晴れのち曇り、時々パリ

もう、これ以上、黙っていられない! 人が、社会が、日本全体が、壊れかかっている。

振り子は左に振れた。仏国民は「新自由主義」を否定し、伝統の価値観に戻る為に左翼政権を再度選んだ。

2012-05-06 22:38:19 | フランスとヨーロッパの今日の姿
2012年5月6日、フランスの振り子が「左」に振れて、新たなフランス共和国大統領が選ばれた。

フランス社会党第一書記であった『フランソワ・オーランド』である。



     
     フランソワ・オーランド新大統領



1958年に、憲法改正により、それまでの国会議員による間接選挙で選出されていた「大統領」を、国民投票による直接選挙に変えた『第五共和制』下での、七人目の大統領となる。

ちなみに、第五共和制により大統領の権限が増大し、『元首』から『国政のリーダー』へと変わった。

第四共和政に比べて立法権(議会)の権限が著しく低下し、大統領の執行権が強化され、行政・官僚機構が強力なのが特徴である。


初代 シャルル・ドゴール (二期10年)二期目は任期途中で辞任。
二代 ジョルジュ・ポンピドゥー 任期5年目で病死。
三代 ジスカール・デスタン
四代 フランソワ・ミッテラン (二期14年)
五代 ジャック・シラク (二期12年)
六代 ニコラ・サルコジー 

七代 フランソワ・オーランド


第五共和制下の仏大統領は以下のような権限を付与されている。

★国民議会の解散権(これに対し、国民議会も内閣不信任決議権を持つ)。

議会で可決した法案に対する拒否権は持たないが、憲法裁判所へ申し立てをする権利を有する。

国民議会は国家反逆罪を除き、大統領への弾劾裁判権を持たない。
シラク前大統領も、現職中及び退任後1ヶ月は、パリ市長時代の汚職疑惑による訴追から保護されていた。アメリカの議会は軽罪でも大統領を弾劾裁判にかけることができる。


★外交権

議会を飛び越して法律案や条約批准案、憲法改正案を直接国民投票にかける権限。


★非常事態(第五共和政憲法第十六条)の行使権。

この権限が行使されている間、国民議会は開かれ、また憲法改正は制限される。


大統領は直接、有権者の投票により選出され、その任期は当初7年と先進国の中でも極めて長いものであった。

ただし、2002年ジャック・シラクが二期目の大統領選に出馬するため、「高齢」との批判をかわす目的での憲法改正により、大統領任期は5年に短縮されている。

これにより、任期五年である国民議会とも同じとなり、大統領選挙を国民議会選挙と同時期に行うことで、コアビタシオン(保革共存=与野党ねじれ)を生じにくくする結果となった。


首相は、大統領が任免権を持つ。


通常、大統領の懐刀を任命する事が多い。

しかし、与野党逆転となれば、議会与党の勧告により、議会与党トップを首相に任命する事が、通常となって居た。

大統領の七年の任期の後半、政策に批判的な国民が議会を保革逆転させる事が続いたため、大統領と首相とがねじれ状態となる事態が続いた。


国政の混乱を避けるため、首相は「内政」大統領が「外交」と「軍事」を役割分担を行う事が多い。

当然、大統領与党が、議会でも過半数を持っていれば、大統領は首相に対して、影響力を公使し易い。

ニコラ・サルコジーは、そのような政権維持を行って来た。

その分「首相」の存在が、薄くなってしまう。


2002年、シラク大統領の二期目は、社会党候補『リオネル・ジョスパン』が「左派統一支援」を得て有力視されたが、第一回投票では左派政党夫々が独自の候補を擁立し、社会党陣営の弛みも有って、第一回投票で『極左』国民戦線のジャン・マリー・ル・ペンの後塵を拝すし、決選投票に進めなかった。

