★ <異人>はわたしたちにとって、遠/近の両義的なありかたをしめす人々、いわば<漂泊>/<定住>のはざまに生きる人々である。しかし、<漂泊>と<定住>という対概念を、たんなる物理空間的な関係の位相からのみとらえてはならない。それはむしろ、共同体の内/外を往還する運動の軌跡であり、そこにたえまなく生起する<交通>の物語である。
★秩序の周辺部に疎外された者、または“社会的欄外者”(M.メルロー=ポンティ『眼と精神』)をおびた者はしばしば、潜在的な遍歴者という象徴的な、ときには現実的な役割をあたえられる。秩序の周縁というマージナルな場所は、外部にたいしては内側・内部にたいしては外側を意味しており、遠/近・または<漂泊>/<定住>の両義性にひたされた空間といえる。境界的な領域に生きる人々が、往々にして潜在的な遍歴者の相貌を呈するのは、むろんそのためである。したがって、ここに<異人>の第4の種別をたてておかなければならない。
④秩序の周辺部に位置づけられたマージナル・マン
狂人・精神病者・身体障害者・非行少年・犯罪者・変人・怠け者(労働忌避者ないし不適格者)・兵役忌避者・売春婦・性倒錯者・病人・アウトサイダー・異教信仰者・独身者・未亡人・孤児など
★ さらにわたしたちは、いわゆる帰郷者と境外の民・バルバロスとを、広義の<異人>概念のなかに含めておきたい。
⑤外なる世界からの帰郷者
帰国する長期海外滞在者・故郷へかえる出稼ぎ者・復員兵・海外帰国子女・“帰国後のロビンソン・クルーソー”・発見された旧日本兵など
⑥境外の民としてのバルバロス
未開人・野蛮人・エゾ・アイヌ・土蜘蛛・隼人・山人・鬼・河童など
★ <異人>とは実体概念ではなく、すぐれて関係概念である。
★ あらゆる共同体、または人間の形造るすべての社会集団は、共同体の位相からながめるならば、こうした<異人>表象=産出、そして内面化された供犠としての制度によって制御されている、とかんがえられる。たえまなしに再生・反復される共同体の深部には、ただひとつの例外もなく、社会・文化装置として<異人>という名の“排除の構造”が埋めこまれ、しかも、同時にその存在自体がたくみに秘め隠されている。
<赤坂憲雄;『異人論序説』>
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます