲気をだしてうまかったのが、「さがす」凶悪犯人を演じた清水尋也で、リリーと何度も格闘対決する。主人公が葛藤する相手は強くないといけない。他にも同じく「さがす」佐藤二朗や、内務官僚の吹越満など登場人物がうまく配置されている。


ただ、設定にはかなり無理がある。(ここからネタバレなので注意)
海軍と比較して、陸軍の軍人を悪くいうのは戦後の日本映画ではよくあることだ。ただ、ちょっとやりすぎかもしれない。陸軍がかなり無能な存在になっているのが気になる。軍人たちがリリーたちに銃を向ける場面が何度も出てくる。しかも、大勢の射撃手がいるのに、撃ち崩せない。おいおいここまで日本陸軍をバカにすることはないだろう。

長谷川博己演じる弁護士が内務省に逮捕されて匿われている時にスキを見て逃げ出すシーンもあり得るかと感じてしまう。戦前の内務省は現在の自治省や総務省などいくつもの官庁と警察組織も含んだ強い権限を持つ組織で、いわゆる特高の組織まで含まれる。そんなに易々と逃げていけるわけがない。しかも、あなただけと言って内務省の役人が内密の話をするのもおかしい。もっとも原作の問題だろうけど、戦前の日本をバカにしすぎだ。


あとはリリーが不死身すぎるということ。主人公が頑強であらゆる困難を克服するというのは物語の定石だろうけど、圧倒的に強い相手に胸を繰り返し刺されているのにそのまま生き延びられるのであろうか?その場で死んでもおかしくない。事実、ミッションインポッシブルの最新作では同じように胸を刺されて重要人物が亡くなっている。刺された後で格闘なんてできるわけない。これでは人智を超えた世界だ。オーバーな表現は必要でもちょっとやりすぎ?と感じてしまう。
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映画「セフレの品格 決意」

2023-08-05 07:47:20 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「セフレの品格 決意」を映画館で観てきました。


映画「セフレの品格 決意」は湊よりこ原作の人気レディースコミック「セフレの品格」の実写化で前回の続編である。引き続き城定秀夫監督、主演行平あい佳のコンビは変わらない。原作はいまだ観ていないが、1作目はデートもしない、恋に落ちないでただただ交わる。そんな設定が新鮮に見えた。城定秀夫監督の演出もよく十分堪能できた。2作目はどうなるのか楽しみだった。


バツ2のシングルマザー抄子(行平あい佳)は高校の同級生産婦人科医一樹(青柳翔)とのセフレ関係は相変わらず続いていた。そんな時、17歳にして望まぬ妊娠をした咲(高石あかり)が一樹の診療所に堕しにくるが、相手の合意書や親の同意がないとできないと断る。ある時、町で咲が自虐的行為に陥っているのを偶然見て、いったん一樹が家に引きとる。抄子は咲の存在に驚くが、娘のような咲をかわいがる。しかし、咲は好意をもった一樹に近い抄子が気に入らず大胆な行為にでてしまう。


そこで抄子はいったん身を引く。そんな時、会社の用務員的存在だった猛(石橋侑大)と近づく。猛は抄子よりずっと年下の23歳でボクサーだった。抄子は若い猛に一樹と同じような関係を提案する。

一作目のようにはのれなかった。
ストーリーが昼メロみたいだ。無理やり不自然なストーリーをつくっているように見える。新たな登場人物を2人加えるけど、ボクサーの猛はいいけど、17歳の咲が中途半端である。猛はボクサーとしての荒々しさで抄子と交わる。未成年の17歳の設定にしてしまったせいか、咲を脱がすわけにはいかない


結局、脱がすのは主人公の抄子だけになってしまうのはロマンポルノとしては物足りなさを呼ぶ。主演の行平あい佳自体は悪くないし、本格的ボクシングスタイルの石橋侑大もいい。ただただ、純粋なにっかつポルノに寄りきれていない展開がのれなかった。
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映画「658km 陽子の旅」 菊地凛子

2023-07-30 22:38:37 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「658km 陽子の旅」を映画館で観てきました。


映画「658km 陽子の旅」菊地凛子上海国際映画祭で主演女優賞を受賞した作品である。監督は熊切和嘉「夏の終り」「私の男」など連続していい作品を作ってきたが、今回久々に彼の作品を観る。疎遠だった父親が亡くなり東京から青森までヒッチハイクで向かうロードムービーだということは事前情報でわかる。ストーリーは何となく想像できるが、菊地凛子の演技が気になり映画館に向かう。この映画の菊地凛子は疲れている役柄だけど、近況の姿はすごくきれいになった感がある。

東京の古いアパートで引きこもり気味に1人住む42歳のフリーター陽子(菊地凛子)の元を従兄弟の茂(竹原ピストル)が、青森にいる陽子の父親が亡くなったと伝えにくる。陽子は呆然とするが、一緒に車で青森に向かおうと茂にいやいや引っ張られ同乗する。

ところが、高速のサービスエリアでの休憩中に、茂の子どもがトラブルに巻き込まれてその場を一時離れる。トラブルが起きた時に別の場所にいた陽子のスマホは使えない状態になっていた。茂の車が自分を置いて先に行ってしまったと思い、駐車中の車に北の方面に行ってくれと頼む。

主人公は最初からヒッチハイクで青森へ行こうとするわけではない。高速のサービスエリアで置いて行かれてしまうのだ。しかも、スマホもないし、所持金は2000円足らずだ。やむなく、誰かの車に同乗せざるを得なくなるのだ。


典型的なロードムービーで、青森に向かう菊地凛子をひたすら追う映画である。出ずっぱりの菊地凛子は東京のアパートに引きこもりに近い状況である。人との関わりがなくなって他人とのコミュニケーションがうまくとれない。ヒッチハイクで同乗した人ともうまく話せない。そんな状況をうまく演じている。そこにファンタジー的にあの世に行ったオヤジ役のオダギリジョーがからむ。これも趣きがある。


ただ、脚本は欠点だらけだ。青森に送っていく従兄弟とハグれないとストーリーが成立しないのはわかるけど別れ方の設定が強引すぎるし、菊地凛子が携帯持っていないのがわかっていての従兄弟の行動ではない。当初人との会話ができない菊地凛子の表情に途中から変化がみれるのはわかるけど、何か不自然にみえる。ロードムービー特有の色んな人との出会いも強引な流れが目立つ。時間が2日くらいあるならともかく、一晩の設定ではこれだけの出会いと移動はキツすぎる。

自分は福島から東北青森方面に運転したことあるからわかるけど、高速だけでなく下道も走るのにこんな早く明るいうちに着くわけない。しかも、福島の海側からだ。


それでも、「私の男」で雪景色を美しく映した熊切和嘉監督北国を撮るのはうまい。ラストで撮った菊地凛子とそれを取り巻く雪が積もるショットはよく見えた。余韻をもった素敵なラストだと思う。
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