フランス・グリンピースが巨大な横断幕を掲げた。
反国民戦線を謳って。
(Photo by Le Monde)
エッフェル塔に。
『自由・平等・博愛 抵抗せよ』
日本で、NHKを筆頭にマスコミが騒ぎ立て、煽りに煽ってきた『極右政権誕生とEUの危機』
は、残念ながら訪れそうもない。
しかし、かなりのフランス人たちは、たしかに悩みに悩んだ。
ある若い女性はかたった。
「どっちに投票するかですって? 言えない。なぜなら、今いっても6時間後にはまた変わるかもしれないから。寝る前にやっと決心して、朝起きたら変わってるのよ。6時間おきに心が揺れるんです。。。」
別のご婦人は。
「決まっています。 マクロンに入れます。私は第一回目にはメランションに入れました。彼の主張が私の価値観に一番近かったから。しかしもう彼はいません。しかし、フランスの価値を完全に否定している人たちに、祖国を与えるわけにはいきません。マクロンに投票します。」
別の中年の男性。
「(投票に)行くか行かないか、未だに悩む。投票したい候補者がいないからね。しかし過激な国粋主義者に国を任せるわけにはいかないし。
さる3日水曜日、ル・ペンとマクロンとのテレビ討論会が行われた。
どこか然るべき場所に『パブリック・ヴュー』が設営されるか探してみたが、どこにもなかった。
大きなTVスクリーンを置いたカフェやラウンジバーを当たってみたが、いずれの店もその夜は「当然」サッカー中継だそうだ。
ヨーロッパクラブカップ準決勝のモナコ vs ユベントス があるにだから、当然だ。
しかし、パリのある劇場でやるらしいと聞きつけた。
オペラ座からほど遠からぬ場所にある『アテネ座』という由緒ある劇場で。
聞いてみると、その日はある公園の初日だそうだが、通常の開演時間を30分繰り上げて19時半に開演し、20時45分の終わって、そのまま中間フロアーロビーのカフェ・バーのあるフロアーでテレビを据え付け、興味のある人はそのままそこに居残ってみてもらおうと、考えたそうだ。
劇場の公央担当責任者の女性曰く。
「おそらくフランス人にとって、とても大切な夜になりそうだから、やってみようと考えたのです。初めての試みだし、一体どのくらいの人が参加するかわからないけれど、やってみるべきだという結論に至ったのです。」
何だか『フランス人スゴイ』と思った次第。
その劇場は、ギリシャ人劇作家のシメーヌの前衛独り語り劇『3つの要素による悲劇』の初演。
面白そうだから、行ってみましたよ。
500人ほど収容する、「イタリア様式」の劇場の典型で、フロアー席の周囲に4層の桟敷。
赤い天鵞絨に優美な天井
私は小さな両開きの扉を開けると、椅子が2脚ある桟敷にご招待して頂きました。
50歳くらいの女優さんが、1時間15分を静かに独り語りで演じる熱演でした。
しかし、お芝居の方は今回は話題にしません。
終わってからのテレビ討論会は、結局50人くらいが飲み物や軽食を取りながら、熱心にスクリーンに見入っていました。
マリーヌ・ル=ペンのトンチンカンな発言があると、微かなブーイングやせせら笑いが沸き起こっていました。
前衛劇を見に来るほどの人たちなので、少なくともル=ペンを支持するような人は、居ないようでした。
実は、翌日の報道によるとル=ペン候補はその世の2時間超の討論で、『11の虚偽の発言と多くの内容の疑わしき発言、明らかに扇動と取れる発言』でマクロンに論争を挑み、簡単に論破されていた。
その討論会の翌日、選挙戦最後の投票動向の調査結果が発表され、『マクロン 62% vs ル=ペン 38%』という結果になっていた。
3日を前に、そろそろ自分なりの結論を出す人が増えてきた、ということのようです。
それにしても、マリーヌ・ル=ペンの陣営は、今回の選挙戦を通じて事実無根の情報を、あたかも事実のようにsnsで流す、いわゆる『フェイク・ニュース』を連発して、エマニュエル・マクロンの公私両面での人気を失墜させようという行動事実が、次々と明らかになってきた。
『マクロンはバハマ諸島(タックス・ヘイブン)に隠し口座を持っている』というル=ペン側のツイートは、あっという間の10万回もリツイートされた。
