Don't Let Me Down

日々の雑感、引用。
言葉とイメージと音から喚起されるもの。

“終わり”と“始まり”(パート1)

2010-04-12 18:03:23 | 日記


どうもこのところ頭がすっきりしないのは、天候のせいか、ぼくだけなのかもしれないが、ここである“基礎的なこと”を考える、ひとつの手がかりを引用したい。

これが、“基礎的ベーシック”であるのは、それが岩波新書という、きわめて“正統的な”新書として刊行されたからである。
だから、すでにこの新書を読んだ人も多いだろうから、それらの方々にはこのブログは不要である。
また、現在においても、“岩波書店は偏向している”と言うひとがいるようであるが(この本についてではないが、Amazonで岩波の本についてのそういう書込みを見た)、そういうひとは、偏見をすてて(笑)読んでいただきたい。

別にぼくは岩波の本とか岩波新書が、“正しいことのみ”を言っていると言っているのではない、あくまで“ベーシックな認識”と言っている。

とにかく、だれが読まなくても、自分の頭を整理したい。
引用開始;

★ 社会的なリアリティの変容という面でいうならば、「戦後」社会から「ポスト戦後」社会への転換は、見田宗介が「理想」および「夢」の時代と名づけた段階から、「虚構」の時代と名づけた段階への転換に対応している。見田によれば、1945年から60年頃までのプレ高度成長の時代のリアリティ感覚は、「理想」(社会主義であれ、アメリカ流の物質的な豊かさであれ)を現実化することに向かっており、その後も70年代初めまで、実際に実現した物質的豊かさに違和感を覚えながらも、若者たちは現実の彼方にある「夢」を追い求め続けた。しかし、80年代以降の日本社会のリアリティ感覚は、もはやそうした「現実」とその彼方にあるべき何ものかとの緊張関係が失われた「虚構」の地平で営まれるようになる。この時代の人びとの生活を特徴づけていくのは、「リアリティの「脱臭」に向けて浮遊する<虚構>の言説であり、表現であり、また生の技法であった」(見田宗介)

★ 見田が指摘した「戦後」から「ポスト戦後」への移行のなかでのリアリティの成立平面の転換は、本書のなかの多くの事例において検証されていくことになろう。都市空間の面で「夢」の時代を象徴したのが、1958年に完成した東京タワーであったとするならば、「虚構」の時代を象徴するのは、間違いなく83年に開園した東京ディズニーランドである。

★ そして、東京タワーに集団就職で上京したての頃に上り、眼下のプリンスホテルの芝生やプールのまばゆさを脳裏に焼き付けていた少年永山則夫は、68年秋、そのプールサイドに侵入したのをガードマンに見つかったところから連続ピストル射殺事件を起こしていく。永山の犯罪は、「夢」の時代の陰画、大衆的な「夢」の実現から排除された者の「夢」破れての軌跡の結末であった。これに対し、この事件の20年後に起きた宮崎勤による連続幼女誘拐殺人事件では、殺人そのものが現実的な回路が失われた「虚構」の感覚のなかで実行されている。

★ このようなリアリティの存立面の対照は、若者たちによって引き起こされていった社会的事件にも認めることができる。「夢」の時代が内包する自己否定的な契機を極限まで推し進めたのが1971年から72年にかけての連合赤軍事件であったなら、90年代、「虚構」の時代のリアリティ感覚を極限まで推し進めていったところで生じたのは、オウム真理教事件であった。見田や大澤真幸の議論を受けて本書も論じるように、これらの事件の対照には、「戦後」と「ポスト戦後」の間でのリアリティの位相の転換が、集約的なかたちで示されている。

★ 70年代以降、私たちの生活の存立機制が、「虚構」としか言いようのない地平に転移したのは、重化学工業から情報サービス産業への重点シフトといった産業体制の転換に対応する出来事であった。そうした変化のなかで人びとは、「重厚長大」よりも「軽薄短小」に、つまり重くて大きいものよりも軽くて小さいものに大きな価値を置くようになっていった。

★ 70年代に起きた主だった変化を生活に近いレベルから挙げていくならば、まずは核家族化から少子高齢化へ、都市化から郊外化へといった変化が注目される。高度成長期を通じ、日本社会は農村から都市への人口集中が進み、これは過疎・過密問題として現れていた。
しかし、70年代の過渡期を経て顕著になっていくのは、都市化より郊外化、つまり巨大な大都市<郊外>に都市も農村も呑み込まれていく現象だった。郊外化が進むなかで核家族の高齢化が進み、やがて少子化がこれに追い打ちをかけながら家族の平均的なあり方を変化させる。一連の法的整備により女性の雇用は見かけ上は拡大し、70年代まで一般的だった「専業主婦」は、90年代以降はより多様な家族の性別役割へと変化した。

(上のブログにつづく)




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