民間航空会社は、世界的に共通な「財務状態」の悪化に、四苦八苦している。
何しろ「赤字体質」から抜け出せないのだ。
ジャット燃料の高騰は、いくら『燃油サーチャージ』で顧客に転嫁しても、カバー仕切れない。
世界的航空需要で、パイロットは引く手あまた。
人件費の圧縮は、これ以上出来ない所まで来ている。
切り詰められる所は、徹底して切り詰めてしまっているのが現状である。
昨今の機内食のお粗末な事と来たら、情けない程。
未だに乗客は「機内食」にそれなりの期待感を抱いているが、どの航空会社も、年に二度は「改悪」して、質を落としている気がする。
JALの欧州線における「ビジネス・クラス」の機内食が、実費千円であったのは、もう10年くらいも前の事。
エコノミー・クラスに至っては、弁当を持ち込む方がずっとマシ、と言っても過言では無い程の物に過ぎない。
ところが、航空運賃の販売価格はと来たら、値引き値引きの連続で、収益が上がる訳も無く、運行コストの圧縮などで吸収出来る物では無い。
某旅行会社のこの冬のヨーロッパへのツアーの、総経費の中でエアー代(飛行機代)は、往復なんと2万円。
ビジネスクラスで5万円。
驚くしか無い。
買い叩く方も買い叩く方だが、売る方も売る方である。
この会社が使うエアー・ラインは、欧州のメジャーの一つと見なされて入るが、今ひとつ席を埋められないでいる。
だから、過当競争で席が埋まらない以上、ガラガラで飛ばす事を考えたら、僅かでも日銭が入ってくれる方が良い、と言う考えなのだ。
大手旅行会社のツアーで、シーズンに「数万席」をまとめ買いしてくれる以上、薄利多売で席を埋めよう、と言う発想にならざるを得ない。
あらゆる分野において、価格競争が必要以上に激化し、お互いに実を削って矛盾だらけになっている。
常識以上に安価に提供する事は、商品が「モノ」であれ「サービス」であれ、どこかで必ず「泣かされている人々」が存在するのだ。
ただ、本稿で書きたい事は、「安売り過当競争」の弊害についてでは無い。
アメリカン航空の破綻に見る、JALとの兼ね合いでの、日本人の危機対処の感覚についてなのです。
この航空会社は、アメリカの大手航空会社の中でも「最低」の会社である。
何しろ「セコい」事で有名。
どこの航空会社でも、その日の乗客数、手荷物の合計重量と、目的地までの飛行コースの気流速度、天候や、あらゆる要素を基に、キャプテンがフライト前に所用燃料の量を計算して、給油される。
ところが、アメリカン航空は「必要最低限」の量、つまり悪天候や不測の事態の際、代替え空港着陸までのフライト距離分は、積み込まなければならないにも拘らず、アメリカン航空の場合は、最良の気象条件で最短距離で正常にフライト出来るギリギリの量しか、給油しない。
最低限の燃料で飛ぶ事は、パイロットの評価に繋がる。
ところが、成田まで飛んで来る際、向かい風などの計算外の要素で燃料不足になり、札幌に下りる事が、非常に多い事で名高いのだ。
民間商業航空運行既定で、定期便の燃料は、緊急時には「受け入れ側」が提供しなければならない事が決められている。
そして、燃料不足で目的地まで飛べないからと、最寄り空港に緊急着陸を要請されたら、拒否出来る物では無い。
それを当て込んで、ギリギリの燃料で飛んで来るのが、アメリカン航空の「伝説」となってしまっていた。
アメリカのビジネスマンは、JALが「何故に」アメリカン航空などと「提携関係」を結ぶのかを、不思議がっている。
サービスは最低で、アメリカ国内の運行はトラブルが多い。
成田からアメリカへ発つ米国人乗客が、自国内に津着後にアメリカンに乗り継ぐのをいやがる程なのだから、推して知るべし。
その、アメリカン航空が造った『ワン・ワールド』に、JALは加盟して来た。
以前は、日本航空と言えば、それなりに「良家の子女」の如きイメージの会社であった筈。
それが、ヤンキーの仲間に入っているみたいな物であった。
思い返せば、JALの経営が破綻しかかっていた頃。
時の首相麻生太郎は、JALをデルタ航空に売ろうとしていた。