それまでもヨーロッパの報道界では、不正確や虚偽の情報を報道してしまわないように、フェイク・ニュースを見極めることにかなりのテマヒマをかけてきた。
サルトルが基礎を作った左派系リベラル日刊紙『リベラシオン』紙を訪ねて、実際の現場を見せてもらった。
編集フロアーの一角。
フェイク・ニュース対策セクションは、常勤が5名、他の仕事と兼務が2名だそうで、目の回るような忙しさだとか。
一番右端の男性が「チーフ」で、まあ係長とでもいいましょうか。
かれは、10年前に専従セクションの必要性を会社に問うたが、社内の同意をまとめきれずに頓挫。
8年前に再度意見を具申して採用となり、セクションが作られて責任者となったのだそうです。
最初は日々の政治家の発言と文書が「正しい」かどうかを考証するのが、仕事のほとんど出会ったが、ここ数年はsnsの急速な普及により、ネット上での虚偽の情報を見つけ出して「警告する」ことが仕事のメインとなったそうだ。
日本のマスコミは、政治家の発言の真贋どころか、最初から政府にとってうれしくない「正確な事は報道しない」というスタンス。
なんという違いだろう。
専門のサイトを立ち上げてあって、毎日ヨーロッパ中から「問い合わせ」が送られてくる。
先ほどの隠し口座に関しての公式見解は。
『出来る限りの検討と調査をした結果、今現在<事実である>という根拠はどこにも見出せない』
というもの。
勿論サイト上にアップされ、このような微妙な時期の重大な影響を与える可能性のある事案に関しては、紙面でも発表する。
セクションのあるブロックの仕切り壁に『CHECK NEWS.COM』というセクションのサイトのプレートが貼られていた。
ちなみに、奥の一角では編集会議中で、耳を澄ましていると「マクロン…」という声が何度も聞こえてきた。
その「注目の」マリーヌ派、とにかくイスラム系住民へのヘイト発言が頻発しているのだが、目下パリ近郊で明らかにイスラム教への国を挙げてのイジメが行なわれている。
パリの東30kmほどにある静かな小都市『トルシー』で、先の4月13日警察によるモスクの強制閉鎖が行なわれた。
モスクといっても、提供された駐車場みたいな敷地にプレハブの建物が3棟ならんでいるだけなのだが。
写真は日常に礼拝に使われている、いわば「本堂」のような建物。
20012年に同市で起きたちょっとした爆破騒ぎ(ほとんど花火程度のもの)で逮捕された青年が、そのモスクで時折お祈りに参加していた。
その事件はすでに犯人には刑期も課せられ、全て終わっているらしいのだが。
『その犯人を含む若いイスラム系住民たちを、モスクで過激派への誘導を行っていた』という容疑で、捜査令状もないまま特殊部隊の警官10数人が早朝やってきて、何からなにまで引っ掻き回して捜査をおこない、同時に『イマム(指導者)』の自宅も襲われて徹底的に引っ掻き回した挙句、なんの証拠も見つからないまま『閉鎖命令書』を貼りつけ、あらゆるドアの鍵を交換し、モスクの運営団体(NPO)の閉鎖も行なわれて銀行口座を凍結した。
イマム本人は、フランス国籍を取得して30年来その町で高校の数学教師を務めてきたが、『公教育の現場での宗教色を禁ずる』法令に違反したかどで、職務停止処分。
本人の銀行口座も凍結されている上に給料ももらえなくなって、ひどい状況に置かれているそうだ。
普段礼拝に使う1棟目、女性専用の2棟目と、奥の突き当たりは事務所、右側は手洗い所。
全て閉鎖命令書が貼りつけられており、鍵が取り替えられているので誰も入れない状態。
発効日も公印もない命令書には「不法に侵入した者は罰金75000ユーロを課す」とも明記されている。
住民たちは仕方なく、コンクリート敷きの地面に敷物を敷いて、毎日5回のお祈りを行っている。
日の出の祈りが6時前後。
午前の祈りが14時前後。
午後の祈りが18時前後。
日没の祈りが20時前後。
夜の祈りが22時前後。
これは夏時間なのでややピンとこないかもしれませんが。
しかも月齢日に基づいて、時間は毎月少し変わって行くのです。
多い時は200人ほど。
少ない時で20人ほど。
たまたま訪れた日が雨だったので、2棟の隙間をビニールシートでカバーした狭い空間にひしめき合って、お祈りを挙げていた。
