仏大統領選の第一回投票、いわば予選リーグが済んで、決勝トーナメントにあたる第二回投票まで2週間の選挙戦。
その半分が過ぎて、フランスは混迷の度を深めてきた。
なぜならば、候補者がいない。
元来、フランスは第二次大戦後の第五共和国になって以来、常に左右の対決で今日まで続いてきた。
拙ブログを始めて以来、頻繁に書いてきた通り、ローロッパは階級社会。
今は、官吏階級と労働者階級。
教養も人生観も生活様式もまったく違う。
それを政治的に集団化すると、「右派」と「左派」とに分けることが多かった。
右派はウヨクとは違うが、複数の保守党が利益代表者であり、左派もサヨクとは違うが、通常は「社会党」「共産党」が代表してきた。
中間層は一応官吏海草に含まれ、保守で右派。
労働者は組合に属し、その組合毎に政党が違う。
正しく言えば、自分が支持する政党の傘下の組合員になる。
弱小政党も含めて、各政党は選挙には必ず候補者を立て、第二回に残れなかった政党とその支持者たちは、上位二名の決戦投票に残ったそれぞれの左右の候補者に投票する。。。
ところが今回は、右派も左派も自分たちの候補を持た無い選挙となってしまった。
一回目で一位となったエマニュエル・マクロンは、中道右派ということになっている。
社会党の党員として積極的に活躍していたにせよ、政治家としてのキャリアが見えにくく、思想的に確立していと思われている。
言っていること、やろうとしていることは、けっこう新自由主義的なところも多い。
ロスチャイルド銀行の頭取に気に入られ、ネッスルの毛営幹部を務め、億の単位の年俸を取っていた彼は、とても「左派」の代表とは言い難いと、思われている。
かといって、社会党の重鎮ジャック・アタリに見出されて政治の世界に入り、ミッテラン政権の重鎮ジャン・ピエール・シュヴェルヌマンの側近で、現大統領フランソワ・オーランドの経財相を務めた彼が、右派側から言えば「サヨク」そのもの。
他方マリーヌ・ル=ペンは、ギトギトの極右。
左派からも右派からも、アウシュヴィッツの存在を否定し、ナチを信奉する、蛇蝎のごとくに嫌われてきた極右政党『国民戦線』の現党首で、先代の名物男ジャン=マリー・ル=ペンの実の娘と来ては、到底支持できるものではない。
というわけで、今回の大統領候補は、右派からも左派からも「自分たちの代表」が居ないとう、極めて変則的な選挙と相成ってしまったのです。
こうなると、あとは憎悪のぶつけ合いで、敵の敵は味方、味方の味方は敵、みたいな「ワケワカメ」状態に立ってしまったワケなのです。
政治的立場というより、嫌悪感のぶつけ合いのような。。。
街角の選挙ポスター掲示板は、引っ剥がし合いの様相。
とっても嘆かわしい状態。
エマニェル・マクロンは、エリートの中のエリートみたいな人間ですが、以外と苦労人なのです。
彼は、北部フランスの都市アミアンの出身。
高校二年までアミアンで過ごし、三年からパリの超名門校『アンリ4世高校』に編入した。
今でこそ衰退しているものの、その頃のアンリ4世高校といえば、同じくパリのルイ・ル・グラン(ルイ大王)高校と並んで、shぽうわ40年代種痘の日比谷高校みたいなものだった。
日本以上に超超学歴社会のフランスでは、学校格差は日本どころではないのです。
地方の高校から(おそらく成績優秀だったであろうが)全国の高校最高峰の最終学年に編入するという、リスクというか冒険に飛び込むには相当の自覚と野望とがあってのこそ。
普通入れてもらいない。
地方の高校の成績優秀でいた方が、いきなり最終学年だけ超一流校に入って、その中でどういう成績を取れるか不透明である以上、その後の進路の計算を立てにくい。
フランスは世界の中でも極めて珍しい学校制度を確立しているのです。
