すぐる四月、『核燃料廃棄物』最終貯蔵庫の建設中サイトを訪れた。
先ず真っ先に言っておきたい。
日本で言う様に『廃棄物最終処理場』ではなく『最終貯蔵施設』である。
『最終処理場』というと、なにやら『処理されて無害』だという誤った印象を与えることに、繋がりかねない。
パリから東、シャンパンで名高いシャンパーニュ地方を通り過ぎ、ドイツ国境ライン河畔のアルザス地方の一つ西側『ロレーヌ地方』に入ってすぐ。
モーゼル県の田園地帯のど真ん中『ビュール』という小村の外の畑の中にある。
ロレーヌといえば、アルザスと並んでフランスとドイツとが取り合った場所。
かつては鉄鋼業で栄えたが、日本の製鉄業に淘汰され、かつての「高炉」の数々は恰も廃墟のごとくに残っている。
70年代の斜陽産業を代表し、ロレーヌは失業者で溢れかえった。
その後、世界の製鉄業は韓国に席巻され、さらに今では中国が君臨している。
パリから東進すること260km、ロレーヌに入ってすぐはムーズ県。
その名の通り、ムーズ川が北進し、ベルギーに流れてゆく。
ちなみにそのすぐ東側はモーゼル県で「モーゼル河」がドイツに流れるこみ、ザール川と合流したのち北進して、ライン川に注ぎ込む。
そのムーズ県の県庁所在地「バー・ル・デュック」の南30kmほどで、ビュール村。
日本の方でご存知の方もいらっしゃるでしょうが、名物料理として『キッシュ・ロレーヌ』という、一種のホット・パイが世界に知られている。
キッシュ・ロレーヌ
ネギとベーコンをたっぷり入れた、茶碗蒸しをパイ形に固めたみたいなもの。
訪れた時は、まさに菜の花が周囲を覆い尽くしていて、天国のようなのどかな光景であった。
しかし村に近づくと、地名表示のサイン・ボード『ビュール核燃料廃棄物貯蔵施設』はペンキで汚されていた。
汚された表示のサイン・ボード
サイトに到着。
正面ゲート
のんびりムードに包まれた正面ゲートから身分証を出して、あらかじめ準備してあった「入館証」を受け取る。
入館証
『一般 / 地下研究所』と書かれたこのIDを、首からぶら下げて歩き回ることとなる。
まず最初は、数キロ離れた広報センターに案内された。
核燃料処理地下実験所広報センター
ここは、事前連絡をしておくと誰でも見学できるらしい。
ガラス張りの明るい内部には、核と放射線のABCから、廃棄物をどのように貯蔵するのかの概要がつかめるように、パネルや模型などが展示されている。
『1mSvの被曝とは
肺のレントゲン撮影を3回行った場合
パリ首都圏で17ヶ月暮らした場合
標高1500メートルの高地で3年
花崗岩岩盤の土地(ブルターニュ地方 中央山塊地方)で9ヶ月
パリ/サンフランシスコを飛行機で7往復
に相当』
放射線を防ぐには。。。
『α線は紙を通さ無い
β線は紙は透過するが、アルミフォイルやガラス板は通さ無い
γ線は、紙もアルミフォイルやガラスも透過するが、コンクリートと鉛板は透過し無い』
それぞれの物資の防護フィルターの例。
貯蔵施設の概念図。
低濃度汚染廃棄物は地上保存。
中・高濃度汚染廃棄物は地下貯蔵。
ガラス固化した中濃度汚染廃棄物を入れる鋼鉄カプセルと、複数のカプセルを収納するコンクリート容器。
高濃度汚染廃棄物のカプセルとコンクリート容器。
それぞれの原発から回収された各汚染濃度の廃棄物は、処理工場で裁断圧縮され、この写真のような容器に封入されて、最終貯蔵所に搬入されるらしい。
この広報センターのすぐ近くに搬入受け入れ建屋を作る。
そこで特殊車両から降ろされた廃棄物は、コンクリート容器ごと頑丈な鉄枠のコンテナーに収めて、4000メートル離れた深度500メートルの地下貯蔵庫の位置まで、無人搬送機で降ろされる。
地下500メートルの貯蔵所は高さ6メートルほどのトンネルが張り巡らせた様な構造となっている。
壁のコンクリート色の部分がトンネルの大きさを表し、カプセルを収めたコンテナーを2列に2段に積み重ねる。
上の薄緑色の部分がクレーンで、自動操縦でコンテナーを所定の位置に運んで積み重ねる。
それが済むと、クレーンの高さに3段目を押し込んで重ねてゆく。
最後は2列3段貯蔵となる。
鉄枠の囲まれて固定されたコンクリート製コンテナーの実例。
それとは別に、トンネルの特定の場所の壁面から直角に小さな直系の長いトンネルを掘る。
その中に『高濃度汚染廃棄物』のカプセルが数珠繋ぎで押し込まれて保存されるそうだ。
高濃度汚染廃棄物を一列に繋いで押し込む例。
一列にカプセルを押し込む装置。
右側のオレンジ色の大きな部分が、押し込む際のピストンを押す機械部分。
これらのパイプは実際にはトンネルであり、岩盤の中に穿たれているのでこの様なむき出しの姿ではないことは、言うまでもない。
貯蔵される使用済み汚染核燃料廃棄物の種類と質量、線量の比較チャート。
『HA』は、高濃度汚染廃棄物。
貯蔵体積は0,2%ながら、貯蔵線量は98%を占める。
『MA-VL」は、長期崩壊放射線中濃度汚染廃棄物。
体積が3%で、線量は2%。
『FA-VL』は、長期崩壊放射線低濃度汚染廃棄物。
6%で、0,01%。
『FMA-VC』は、短期崩壊線量低濃度汚染廃棄物。
60%で、0,02%、
『TFA』は、微線量汚染廃棄物。
30%で、0,000004%:
ということになるらしい。
『TFA』は、オーブ県(ロレーヌ地方)シール村の地上保存所。
『FMA-VC』も、同じ県内の施設の地上保存所。
『FA-VL』は、底深度地下貯蔵を検討中。
『MZ-VL』と『HA』を、当地にて深度500メートルの地下貯蔵。
一渡り説明を受けたら2時間半経っていた。
一旦昼食のために中断することとなる。
サイトの柵の外、中央ゲート近くに、職員用と訪問者のためのレストランがあるそうな。
外観はなんとも「素敵なレストラン」の雰囲気。
バー・カウンターまである。
一般社食より高いメニューの、レストランで食事。
窓からの眺めものどかそのもの。
なんと「原発の出した核のゴミ」の貯蔵施設から、のどかな田園の背景に並ぶ『風力発電の風車』の列。
なんともシュールな眺めとしか…。
そしてロビー。
この上の会には客室があり、ホテルとなっている。
世界中から、研究者や原発関係者の訪問が多いらしい。
ゆっくり昼食をしたためて、午後はいよいよ地下500メートルに降りて行きます。
【次回に続く】
黄色と黒の違いですね。そりゃもう見事なもんです。