Don't Let Me Down

日々の雑感、引用。
言葉とイメージと音から喚起されるもの。

つかのまの夏

2013-06-26 08:45:25 | 日記


だからお聞き まだひまのあるいまのうちに
  だってじきに 苦い知らせを運ぶ恐ろしい声が
物思いに沈む乙女を呼びつけ
  望みもせぬ寝床につかせるのだから
ぼくも君も なりは大きいけれども ほんとは子どもで
寝なさいと言われる時刻になるのが 大きらいなのだ

外では雪が踊り狂い 何もかもが凍りつく寒さ
  風も激しくひゅうひゅうと鳴り やんだと思うとまたうなりだす
でも家のなかでは 暖炉の火が赤くかがやき
  子どもたちはうれしげにうずくまっている
魔法の言葉に心奪われていさえすれば
吠えたける嵐の声も もう耳に届きはしない

たしかに ため息のなごりのようなものが
  お話しをそっと震わせていくこともあるかもしれない
だって 「あのしあわせな夏の日々」は遠くすぎさり
  真夏のかがやきは消え失せてしまったのだから
でもそれが このひとときのこころ楽しいおとぎ話に
悲しみの息を吹きかけることだけは 断じてさせはしない



現し身の アリスの姿
いまははや 見るよしもなく
幻の 訪れるのみ

さはいえど 丸き目をして
お話しに 耳そばだてる
幼き子 なおもあるらん

不思議なる 国をさまよい
長き日を 夢見て暮らす
つかのまの 夏果てるまで

金色の 夕映えのなか
どこまでも たゆたいゆかん
人の世は 夢にあらずや?

<ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』(岩波少年文庫2000)>







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