しかし、そのことは今日は話題にしない。
彼はアンリ4世校を終え、高校卒業資格試験バカロレアはS(数学・理系)で最優秀のメンション付きで合格すると、大学よりもっと高度な『大学校(グランド・エコール)』に進むための「予科」に残る。
最終学年だけ在籍したアンリ4世校の予科に、そのまま進めたこと自体彼の優秀さを物語る。
2年の予科在籍ののち、フランスの最高学府『国立行政院(ENA)』に願書を出したが、2年連続で筆記試験に失敗。
第一回目の挫折。
しかし彼はパリの大学に進む。
予科の2年は大卒(学士)扱いなので、3年生(修士課程)に編入して、なんと哲学を専攻した。
パリ第10大学(パリ=ナンテール大学)で哲学修士号、上級修士学位を取得と同時に『パリ政治学院(シアンス・ポー)』(ENA、ポリテクニーク、ENSの三大GRANDES-ECOLESに次ぐ難関校)に進み、24歳で卒業ディプロムを取得。
これだけでも十分なエリート資格なのだが、さらに彼はここから念願のENAに進学に成功。
要するに一部で言われているようなボンボンとはまったく違う、ものすごい努力と才能に恵まれた人なのです。
フランスのエリートは、右も左も最高学府を出ていて、エリートとしては同格。
権力の座にあるとき(与党の間)は要職を歴任し、政権を失えば大企業や国の機関の要職を歴任する。
そういう意味では、仲間同士みたいなものではあっても、政治の土俵では政策の目標が「企業」か「国民」か、しっかり左右に分かれている。
そういう意味で、マカロンはイメージ的に損をしている。
マリーヌ・ル=ペンは、出来損ない。
創業家の二代目。
わずか80名ほどで45年前に創設された Front Natinal (国民戦線)という極右政党は、創業者ジャン=マリー・ル=ペンの、常に喧嘩腰で、歯をむき出して醜く歪めた顔でアジ演説をする、ナチスムん傾倒し、社会の問題のすべてをイスラム移民のせいに初手を罵倒し、フランス国内の日の当たる場所には居所がないという感じで、ひねくれたハグレ者たちの集団だった。
時代が違っていれば、スタジアムで暴力沙汰を起こすフーリガンになっていたか、もしも中東に生まれていれば<IS>を組織していたかもしれない、要するに哲学のない反体制の象徴で,逆に言えば社会に必ず少数存在するヤクザ者たちの受け皿であった。
そういう理由では、それに集う社会的落ちこぼれで弱者でもある不良大人たちのシンボルのジャン=マリーの娘として、取り巻きからはちやほやされて育ってきたわけだ。
父親自身が、自分の狂犬的言動にブレーキをかけて、政治勢力としての存在を確立しようと奮闘していた右腕たちを追放したりというかなりのバカ殿ぶりを見て育ち、結局FNの党首を引き継いだあと、父親を締め出してその影響力を排除してしまった、ツッパリ娘でもある。
まったく畑違いだが大塚家具の娘みたいな、危うさがある。
教育は、国の舵をとる立場を担うような階層のそれとはまったく違って、単にパリ第二大学(Paris=Assas 大学)で修士どまり。
今の時代なら、極めて平凡で中間層にすら止まれないレベルの教育しか受けられなかった。
政治学はおろか、社会経済学、その他リーダー層を担う分野の教養はまったくないに等しい。
ただ、FN自体が代替わりした分支持者たちも代替わりしてきており、世代が若くなってくるにつれ国の「経済的問題」の多い時代にそれぞれの分野でまともに暮らすのに困難を覚えている人たちに「目先の受け」がよく、支持を拡大している。
マリーヌ本人の力量でというよりは、右肩下がりの時代の流れが必然的に味方した、という感じ。
そこで本題に入れば、安定した社会の延長を求める「保守層」は、必然的に右派であるフランス人社会にあって、マクロンの姿はサヨク的に見える。
「サヨクに政権が移ったら、私はフランスから出て行く!」と喚いてる老婦人がいたが(左翼政権の最中なのに)、彼の立場をよく表している。
では、その老婦人がル=ペンに投票するのか。
これまでなら「ありえない」ことだった。
ただ、トランプ大統領が登場し「あの手の」リーダーが、あんな風な滅茶苦茶なやり方を『アメリカ』でやっている現状を見るにつけ、ためらいが薄れ始めているようなのだ。
EUという鎖が『フランス共和国』を縛り付けている。
共通政策の足枷で、農業を筆頭に各種産業が「コスト(人件費)」の低いEU内の新興諸国に太刀打ちできない腹立たしさ。
農産品は、EU毛生直後はスペインとイタリア、その後ギリシア、そして今やハンガリーはチェコ、スロヴァキア、ルーマニアなど
もともと物価の安い、従って人件費も安い新加盟国に対抗できずに多くの農家が廃業の憂き目を見ている。
何しろ、ハンガリーの人件費はフランスの1/8なのだから。
経済的に国境がない以上、長距離トラックや観光バスなども完全にシェアーを奪われてしまう。
フランスやドイツの税金である供出金で、旧東欧各国に高速道路やその他のインフラを建設する腹立たしさ。。。
ヨーロッパが「なぜ」統一しようとしてきたのかという背景、その理由や目的、それがもたらす筈のもの、という価値観に理解の及ばない「労働者層」は短絡的にEU反対を唱えるル=ペンに共感を持ってしまう。
右派は右派で、経済的背景以前にフランス共和国の存在価値の低下、EU 官僚の独走に見える理想主義運営に反発し、EU政策がこれまでと変わらないマクロンに批判的視線を投げてしまう。
それに加えて、イスラム移民の多さ、彼らの社会のフランス社会に溶け込めない状況による社会の矛盾(溶け込めないのは、イスラム移民たちへの差別が有形無形に存在するからなのだが)がもたらす周辺自治体の荒廃、社会的安定の揺らぎ、治安の悪化、などなどに日々ふれていると、どうしても『EUの移民政策』には承服しがたい。
その感情は、国民戦線の側と同じ線上に立ってしまっているわけだ。
そんな右派保守派の市民たちは、マクロンに二の足を踏んでしまう。
しかし、だからと言ってル=ペンに大統領になられるようなフランスはありえない。
思いは千々に乱れ、複雑に交錯し、最終的は互いの反対派への憎悪が膨れ上がって行く、非常に理性にかけた選挙戦になってしまっている。
二大勢力の戦いであるフランス社会は、政治も二大勢力の戦いであった。
右派の政治が庶民階層に不満を積み上げて行くと、次の選挙で政権交代する。
左派政権が飽きられ始めると、次でまた政権交代。
その度に、高級官僚は総とっかえ。
それで、お互いの勢力の不満を吐き出させ、吸収して、フランス社会は均衡を保ちながら今日までやってきたのだ。
5年前、超不人気であったニコラ・サルコジーには、勝ち目はなかった。
フランソワ・オーランドが楽々と当選し、シラクとサルコジーに次いで三政権ぶりに社会党政権となったものの、オーランドの間抜けぶりに国民は呆れかえってしまった。
サルコジーに次いで、たったの一期で政権を明け渡すはめになる。
ここで、左派政権は『社会党』の枠組みを超えて「左派統一候補」的に全国で予備選挙を行った結果、社会党でもなく、共産党でもない候補者エマニュエル・マクロンの登場となったわけだ。
ただ、現政権の負の影響は大きく、右派の『共和党(共和国党)』の政権奪還は既定事実のはずだった。
しかし、最も大物だったアラン・ジュペ(シアク政権の首相を務め、シラクをコケにして遠ざけられた)が名乗りを上げて混乱が始まる。