アメリカ最大の航空会社が、JALの救済に名乗り出ていたのは、渡りに船であったのだ。
それが、調印寸前に「政権交代」となって、有能極まりない国交大臣前原誠司が登場する。
人の惹いた路線を踏襲する事など、天下の前原サンとしては、プライドが許す筈も無し。
即刻、それまでのデルタとの交渉を白紙に戻してしまった。
後はご存知の通りの体たらく。
アメリカン航空は、本国での企業イメージのアップの為にも、太平洋線のJALとの提携は、不可欠であった。
そこへ、デルタも参入する。
何しろ、全米最大のシェアーを誇る航空会社であはるが、太平洋線が弱く、更にその以遠権が喉から手が出る程欲しかったデルタは、麻生太郎の時以上に好条件を、日本側に提示した。
大部分の負債の肩代わりと、資本提携による資金注入を、アメリカン以上に好条件を提示した。
全米最大のデルタと組んだ方が、JALとしても、再建が用意であったはずである。
国交省もデルタとの提携を望んで居り、殆ど、デルタとの業務提携に決まりかかっていた、最後の最後で逆転して、アメリカンとの提携維持を打ち出してしまった。
背後には、メインの銀行団の逡巡や、さまざまな要因が有ったであろうが、最大の要因は、JAL自身のシステム変更の煩わしさへの抵抗感であった。
デルタは、『スカイチーム』という国際航空会社提携グループを営んでいる。
グループには、エール・フランスや、KLM、アリタリアを抱え、アエロフロートすら参加している。
ワン・ワールドは、欧州のエアーは英国航空が参加している。
しかし欧州線を考える時、ハブとしては大陸側に無いロンドンでは不便極まりない。
日本では、ヨーロッパと言う概念が今ひとつ理解されていないのだ。
イギリスも「ヨーロッパ」だと誤解している。
英語で<European>とイギリス人自身が言う時、自分達を事を含んでいない事を知らない。
英語でヨーロッパとは、<大陸>の事を指す。
フランスでも、イタリアでも、スペインでもどこでも良いから、現地の人に「イギリスってヨーロッパでしたっけ?」と聞いてご覧なさい。
皆「違うよ」徒答える筈です。
イギリス人達も、大陸側も、共通認識として同じ感覚なのです。
ただ一頃の、アメリカと日本と言う、経済と産業技術の二極に対して、小規模な国々に分かれたままだと対抗出来ない為に、「EU」という壮大な試みを実行して来た中で、置いてきぼりを喰うと怖いので、イギリスもEUには参加した。
しかしながら、単一通貨ユーロの採用には踏み切らず、メートル法も採用せず、国境手続き全廃を定めた『シェンゲン条約』も批准しない。
そんな国の航空会社との提携を重視して、ロンドンにヨーロッパ本社を置く企業が多いが、大陸でのビジネスには不便がともなうのです。
イギリスとだけ付き合うならそれでも良い。
しかし、ヨーロッパ全体をマーケットと捉えようとすれば、中核は大陸に無ければならない。
JALが、破綻を回避し「スカイチーム」の一員となってくれれば、慶賀の至りと喜ぼうとしたにも拘らず、肩すかしを食わされた原因が、この「提携グループ」の変更に伴うシステム変更の煩わしさ、を嫌ったJALの姿勢であった。
総てがこの発想である。
その場が良ければ、それで良しとしたがる。
10年後、25年後、50年後を見据えての生き方は出来ない。
今、良ければ良い。
この発想と行動パターンは、哀しい事に「原発事故」でも、遺憾なく発揮されている。
放射能は見えない。
見えない物には鈍感である。
あの時、福島の県民を全員避難させるなど、膨大な手間ヒマと、天文学的予算を必要として、深刻な責任問題に発展する「抜本的対策」などは、採りたくもなかった。
数値に表れた事だけを、場当たり的に、小出しに、対処してお茶を濁す。
10年後に、25年後に、福島が、日本が、国民の生命が、どうなっているかなどと言った、大局的視点にたっての行動はとれない。
その挙げ句に、日々汚染地域の拡大が判明し、汚染量の深刻化が指摘されて来るに至った。
