晴れのち曇り、時々パリ

もう、これ以上、黙っていられない! 人が、社会が、日本全体が、壊れかかっている。

英国のEU 離脱の騒ぎが、日本の現実に重なって見えてしまう…。

2016-06-24 20:45:05 | フランスとヨーロッパの今日の姿
「やっちゃったなあ…」



ヨーロッパは階級社会である。

アンシアン・レジームにおいては『王侯・貴族・高位聖職者』と『平民』との対立構造。
人口比でいうと、2%と98%程であったようだ。

この二つの階級に間には、ほぼ乗り越えることは不可能な壁が存在した。

唯一の例外は、庶民の若い娘が年老いた貴族の、妾ではなく「老後の妻」となる例。
又は、口減らしで修道院に入れられた貧民の息子が、才能を発揮し、努力が報われて「高位」の聖職者に上り詰める例。


この階級制度は、19世紀の産業革命で旧支配階級に変わって「産業資本家」という新顔が登場するに及んで、構成が変化した。

産業資本家、つまり金持ちの町人が経済的には力をなくしてしまった「旧支配階級」と婚姻関係を結んで地位固めをして行くこととなり、いわゆる「閨閥」が形作られていったのである。


そして現代において『政財界の頂点を構成する統治階層・高級管理階層・中級管理階層・ハイレベルな文化人』と『下級管理層・一般労働者』という構図になる。

一言で言えば『富裕層』と『平民層』である。

この二者の間にも、越えられない高い壁が存在する。


そしてこれら夫々の階層の人たちは、生活の豊かさだけではなく、価値観・教育レベルが全く異なるのだ。

『富裕層』の子弟は、小学校から既に庶民とは違い、約束された人生を送れる高度な教育を受けられるコースを歩む。
社会に出ると、官民問わず最初から年収5万ユーロ位を得て、中間管理階級の地位から人生をスタートすることになる。
その後、階段を登って行くごとに年収は飛躍的に増えてゆく。
年金も、年収の最も高かった20年分の平均値でほぼ100%支給される。


『平民層』の子供たちは、国家が提供する無償の教育受け、年収1万5千ユーロ(つまり最低賃金をほんの少し上回る程度)で、せいぜいセクションの長まで行ければいい方でおそらく40年ほどの人生を送り、年収の50%程の年金を頼りに老後を過ごす。

教育水準が、初等教育の時点から既に桁外れに違うので、義務教育の後で「平民層」子弟が「富裕層」の子弟が通う学校に経済的に行けたとしても、恐らくついて行けない。

従って「管理階級」は、高度なが教育的訓練を積むおかげで、長期の視点を持って物事を把握できるし、分析力も優れている。
もちろん個人差もありミスもあるだろうけれど。


日本ではエリートと思われている銀行員でも、支店長と次長は「管理階級」者でも、その他の行員は「平民層」なので、作業はトロいし接客にもミスが多い。

フランス語は綴りや発音が複雑で、動詞の活用や性(ジェンダー)の一致など真面目に学んでこなければ身につかない事も多いので、スーパーでレジを打ってる係、郵便配達の人、水道工事人、工場の工員さんたち等は自分の名前を書くのが精一杯というレベルも、大袈裟ではないのです。


この様な社会構造は、英国もフランスも変わらない。

そして、社会が経済的に苦しくなってくると、当然「平民層」が犠牲になる。

失業率が高止まりし、経済成長率が2%前後でしか推移しない現在、庶民が最も敏感になるのは「移民」問題になるのは、仕方のないことなのだ。

そこに、極右の台頭する余地が出てくる。

経済的に困難に直面すると、庶民は過激な思想に流され、扇動されやすくなりる。
そして、状況把握が正確にでくないので、正しい判断ができにくくなる傾向が出てくる。


話が回りくどくなってしまった。


今回のイギリスにおける、国民投票の結果は、まさしくこの構図が当てはまっているようだ。

街頭にインタヴューを見る限り「離脱派」の根拠は「移民が多すぎる」という事の様であった。

『私たちの税金が、移民のために使われている。教育も病院も社会保障も、』
『EUで国境がなくなって、移民が大量に増えてしまった。』
『選挙で選ばれていない(EUの)官僚が方針を決め、加盟国の自治が無視されている。』
『イギリスは強い国だ。EUなんかに居なくても十分やっていける。』

という様な意見がほとんどであった。

そこには、EUが築かれてきた歴史の流れも理念も理解されないままに、ただ刹那的感情論で長期的な視点に欠けた動きが、熱病の様に広がっていった様だ。




それに加えて、日本では理解されていないが「連合王国民」は「ヨーロッパ人」ではない、という背景が存在する。

かって、各種国籍の混じり合った人たちがいる場で、「英国はヨーロッパではない」という話題になった事があった。

問いただしてみると、その場にいたフランス人もイタリア人もベルギー人も「ああ、イギリスはヨーロッパじゃないよ」と答えたのです。

英国人に取って自分たちの言語で「European」(ヨーロッパ人)というのは『大陸』の人たちを指し、自分たちの事は「British」と言うのです。


11世紀なかば、7つの土豪国に分かれていた「イングランド地方」を、仏大貴族が全イングランドを初めて統一して誕生した『イングランド王家』が、その後他のフランスの大貴族の血も入って、百年戦争で大陸側に所有していた領土を最終的に全て失い、ブリテン島の支配だけに専念するようになって以来、大陸に対する特別な感情を形作ってしまった。

