★ このチベットには、神さまが天上でテンビンを持っているという迷信がある。テンビンの両端の受け皿には幸運と不運が乗るようになっていて、不運が積み重なって重くなれば、それとバランスを取るように幸運の受け皿におもしが乗っかるというのである。そしてその逆の場合もある。ひょっとするとこれは迷信というようなものではなく、人の行動原理をつぶさに観察した上での一つのテーゼであるのかも知れないと思った。
★ 空を見る。
テンビンを持った透明な神がいる。幸運の受け皿に、今、ドスンと重しが乗っけられたところだ。そう思いたい・・・・・・。
★ 巨大な空だ。おそろしく深く透明な紺碧が頭上にある。ふと、こんなに透明な空を見るという幸福も不幸の一つの現われであろうか、と想う。この先、下界に降りて、いかなる土地で見る素晴らしく晴れた空も、一生私の眼には濁ったものとしか映らないだろう。
<藤原新也『全東洋街道』>
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