映画とライフデザイン

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映画「月」宮沢りえ&磯村勇斗&石井裕也

2023-10-19 18:11:48 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「月」を映画館で観てきました。


映画「月」は辺見庸の原作を石井裕也監督脚本で描いた新作である。原作は未読だが、神奈川の障がい者施設での殺傷事件をもとにしていることはわかる。障がい者施設で働く職員を宮沢りえ、磯村勇斗、二階堂ふみが演じて、オダギリジョーが宮沢りえの夫役となる。暗そうなイメージでどうしようかと思ったが、怖いもの見たさに映画館に向かう。底知れぬ暗さをもった作品であった。

重度障がい者施設で非正規雇用で働くことになった堂島洋子(宮沢りえ)は、著名な文学賞を受賞したこともある作家だった。夫(オダギリジョー)との間に障がいのある男の子がいたが、亡くなっていた。洋子はスランプに陥って書けなくなり、生活のために施設に職を求める。小説家志望の坪内陽子(二階堂ふみ)や絵を描くのが得意なさとくん(磯村勇斗)などの若者が施設の職員として障がい者たちの面倒を見る。

施設に入所してみると、障がい者の病気の度合いは想像以上にひどい。職員による虐待と思しき行為も見られる。さとくんはもともと面倒見がよかった。でも、周囲の患者たちへの行為を見るうちに、自力で生活のできない障がい者たちがこの世に存在すること自体良いのかと思い始めていた。

障がい者の扱いについて問題提起する重いムードの作品だった。
舞台となる重度障がい者施設は森の中にある。そもそも、重度でなくても障がい者施設は市街中心部にはない。映画のシーンで、夜暗くなってから仕事を終えて職員が帰ろうとするけど、真っ暗で大丈夫なの?と思ってしまう。暗い場所に蛇や小動物がいるのを月あかりだけで映す。室内の照明設計もホラー映画のような薄暗さだ。

俳優が障がい者になりきって演技する場面が中心でも、どこかの施設で撮った本物の障がい者を映し出す。家族の承諾はもらったのであろう。実際の患者を宮沢りえや二階堂ふみが面倒を見る一コマもあるので、リアル感が高まる。街の心療内科や精神科に通院する心の病にかかった一般の患者とはわけが違う。精神科患者のデイケア施設を描くドキュメンタリー映画「アダマン号に乗って」よりも症状はキツそうだ。入所して監禁されてから一気に悪化して、目で見ることも聞くことも身体を動かすこともできない患者もいる。扱いが難しい重度の患者だらけだ。


あの事件がもとになっているなら、結末は見えている。韓国映画だったら、大量虐殺もえげつなく表現するだろう。ここでは残虐性の程度は抑えている。この映画は、殺人に及んだ施設従業員の狂気を見せつけるだけがテーマではない。障がい者施設に勤める人たちが月給17万の安月給でいかに大変な仕事をしているかを執拗に見せつける。その実態を石井裕也監督は示したいのであろう。

狂ったような大声を出したり、言うことを聞かない障がい者に虐待におよぶシーンもある。重度障がい者の面倒はたいへんな仕事なので、あの大量殺人事件の犯人のように優生思想に陥ってしまう職員が出てきてしまうことまで訴えている。

狂気の世界に踏み込む男の役を演じる磯村勇斗は若手の売れっ子だ。最近は「最後まで行く」「渇水」「波紋」と続く。もともと宮沢りえが入所した時の表情は温和で、絵が得意で紙芝居を障がい者たちに見せたりする模範的な職員だった。オマエは面倒見すぎでやりすぎだと他の男性職員に迫られる。でも、途中から急変する。一気に優生思想に陥る。自分には変わり方が不自然にも見えた。最後に向けての強行シーンは「八つ墓村」の殺人鬼が夜襲におよぶシーンにダブる


宮沢りえ、二階堂ふみ、いずれの職員も心に闇がある。宮沢りえ夫妻の子どもは生まれながらに障がいがあり、3歳になって言葉が発せないうちに亡くなった。言葉を話せない障がい者が自らの子どもにだぶる懐妊がわかっても複雑な心境だ。40歳すぎての出産では障がい児を生む可能性があると中絶を考える。それが優生思想によって重度障がい者を始末する行為とダブって混乱する。二階堂ふみには父親からの虐待の事実がある。小説を書いても認められない。


登場人物の心の闇のエピソードと障がい者たちへの対応をつなげるシーンが多い。全部示さなくて時間を短縮した方がいいのかなとは感じた。それにしても、考えさせられる映画だった。磯村勇斗の彼女が聴覚障がいなのに運転して、できるの?と思っていたらどうやら可能になったようだ。初めて知った。個人的には飄々としたオダギリジョーのキャラクターに好感をもてた。救いがないわけではなかった。

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