ナポレオンが全欧州を席巻した時には、その勢力がブリテン島にまで及ぶ事を極度に恐れ、ナポレオンに敗れた各国の王家を糾合して『対仏大同盟』を形作ってフランスを封じ込めようと努力したことも、英仏海峡トンネルを経由してフランスのTGV(高速鉄道)の英国乗り入れに長らく反対していたことも、全て彼らの独特の感情が見え隠れする証左なのであろう。


EUは各国の一定の独立は保ちながらも、社会の規格や経済の制度の境界線を撤廃して、一つの大きな社会経済単位を作り、米国と日本(当時)、今は米国と中国という二局に対抗する第三極を形成して、国際的存在感を高めて維持しようという、試みである。

主権国家の独自の権利である「通貨」まで統一して、「ドル」と「円」対抗して行こう。
ましてや出入国管理や関税を撤廃し、資格制度を相互に認め合う、まさしく広大な一つの連合国にしようと。

西ローマ帝国崩壊後の、15世紀にも及ぶ敵対関係をなくすという、「戦争放棄」を歌った日本国憲法とも比較できるほどの壮大なる「夢のような」試みだったわけです。


しかるに英国は、ユーロを採用せず自国通貨にこだわり、メートル法に統一することも拒否し、車の左側通行も国境での出入国管理(要するにパスポート検査)もそのまま継続してきた。

いわば、欧州統合による各種利益だけは享受して、協調はしないという「良いとこ取り」で今日までやってきた。


メルケル独首相の一人勝手な独演会で「移民受け入れ」を拡大して以来、英国の世論が一気に移民(難民流入)への不満で固まってしまった。

(メルケルは、中国の不平等ビジネスをEU内部で強引に受け入れさせて、中国の利権を握るという自分勝手もその後に大きな対中国貿易に大きな問題点を残してしまったが)



『EUのおかげで、移民がどんどん入ってくる。』

全く根拠のない主張である。

イギリスは、出入国管理を続けている。
難民が自由に入国できるわけがない。

英語しか話せないシリアやアフリカの難民が、英国入国を目指してフランスの英仏海峡の町カレーで足止めを喰らい、数万人がテント生活を強いられてきている。

島国英国に、ヴィザなしで自由に人が流れこむことが不可能なことは、すでに現実として目に見えている。

移民の増加は、EUのせいではない。


そして、EU圏内との商業取引が60%とも言われている経済にとって、今後関税やら法的な様々の輸出入手続きやら、これまでの特権を全て無くしてどうやって国力を維持できると思っているのやら。