この措置を警察(内務省)が行った後、4月の22日に裁判所による「訴訟手続」が書類化され、5月3日にその措置が閣議決定された。
つまりわかりやすく言えば、裁判所による令状なしに『非常事態宣言』を根拠に内務省が暴走し、一週間後に裁判所が形式を整えるために書類化して、さらに2週間後に閣議決定で政府が追認したわけです。
これは、明らかに「社会的な見せしめ」としか言いようがない。
すでに結審している事件、しかも5年も前の事件を根拠に、当時は捜査もされていなくて無関係とみなされていたモスクとイマムを犠牲にした。
非常事態宣言は、行政にフリーハンドの権限を与えることになると言うことが、明確に分かる事例ではあります。
それまで使っていた「臨時」のモスクを閉鎖されてお祈りする場所を奪われたこと以上に、運営組合も閉鎖され口座が凍結されて所有財産を失うことが閣議決定で公式になったため、まともなモスクを建設するために10年掛りで住民たちが小銭を寄進して集めた浄財で購入したばかりの、将来のモスク建設予定地も没収ということになってしまった。
数学の教師で、宗教的は話などする時間すらなく、同僚教員たちも誰一人イマムであることも知られていなかった、イマムその人も定年目前にして、職を失う、年金までもしかしたら、という事態になってしまったのです。
さらにもう一つ。
パリの北に隣接する町『クリッシー市』でも、市当局が賃貸で提供していたモスクの建物を、昨年保守党の市長に変わった途端に契約期間の満期を理由に契約解除されて、遠く離れた狭い建物に移るように勧告。
反対してそこに居座ろうとしていた住民たちを強制排除してしまって、モスクを失った信者たちが抗議の一環として「市役所前」の道路で礼拝を行っている。
イスラムの戒律により礼拝は当然のことで、しかし公道上などで皆に迷惑をかけてお祈りすることは許されていない。
フランス共和國憲法で、宗教の自由は権利として認められている。
キリスト教徒が教会で、ユダヤ教徒がシナゴーグで、仏教徒が寺院でお祈りするように、イスラム教とはモスクでお祈りする権利がある。
にも関わらず。。。
毎日午後の礼拝を19時半頃。
金曜日は昼の礼拝13時半と午後の礼拝19時半。
最初に、市役所前の通りから市役所前の角を曲がったところの、市場の斜め前の小さな広場で、礼拝の前半を行う。
信徒代表による『アザーン(礼拝への呼びかけ)』がなされる。
イスラム諸国では、ミナレットの上のスピーカーから流されるあれだ。
その後、イマムの講話。
広場の、イマムに向き合う側にはなんとマクドナルドが。
女性たちは、別のシートの上にひとかたまりになって集まる。
本来はモスクでは男女別なので、このような街頭でのいっしょくたの場合は、女性はあまり多くは集まらない。
それから全員が市役所前の通りへ移動する。
巨大なビニールシートを引っ張りながら。
市役所前の通りは4車線。
歩道も5メートルはある。
その歩道全部と、車道3車線分を使って整列。
イマムの短いアザーンのあと、一斉に五体投地のようにひれ伏すことを繰り返す。
警官が数名で1車線を走る車を整理し、お祈りする人々を車から保護している。
今日は500人くらいが集まった。
最前列からもう一度見てみた。
この異常な光景は、イスラム人口の割合の多い町に住み、イスラムになんとなく反感を抱いている人たちには、とても醜い光景に移るようだ。
顔をしかめて横を通り過ぎる女性のお年寄りもいた。
このクリッシーの町は人口25000人。
そのうち4000名ほどがイスラム教とだとか。
そしてこの様子を我らがマリーヌ・ル=ペンは「この醜いフランスを、(フランス人の手に)取り返そう!』とツィートした。
『美しい国を取り返そうではありませんか、皆さん』
『教育勅語を暗唱し、総理大臣万歳!』と叫ぶ幼稚園児に笑顔で手を振るトップ・レディー。
日本も、着実に同じ歩行に進んでいる。
幸い明日の20時には、国民戦線の大統領は実現しないことは明らかだ。
日本の方が先に、ずっとずっと極右国粋主義の政府を戴いてしまったのです。
『秘密保護法』
『盗聴法』
『安保法』
『(テロ等)共謀罪』
そして、教養のない扇動家の総理大臣。
日本は危ない。
日本が危ない。