サルコジー政権で首相だったフランソワ・フィヨンが、共和党内では極右であるが、結局候補者となり楽勝のはずだった矢先に「妻のスキャンダル」が暴かれる。
20年来妻を政策秘書に登用し、給与が支払われていた。
支配階層(政治家)の人物の政策秘書の給料としては妥当な金額であったのだが。
その妻というのが何とも不愉快な女性で、テレビカメラの前での言い訳の仕方に国民が総反発。
いやはやの事態となり、結局フィヨンは最後の最後で盛り返し絵きたとはいえ、4位に終わってしまった。
そのフィヨンの支持者たちが、にっくき対抗勢力である「左派」マクロンに投票するくらいなら、移民政策で近いル=ペンに、という「95年に鼻をつまみながらシラクに投票した社会党支持者たち」のような、極右ブロックのための理性的投票をやりたくない人たちが結構出てきている。
共産党を割って出た左派の極左メランションも、極右を阻止するためにマクロンに投票を、と呼びかけない卑劣漢ぶりに共産党もカンカン。
そして、ついには文字通りの『狂想曲』てき大統領選挙に成り下がってしまっている
フランス社会を二分してきた勢力である『右派』と『左派』と、両方ともに自分たちが推したい候補者がいない、悲劇的で力の入らない大統領選挙。。。
残りの一週間で、果たしてフランス人の理性は目覚めるのか。
それとも、NHKを筆頭に日本のマスコミが煽り立てて期待する『反EU極右政権』が誕生してしまうのか。
長く暮らしてきたフランスだが、今回はフランス人の良識に「少しばかり」不安を抱かざるを得ない状況になりつつある様な気配が感じられる。
「私は断固として白票を投じる」と断言したおじさんがいた。
この人は、第一回投票ではアモンだった。
奥さんはフィヨンに投票し、第二回目はル=ペンだと、夫を見ながら。。。
白票は、確実に増えるだろう。
白票が増えれば増えるほど、マクロンには不利になる。
ル=ペンに入れる人は確信的だから。
最後には、良識が目覚めるとは信じているのだが。。。
その半分が過ぎて、フランスは混迷の度を深めてきた。
なぜならば、候補者がいない。
元来、フランスは第二次大戦後の第五共和国になって以来、常に左右の対決で今日まで続いてきた。
拙ブログを始めて以来、頻繁に書いてきた通り、ローロッパは階級社会。
今は、官吏階級と労働者階級。
教養も人生観も生活様式もまったく違う。
それを政治的に集団化すると、「右派」と「左派」とに分けることが多かった。
右派はウヨクとは違うが、複数の保守党が利益代表者であり、左派もサヨクとは違うが、通常は「社会党」「共産党」が代表してきた。
中間層は一応官吏海草に含まれ、保守で右派。
労働者は組合に属し、その組合毎に政党が違う。
正しく言えば、自分が支持する政党の傘下の組合員になる。
弱小政党も含めて、各政党は選挙には必ず候補者を立て、第二回に残れなかった政党とその支持者たちは、上位二名の決戦投票に残ったそれぞれの左右の候補者に投票する。。。
ところが今回は、右派も左派も自分たちの候補を持た無い選挙となってしまった。
一回目で一位となったエマニュエル・マクロンは、中道右派ということになっている。
社会党の党員として積極的に活躍していたにせよ、政治家としてのキャリアが見えにくく、思想的に確立していと思われている。
言っていること、やろうとしていることは、けっこう新自由主義的なところも多い。
ロスチャイルド銀行の頭取に気に入られ、ネッスルの毛営幹部を務め、億の単位の年俸を取っていた彼は、とても「左派」の代表とは言い難いと、思われている。
かといって、社会党の重鎮ジャック・アタリに見出されて政治の世界に入り、ミッテラン政権の重鎮ジャン・ピエール・シュヴェルヌマンの側近で、現大統領フランソワ・オーランドの経財相を務めた彼が、右派側から言えば「サヨク」そのもの。