『英国は世界屈指の強国だ。EUがなくとも、英連邦(南ア・オーストラリア・ニュージーランド・インド・カナダその他)があるので十分だ。』

本当にそう思っているところが、おめでたいのではなかろうか。

英連邦(コモンウエルス)だって、経済的つながりは、米・中・EU・そして日本)との関係だって大きいはずだ。

そういった「相対的、長期的分析」も「展望」も持てないのが、今回の国民投票で「離脱」に投票した「一般大衆」階級なのである。
悲しいことに。


これこそが、洋の東西を問わずに極論に走る過激集団のつけこむ隙なのだ。

そこには、過激なことを言いふらせば言いふらすほど、その種の庶民を洗脳しやすくなる、という事実につながっている。


『北朝鮮がミサイルを発射する』
『中国が軍事拡大が止まらない」
『沖縄も攻め込まれるゾ』

『だから自衛隊の装備を拡充せよ』
『米国と組んで中国封じ込めのために共同作戦を』

『そのためには平和憲法を変えなければならない』


『日の丸と君が代の義務化』
『国民統制法』
『愛国心を高めよう』


「参院選で安保法制ガー、とか平和憲法ガー、とか言ってても食うや食わずの若者の胸に響かない」という声が、一部の反安倍政治側と思しき若者の側から聞こえて来る。

欧州とは違う日本で、教育水準が低いからとか価値観が…などとは言わない。

しかし、大局的に物事を見てその奥にある事実を見抜けない、という意味で今回の英国の「離脱派」と同じ思考形態であると危惧する。

そこには、どうしても教養というか、常識の深さが関わってくるのは否定できないのです。



ところで『イギリス』いう国はない。

『グレート・ブリテン連合王国』というのが国名。

「イングランド王国」が「ウエールズ大公国」と「スコットランド王国」と「アイルランド王国」を武力で統合した結果である。

そのうちの「イングランド人」という言葉「イングリッシュ」を幕末に耳で聞いて『エゲレス』と表記するようになって、未だに『イギリス』を国名のように使っている。

しかし、連合されてしまった側は当然不満がたまっている。

いつまでも「連合王国」にとどまっているのはうんざりだ、という思いが当然存在する。

そして、スコットランドもアイルランドも、英国がEUから離脱してバラ色の明日があるとは思えない人々が多いのだ。

だからこそ、スコットランドをアイルランドは「残留」の方が多かった。


離脱ということになると、スコットランド人たちはますますイングランド離れの心理状態になって行くだろう。


一昨年の住民投票で、分離派が一度負けたとはいえ「分離独立」の声はますます高まらない訳がない。

独立を問う住民投票の再度の実施を求める声が、すでに高まっている。

もし、近々住民投票が行われれば、独立派が大勢を占めるやもしれない。

そして『スコットランド王国』が「連合王国」から独立すると、次は北アイルランドの番だろう。


そういった視点は、分離派の人達には持てないのだろう。



目先の不平不満に動かされる。

これは、庶民の本能であろう。
それを否定することはない。

だがしかし。

階級による「教育水準」の差。
その差が生み出す、階級の永久的固定化と、統治制度の安泰化。



現在フランスでは、サッカーのユーロ選手権が開催中。

そして、各国のサポーターが各地で衝突し、街のあちこちで騒動を引き起こしている。

そもそも日本と違って、ヨーロッパではサッカーは下層階級のスポーツなのだ。
上流階級はラグビー。

その現実は、小学生からかわらないのです。

普通の人たちの子供達が通う公立校では、当然のごとくに子供達はサッカーに打ち興じる。
しかし、富裕層が通う私立校ではラグビーなんです。

その差は、サポーターを見れば一目瞭然。

サッカーのサポーターは、刺青だらけでビールをラッパ飲みしながら騒ぎ立てる。
もちろん、これは類型化して言ってるだけで、そうではない平和な家族やカップルも応援しているのは事実。

しかし、ラグビーでサポーター同士が乱闘騒ぎなど、聞いたことがない。

これが現実。



いま、日本も「階級社会路線」をひた走っている。

すでに、富裕層でないと大学に進学することも不可能になりかかっている。

社会人になると、当たり前の雇用形態であるはずの「正規雇用」が全体の6割を切って、経理的に原料や部品と同じ扱いの、使い捨て『非正規』『派遣』雇用が増え続けている。

いまは、まだ曲がりなりにも「かなり均質な」社会構造を持つ日本も、この政治が続けばいずれは欧州型の社会になることは、火を見るよりも明らか。

日々生きてゆくのが精一杯の庶民。
それすら不可能になりかかっている人たち。

かつかつの収入で、精神を豊かにする文化や芸術などに触れるチャンスもなくなって行けば、犯罪ももっと増えるだろうし、日頃のウサは贔屓のサッカーチームに入れ込むことで晴らそうとし、社会や国家の将来のことなど考慮する発想もなくなり、『貴族と平民』の社会が完成してゆく。

一応平等を謳ってはいたものの、これまでだって知る人ぞ知る通り日本の統治構造も「閨閥」で占領されてしまっているのです。

その事実が、否定しようもない衆目の一致する処となれば、国民の連帯感などもこれまでとは違った形態に移行するだろう。



日本では、イギリスをヨーロッパだと誤解してきた。

そして、国際語となった「英語」の国だということで、英国は日本の政治や経済でも欧州各国の中でも、特別な扱いを受けてきた。

多くの企業が「欧州本社」をロンドンに置き、生産や販売の拠点をロンドンにおいて、そこから全欧州へのビジネスを展開しようとしてきた。

そして、その発想の危険性が今回の英国のEU離脱決定によって、あぶり出されて来たことになる。

多くの商品移動に関する法制上の問題、税制上のマイナスが、現実のものとなるかもしれない。


欧州では、昔から「ヨーロッパ」とは『大陸』を意味するのです。


これから、日本の皆さん方にはヨーロッパを、英国からの視点ではなく、大陸の側から見る視点を持って頂くのに、いい機会になったのかもしれない。



大陸側としては、これまで構築してきたEUの試みを一挙に瓦解させることは、大陸側にとってもかなりの負担を強いられることになる以上、英国に対してEU加盟国に準じた扱いをしてあげるのか。

それとも、散々「いいとこ取り」でわがままを貫いてきた英国に、きっぱりとした対処をとるのか。

それは、まだわからない。


しかし英国は、離脱すれば世界の中の一つの小さな国の一つ、として生きてゆかなければならなくなる事も大いにあり得ると、覚悟して投票したのだろうか。


おそらく、想像ができていないと思われる。

特に、散々「離脱」を煽ってきた扇動家の政治リーダーたちの、あの喜ぶ表情をみると、そんな思いが強くなる。


『東京五輪』決定の際の、安倍やら森やら、猪瀬やらの顔とダブって見えてしまった。


人ごとではない。。。









コメント (10)
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