★ なぜものを書き始めたか、わからない。深い理由はわからないのだ。たぶんこうだった。最初に書くことの力を意識したのは、ドイツの女友達に絵葉書を送ったときだ。彼女は当時アメリカにいた。何を書いていいかわからないまま、私が書こうとしている表面は、ざらざらした白で、少し雪のように見え、この紙の表面は、監獄には当然存在しない雪を思い浮かべさせた。そこで何か語るかわりに、私は彼女に紙の質について書いたのだ。これがきっかけになって私は書きはじめた。それが動機だったわけではないが、とにかくこれで初めて私は自由を味わったのだ。
<ジュネ“マドレーヌ・ゴベイユとの対話”― 宇野邦一『ジュネの奇蹟』より>
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