映画とライフデザイン

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映画「怪物」 是枝裕和&坂元裕二

2023-06-04 17:35:12 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「怪物」を映画館で観てきました。


映画「怪物」は是枝裕和監督の新作で、今年のカンヌ映画祭で坂元裕二が脚本賞を受賞した作品である。それ相応の出来は期待できる。予告編では安藤サクラがモンスターペアレントのように学校で文句を言うシーンがクローズアップされる。一方で、教員が謝る場面があって子供の喧嘩がきっかけなのに何で先生が悪いの?という印象を受ける。いずれにせよ、何かしらのトラブルがあるのだろう。そんな先入観で映画館に向かう。実際には、予想とは違う展開で進む。


シングルマザー早織(安藤サクラ)の小学5年生の息子湊の様子が泥だらけのくつを履いていたりして何かおかしい。誰かにいじめられているのではと問い詰めると、保利先生(永山瑛太)に暴言を吐かれて、暴力も振るわれたと告白し、早織は学校に怒鳴り込む。校長(田中裕子)と他の先生が対応する。結局担任は謝っているが、どこかおかしい。

上記場面が展開した後で、保利先生とその彼女にカメラのフォーカスをあてて、クラス内外で起きたいくつかの事実と職員室内部でのやりとりを追いかけていく。実は保利先生もはめられていたのだ。


構成力に優れた作品である。
予告編では子ども同士のケンカがきっかけとなっている。でも、その場面はしばらくは出てこない。息子の様子が変なので、母親が問い詰めて先生のせいだと告白する場面で安藤サクラがエスカレートする。怒鳴り込む母親に謝る教師たちがオタオタしている。でも、何かおかしい。真実は別にありそうだ。


黒澤明の映画「羅生門」を連想するというコメントもあったが、若干違う。「羅生門」のように真相に対して、それぞれの立場で証言を述べるということではない。三船敏郎や京マチ子、森雅之の証言にはウソも混じった部分がある。ここでは、母親と担任の先生それぞれの視線に近い立場から淡々と真実を追っていくだけだ。ウソを言っている人はいる。先生の立場で教育委員会を気にする発言もある。でも映像自体は真実だ。

起きた事実を視線を変えてゆったりと映画の中で追っていく。時間軸をかえて物語の焦点を少しずつずらすのがうまい脚本だ。坂元裕二の脚本には観客に別のことを想像させようとする巧みさがある。

その流れは極めて自然で、脚本の順番は完璧に構成されている。ベースに流れるものは深い。でも、いちばんのポイントはイジメだ。このイジメにも迷彩がほどこされている。いじめられている子と親しいのを隠そうとする行為である。気の合う奴なんだけど、みんなにはそう見られたくない。個人的葛藤が起こる。目線を一気に小中学生時代まで落とすとこんなことあったのかもと思う。映画を観ながら、すっかり忘れていた小中学校生活を思い出した。


安藤サクラがクレジットトップだが、田中裕子含めてさすがの芸達者もこの映画では特筆すべきところがない。あくまで主演は少年2人だ。特に背の小さい子役柊木陽太に好感をもった。いじめられッ子だ。素直な感じがいい。

構成力にはすぐれている作品でも、廃線になった車両で子ども2人だけが遊ぶ時若干長めで緩慢にしすぎと感じた場面もあり、最後に向けてのツメが甘い気もした。これでおしまいと納得できる感じがしない。冒頭にあった火事というのはいくつかの映像で伏線を回収したということなのか?疑いの火の粉は中途半端では?さすがに、カンヌのパルムドールとまでは及ばないとの自分なりの感触を持つ。故坂本龍一の音楽は胸にジーンと響く素晴らしい曲だった。

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