他方マリーヌ・ル=ペンは、ギトギトの極右。
左派からも右派からも、アウシュヴィッツの存在を否定し、ナチを信奉する、蛇蝎のごとくに嫌われてきた極右政党『国民戦線』の現党首で、先代の名物男ジャン=マリー・ル=ペンの実の娘と来ては、到底支持できるものではない。
というわけで、今回の大統領候補は、右派からも左派からも「自分たちの代表」が居ないとう、極めて変則的な選挙と相成ってしまったのです。
こうなると、あとは憎悪のぶつけ合いで、敵の敵は味方、味方の味方は敵、みたいな「ワケワカメ」状態に立ってしまったワケなのです。
政治的立場というより、嫌悪感のぶつけ合いのような。。。
街角の選挙ポスター掲示板は、引っ剥がし合いの様相。
とっても嘆かわしい状態。
エマニェル・マクロンは、エリートの中のエリートみたいな人間ですが、以外と苦労人なのです。
彼は、北部フランスの都市アミアンの出身。
高校二年までアミアンで過ごし、三年からパリの超名門校『アンリ4世高校』に編入した。
今でこそ衰退しているものの、その頃のアンリ4世高校といえば、同じくパリのルイ・ル・グラン(ルイ大王)高校と並んで、shぽうわ40年代種痘の日比谷高校みたいなものだった。
日本以上に超超学歴社会のフランスでは、学校格差は日本どころではないのです。
地方の高校から(おそらく成績優秀だったであろうが)全国の高校最高峰の最終学年に編入するという、リスクというか冒険に飛び込むには相当の自覚と野望とがあってのこそ。
普通入れてもらいない。
地方の高校の成績優秀でいた方が、いきなり最終学年だけ超一流校に入って、その中でどういう成績を取れるか不透明である以上、その後の進路の計算を立てにくい。
フランスは世界の中でも極めて珍しい学校制度を確立しているのです。
しかし、そのことは今日は話題にしない。
彼はアンリ4世校を終え、高校卒業資格試験バカロレアはS(数学・理系)で最優秀のメンション付きで合格すると、大学よりもっと高度な『大学校(グランド・エコール)』に進むための「予科」に残る。
最終学年だけ在籍したアンリ4世校の予科に、そのまま進めたこと自体彼の優秀さを物語る。
2年の予科在籍ののち、フランスの最高学府『国立行政院(ENA)』に願書を出したが、2年連続で筆記試験に失敗。
第一回目の挫折。
しかし彼はパリの大学に進む。
予科の2年は大卒(学士)扱いなので、3年生(修士課程)に編入して、なんと哲学を専攻した。
パリ第10大学(パリ=ナンテール大学)で哲学修士号、上級修士学位を取得と同時に『パリ政治学院(シアンス・ポー)』(ENA、ポリテクニーク、ENSの三大GRANDES-ECOLESに次ぐ難関校)に進み、24歳で卒業ディプロムを取得。
これだけでも十分なエリート資格なのだが、さらに彼はここから念願のENAに進学に成功。
要するに一部で言われているようなボンボンとはまったく違う、ものすごい努力と才能に恵まれた人なのです。
フランスのエリートは、右も左も最高学府を出ていて、エリートとしては同格。
権力の座にあるとき(与党の間)は要職を歴任し、政権を失えば大企業や国の機関の要職を歴任する。
そういう意味では、仲間同士みたいなものではあっても、政治の土俵では政策の目標が「企業」か「国民」か、しっかり左右に分かれている。
そういう意味で、マカロンはイメージ的に損をしている。
マリーヌ・ル=ペンは、出来損ない。
創業家の二代目。
わずか80名ほどで45年前に創設された Front Natinal (国民戦線)という極右政党は、創業者ジャン=マリー・ル=ペンの、常に喧嘩腰で、歯をむき出して醜く歪めた顔でアジ演説をする、ナチスムん傾倒し、社会の問題のすべてをイスラム移民のせいに初手を罵倒し、フランス国内の日の当たる場所には居所がないという感じで、ひねくれたハグレ者たちの集団だった。