今からでは、もう遅いのだ。
汚染は広がり、瓦礫を全国的に搬送し、各地で埋め立て、焼却して汚染を全国規模で広めて行く事を、深刻に考えようとしない。
福島県民だけを被害者にして、その他の日本人が救われると言う様な「不平等」な事は出来ない。。。
全国民が責任を取りつつ、全国民が汚染に甘んじて、日本全土で被害を分かち合おう。
そんな、純粋に博愛的発想でやって来た訳では無い。
あくまで、今この時の「手間ひま」を最低限に押さえて、本質は先送りにして怪しまない、役人根性と政治家の資質の結果である。
日本人の典型的なDNAの為せる技なのだろうか。
▶アメリカン航空が経営破綻 業界再編の可能性も(産經新聞/11月30日(水)1時36分配信)
>米航空業界3位のアメリカン航空の親会社AMRが29日、ニューヨーク州の裁判所に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。事実上の経営破綻で、子会社のアメリカン航空とアメリカン・イーグルも申請。米航空業界は需要低迷や燃料価格の高騰で業績が悪化しており、アメリカン破綻が業界再編の呼び水となる可能性もある。
>アメリカンは日本航空とも提携。AMRは破産法適用期間中もこれまで通りに運航、他社との共同運航やマイレージプログラムの提携も続けるとしている。ただ、同社の破綻は日航再建にも影響を与えそうだ。
>AMRは燃料費高騰のほか、人件費などの高コスト体質が経営を圧迫して業績が悪化。2011年7~9月期決算に1億6200万ドル(約126億円)の最終赤字となるなど4四半期連続で赤字を計上していた。
>10月以降は株価も急落した。AMRは市場の不安を打ち消そうと、老朽化と燃費効率の悪さが指摘される機材の入れ替えや、グループの地域航空会社の売却に着手するなどリストラを進めたが、目に見えた効果は上がらなかった。9月末時点の負債総額は約295億ドル(約2兆3千億円)に上る。このため破産法申請でコストを削減し、経営再建を図る必要があると判断した。
【産經新聞/11月30日(水)1時36分配信】
つい先日の、日本航空の破綻の際の解説記事と、全く同じである。
と言う事は、JALもAA も、結局同じ体質の企業であった、と言う事か。
どうやらJALは、再建しつつ有るらしい。
そこへ持って来ての、提携相手の本家の破綻は、JALへのイメージを下げこそすれ、高める事はあり得まい。
常に、アメリカ市場を優先して考える日本企業の典型で、日本航空もアメリカ路線を優先して来た。
しかし、アメリカ人に採って「<あの>アメリカン航空の提携相手」と見られる事は、やむを得ないのです。
提携相手を変える事による、事務手続きの煩雑さを嫌って、デルタ=スカイチームと組む事を止めて、アメリカン=ワン・ワールドに留まったが為に、またしてもJALは眼前に暗雲を見るハメになってしまったわけである。
長いスパンで物事を判断する事が、総て。
目先の面倒を避けて、将来のより大きな面倒を予測出来ない。
これこそが、福島第一原発の事故がもたらした被害を、日本全域に、将来にわたって押し進めて行く事になった発想と、同じルーツなのでは無いか。
勿論、原発事故に対する処し方に関しては、事は単純な物では無い。
当事者の『東電』が、加害者意識が意識が無いこと。
責任逃れだけを考えている事。
その姿勢を、国がそのままバックアップして、国民を欺いている事。
その背後に、東電に連なる東芝その他、山ほどの関連企業の利害のみを優先して顧みない「大企業のエゴ」が存在し、更にそれを後押しし国民に目隠しをする役目を買って出ている「マスコミ」、その総てを差配している霞ヶ関と、その背後に控えるアメリカの影、という溢れんばかりの「非国民的存在」が、大きな要素なのである。
しかし。
その場を切り抜けられれば、それで良し。
その場の困難を回避したい。
その結果として、将来により大きな問題を残してしまう。
この行動パターンは、きっと不変なのだろう。。。
哀れなり、汝の名は日本人。。。