映画とライフデザイン

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映画「一月の声に歓びを刻め」 カルーセル麻紀&前田敦子&三島有紀子

2024-02-12 17:36:38 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「一月の声に歓びを刻め」を映画館で観てきました。


映画「一月の声に歓びを刻め」は女流監督の三島有紀子が、幼児時代の性暴力体験に関するトラウマに基づき企画した作品だ。一線級の俳優が集まり、北海道、八丈島、大阪で3本の短編映画を撮る。三島有紀子監督の「幼な子われらに生まれ」荒井晴彦の脚本ということもあってか実に良かった。ただ、その後の監督作品「ビブリア古書堂の事件手帖」「Red」はストーリー自体に気にくわない場面があった。何気なく見たこのポスターの名前にカルーセル麻紀とある。ずいぶん久しぶりだなあと感じつつ映画館に向かう。

雪降り積もる洞爺湖の湖畔の家で一人暮らすマキ(カルーセル麻紀)が長女(片岡礼子)夫婦と孫と4人でおせち料理を食べながら新年を祝う。しかし、会話にはわだかまりがある。それは6歳で性暴力を受けて亡くなった次女の存在があったからだ。父親はその後性転換して女性になっていた。 

八丈島で牛飼いをしている誠(哀川翔)のもとに娘の海(松本妃代)が5年ぶりに帰郷した。妻は交通事故で亡くなっている。海はお腹が大きくて妊娠しているようだが、何も言わない。ただ、海岸で一人泣いていて海の様子がおかしい。誠が海のいない部屋に⼊ると⼿紙に同封された離婚届を見つけてしまう。


大阪の堂島、れいこ(前田敦子)は元恋人の葬儀出席で大阪に戻る。葬式帰り、鉄橋の下で悶々としていると、レンタル彼氏をしている男(坂東龍汰)に誘われる。名刺の名前に吸い寄せられそのまま男とホテルに入っていく。そこで、幼少期性暴力にあったトラウマで元恋人と向き合いきれなかった自分を回顧する。


久々に観たカルーセル麻紀の怪演に圧倒される。必見だ。
洞爺湖周りの雪景色が美しく、湖畔の家での家族の団欒のシーンでは、きめ細かくおせち料理の数々が美しく映し出される。老いてグレーヘアの少し変貌したカルーセル麻紀宇野祥平、片岡礼子との食卓での立ち回りがどこかおかしい。亡くなった片岡礼子の妹の存在は徐々にわかっていく。女性として生きてきた父親を、娘は今も受け入れていない。ツライ親子関係だ。

家族が帰った後カルーセル麻紀が一人で次女を憂うシーンや一気にニューハーフ系の濃い化粧に化けるシーン、雪降り積もる湖畔を歩きながら嘆き悲しむシーンが圧巻だ。10年ぶりの映画出演だというカルーセル麻紀が各種主演女優賞を受賞してもいいと感じる。改めて1942年生まれと確認して驚く。なぜなら、彼女と同世代の自分の元上司が近年次々と亡くなっているからだ。今の若い人はカルーセル麻紀を知っているだろうか。


自分が小学生の頃、当時はオトコ女なんて言われていたカルーセル麻紀はレアな存在だった。親に隠れてこっそり見るエロ系番組では常連で、TVのショーでスカートをハサミで切られる場面が50年以上たつけど脳裏に浮かぶ。モロッコでアソコを切った後、何かというとTVで見かけた日本のニューハーフのはしりだ。今回はカルーセル麻紀に出演をオーダーした三島有紀子のキャスティングの勝利であろう。すごい!

八丈島の物語は、5年ぶりに実家に帰ってきた娘が懐妊していて、その娘が結婚したことも親に告げずに離婚届を持ってきて慌てるという話だ。ちょっとした短編小説を読んだような後味をもつ。ここでの八丈島とその周囲を映し出すカメラワークは抜群で、じっくり映像素材になるシーンをストックするために長く島に滞在した感じがする。三島有紀子監督の映像センスを感じる。


三島有紀子自らの体験にダブらせるのは三島の故郷大阪を舞台に前田敦子が演じる短編だ。作品情報を読むと、大阪を舞台にした同作のロケハンで三島有紀子が訪れた場所で、偶然事件の犯行現場に遭遇したらしい。これもすごい話だ。そこで自身の過去を映画にすることを決意したようだ。

この映画だけモノクロだ。何か意味があるんだろう。やたらとを映すが、女性器を連想させるため?前田敦子がこの映画ではメインなんだろうが、正直なところこの短編がすごく良いとまで思わなかった昔の哀しみを表現するための長回しは三島有紀子自らの考えだろうが、ちょっと間延びした印象を持った。


カルーセル麻紀が雪の中演技し終わった後で太地喜和子から声をかけられたそうだ。人智を超えた記事があった。大酒のみの仲間だったのだろう。こんな台詞がカルーセル麻紀は似合う。なぜか昭和の怪優が復活した。一世一代の芝居だ。

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