時代が違っていれば、スタジアムで暴力沙汰を起こすフーリガンになっていたか、もしも中東に生まれていれば<IS>を組織していたかもしれない、要するに哲学のない反体制の象徴で,逆に言えば社会に必ず少数存在するヤクザ者たちの受け皿であった。
そういう理由では、それに集う社会的落ちこぼれで弱者でもある不良大人たちのシンボルのジャン=マリーの娘として、取り巻きからはちやほやされて育ってきたわけだ。
父親自身が、自分の狂犬的言動にブレーキをかけて、政治勢力としての存在を確立しようと奮闘していた右腕たちを追放したりというかなりのバカ殿ぶりを見て育ち、結局FNの党首を引き継いだあと、父親を締め出してその影響力を排除してしまった、ツッパリ娘でもある。
まったく畑違いだが大塚家具の娘みたいな、危うさがある。
教育は、国の舵をとる立場を担うような階層のそれとはまったく違って、単にパリ第二大学(Paris=Assas 大学)で修士どまり。
今の時代なら、極めて平凡で中間層にすら止まれないレベルの教育しか受けられなかった。
政治学はおろか、社会経済学、その他リーダー層を担う分野の教養はまったくないに等しい。
ただ、FN自体が代替わりした分支持者たちも代替わりしてきており、世代が若くなってくるにつれ国の「経済的問題」の多い時代にそれぞれの分野でまともに暮らすのに困難を覚えている人たちに「目先の受け」がよく、支持を拡大している。
マリーヌ本人の力量でというよりは、右肩下がりの時代の流れが必然的に味方した、という感じ。
そこで本題に入れば、安定した社会の延長を求める「保守層」は、必然的に右派であるフランス人社会にあって、マクロンの姿はサヨク的に見える。
「サヨクに政権が移ったら、私はフランスから出て行く!」と喚いてる老婦人がいたが(左翼政権の最中なのに)、彼の立場をよく表している。
では、その老婦人がル=ペンに投票するのか。
これまでなら「ありえない」ことだった。
ただ、トランプ大統領が登場し「あの手の」リーダーが、あんな風な滅茶苦茶なやり方を『アメリカ』でやっている現状を見るにつけ、ためらいが薄れ始めているようなのだ。
EUという鎖が『フランス共和国』を縛り付けている。
共通政策の足枷で、農業を筆頭に各種産業が「コスト(人件費)」の低いEU内の新興諸国に太刀打ちできない腹立たしさ。
農産品は、EU毛生直後はスペインとイタリア、その後ギリシア、そして今やハンガリーはチェコ、スロヴァキア、ルーマニアなど
もともと物価の安い、従って人件費も安い新加盟国に対抗できずに多くの農家が廃業の憂き目を見ている。
何しろ、ハンガリーの人件費はフランスの1/8なのだから。
経済的に国境がない以上、長距離トラックや観光バスなども完全にシェアーを奪われてしまう。
フランスやドイツの税金である供出金で、旧東欧各国に高速道路やその他のインフラを建設する腹立たしさ。。。
ヨーロッパが「なぜ」統一しようとしてきたのかという背景、その理由や目的、それがもたらす筈のもの、という価値観に理解の及ばない「労働者層」は短絡的にEU反対を唱えるル=ペンに共感を持ってしまう。
右派は右派で、経済的背景以前にフランス共和国の存在価値の低下、EU 官僚の独走に見える理想主義運営に反発し、EU政策がこれまでと変わらないマクロンに批判的視線を投げてしまう。
それに加えて、イスラム移民の多さ、彼らの社会のフランス社会に溶け込めない状況による社会の矛盾(溶け込めないのは、イスラム移民たちへの差別が有形無形に存在するからなのだが)がもたらす周辺自治体の荒廃、社会的安定の揺らぎ、治安の悪化、などなどに日々ふれていると、どうしても『EUの移民政策』には承服しがたい。
その感情は、国民戦線の側と同じ線上に立ってしまっているわけだ。
そんな右派保守派の市民たちは、マクロンに二の足を踏んでしまう。
しかし、だからと言ってル=ペンに大統領になられるようなフランスはありえない。
思いは千々に乱れ、複雑に交錯し、最終的は互いの反対派への憎悪が膨れ上がって行く、非常に理性にかけた選挙戦になってしまっている。
二大勢力の戦いであるフランス社会は、政治も二大勢力の戦いであった。
右派の政治が庶民階層に不満を積み上げて行くと、次の選挙で政権交代する。
左派政権が飽きられ始めると、次でまた政権交代。
その度に、高級官僚は総とっかえ。
それで、お互いの勢力の不満を吐き出させ、吸収して、フランス社会は均衡を保ちながら今日までやってきたのだ。
5年前、超不人気であったニコラ・サルコジーには、勝ち目はなかった。
フランソワ・オーランドが楽々と当選し、シラクとサルコジーに次いで三政権ぶりに社会党政権となったものの、オーランドの間抜けぶりに国民は呆れかえってしまった。
サルコジーに次いで、たったの一期で政権を明け渡すはめになる。
ここで、左派政権は『社会党』の枠組みを超えて「左派統一候補」的に全国で予備選挙を行った結果、社会党でもなく、共産党でもない候補者エマニュエル・マクロンの登場となったわけだ。
ただ、現政権の負の影響は大きく、右派の『共和党(共和国党)』の政権奪還は既定事実のはずだった。
しかし、最も大物だったアラン・ジュペ(シアク政権の首相を務め、シラクをコケにして遠ざけられた)が名乗りを上げて混乱が始まる。
サルコジー政権で首相だったフランソワ・フィヨンが、共和党内では極右であるが、結局候補者となり楽勝のはずだった矢先に「妻のスキャンダル」が暴かれる。
20年来妻を政策秘書に登用し、給与が支払われていた。
支配階層(政治家)の人物の政策秘書の給料としては妥当な金額であったのだが。
その妻というのが何とも不愉快な女性で、テレビカメラの前での言い訳の仕方に国民が総反発。
いやはやの事態となり、結局フィヨンは最後の最後で盛り返し絵きたとはいえ、4位に終わってしまった。
そのフィヨンの支持者たちが、にっくき対抗勢力である「左派」マクロンに投票するくらいなら、移民政策で近いル=ペンに、という「95年に鼻をつまみながらシラクに投票した社会党支持者たち」のような、極右ブロックのための理性的投票をやりたくない人たちが結構出てきている。
共産党を割って出た左派の極左メランションも、極右を阻止するためにマクロンに投票を、と呼びかけない卑劣漢ぶりに共産党もカンカン。
そして、ついには文字通りの『狂想曲』てき大統領選挙に成り下がってしまっている
フランス社会を二分してきた勢力である『右派』と『左派』と、両方ともに自分たちが推したい候補者がいない、悲劇的で力の入らない大統領選挙。。。
残りの一週間で、果たしてフランス人の理性は目覚めるのか。
それとも、NHKを筆頭に日本のマスコミが煽り立てて期待する『反EU極右政権』が誕生してしまうのか。
長く暮らしてきたフランスだが、今回はフランス人の良識に「少しばかり」不安を抱かざるを得ない状況になりつつある様な気配が感じられる。
「私は断固として白票を投じる」と断言したおじさんがいた。
この人は、第一回投票ではアモンだった。
奥さんはフィヨンに投票し、第二回目はル=ペンだと、夫を見ながら。。。
白票は、確実に増えるだろう。
白票が増えれば増えるほど、マクロンには不利になる。
ル=ペンに入れる人は確信的だから。
最後には、良識が目覚めるとは信じているのだが。。。