左派支持者達は、<極右>阻止の為に「鼻をつまんで」シラクに投票した逸話が、有名である。


2007年も、サルコジー候補と、社会党の「セゴレーヌ・ロワイヤル」とが互角の戦いを繰り広げていた。

前評判が高かった「ロワイヤル」に、女性大統領への抵抗と、直前のテレビ討論会で、老獪なサルコジーによる挑発に引っかかって「弱さ」を晒し、結果としては、敗れ去った。



2012年。


     
     オーランドとサルコジーとの対決。


今回の、社会党大統領候補は、二転三転する結果となった。

前評判では、経済通でならし「IMF専務理事」だった『ドミニーク・ストロース=カーン』が、ダントツで有利を伝えられていた。

そこに来ての、ニューヨークでのスキャンダル。


     
     今回投票する『ドミニーク・ストロース=カーン』



フランスの左派は、再有力候補を一瞬にして失った。

その後は、スランス社会党内でのつばぜり合いが続いた。

ストロース=カーンに張り合って、立候補を表明していた『マルティーヌ・オーブリー』


     
     今回投票する「マルティーヌ・オーブリー」



リオネル・ジョスパンが引退して以来、社会党第一書記を努めて党務に励んで来た『フランソワ・オーランド』党第一書記。


     
     今回投票する「フランソワ・オーランド」



そして、一旦は鳴りを潜めていたが、再度色気を出し始めた『セゴレーヌ・ロワイヤル』


     
     今回投票する「セゴレーヌ・ロワイヤル」



三つ巴の<党内抗争>は、なかなか収拾しなかった。

何しろ「世論調査」によれば、この三人の誰が出ても、サルコジーには勝てるとあって、なかなか「身を引く」者が出てこなかった。


結局、党務を長らく務めて来た「オーランド」が、最終的に社会党大統領候補に落ち着いた。


しかし、今回の選挙の主人公達は、他にも居た。


今回「フランス共産党」は、長らく続く退潮傾向からの脱却を諮るべく、独自候補擁立を見送って「統一戦線」を組んだ、社会党離党組の『ジャン=リュック・メランション』は、選挙戦突入と同時に全国的な旋風を巻き起こし、今回選挙の行方を左右する「台風の目」と言われた。


     
     今回投票する「ジャン=リュック・メランション」



そして、移民の氾濫と社会情勢の不安定化、更にEUの独善性に対して、フランスの独自性にこだわる極右「国民戦線」の、創設者ジャン・マリー・ルペン引退後党を引き継いだ、娘の『マリーヌ・ル・ペン』が、貧困層野若者や、右翼勢力の支持を大きく集めた。


     
     今回投票する『マリーヌ・ル・ペン』




そして、中道右派の独立主義者『フランソワ・バイルー』


     
     今回投票する『フランソワ・バイルー』




第一回投票では、メランションが予想を下回り、バイルーも希望的目標の半分の集票に留まり、その分逆にル・ペンが大幅に票を伸ばした。


サルコジー陣営は、国民戦線の票が欲しいものの、「極右」と組むという命取りは出来ない。

マリーヌの側から「勝手に」支持表明してくれる事を期待した訳だったが、結局彼女は支持者達に「自由投票」を求めた。

『今回の候補を、私はどちらも支持しない』


この決定は、サルコジーに取っては痛手で、オーランドには吉報であったに違いない。

第一回投票の得票率17%超を、殆ど貰えると期待したサルコジーには、70%程しか行かず、30%程がオーランド側に流れた。


また、メランションが早々に「左派の候補」に投票を呼び掛けた結果、旧来の共産投票を得る為に行って来た「ネゴ」を必要とせず、その分政策に共産党から縛られる事もなく、共産党の閣僚を入れる必要も無くなった。


そして、今回サルコジー側に一番大きな痛手だったのは、中道『バイルー』の、直前になってのオーランド支持表明であった。

保守系と見られている「中道」層が、社会党に流れては、サルコジーも計算が狂ってしまった訳だった。


更に、今回の選挙で面白い事が合った。


かっての大統領で、サルコジーに「石もて追われた」『ジャック・シラク』が、オーランド支持を表明した事だった。

曰く。

『オーランドの方が、より<ド・ゴール主義>に近い』

怨み骨髄であったらしい。

ちなみに、シラク夫人は「サルコジー」支持。


        
     今回選挙の投票所での『ベルナデット・シラク』


選挙戦に対した影響は無い事であったが、ちょっとした「小話」となった。



今回の、フランスの国民の選択は、「グローバリゼーション」への『否』である。

前回サルコジーが大統領に当選した時に言われた言葉が有る。

『ヨーロッパの最後の砦が沈んだ』


ヨーロッパは、ヨーロッパとしての「矜持」を持って、20世紀のアメリカの台頭に対処して来た。

経済も、軍事力も、化学技術やサブ・カルチャーも、アメリカに対等に張り合う力が無い事は、ヨーロッパは理解している。

それでも、大アメリカ帝国に飲み込まれる事無く、独自性を保ちつつ存在して行く、駆け引きがある。

外交と言い換えても良い。

市民感覚と呼んでも良い。

『腐ってもヨーロッパ』


その、拠り所として、対抗手段として、EUの結成と推進とは、EUの存続を図る上で不可欠の物であった。

その、旗手が「フランス」なのだ。

経済力や軍事力で対等でなくても、国家の重みや存在の意義に追いて、アメリカと対等な関係を貫く。

所謂『ド・ゴール主義』である。

祖国愛。
祖国へのプライド。

そのフランスが、「アメリカ型経済」を主眼に捉え、アメリカ型競争原理を唱え、新自由主義を標榜する政治家を「大統領」に選んだ。

それが『ヨーロッパの最後の砦が沈んだ』だったのだ。


その結果は、悲惨であった。

公共サービスを根こそぎ切り捨て、病院は閉鎖と統合合併による規模縮小。

小中高校の教師の数は大幅減で、地区によっては教室あたりの生徒数が増え過ぎて、安全の確保もママならず教育水準も落ちると、父兄がピケを張って実力行使するところすら出る始末。

失業率は大幅に上昇し、又また二桁台へ突入と相成った。

郵便も、水道も、ガスも、皆民営化し、国民の不満は募るばかりであった。


「自由競争」と「自己責任」という表現は聞こえは良い。

しかし、そこに「スタートライン」の不公平が、無視されてる。


金融と為替と、それらの取引を優先し、EUの官僚主義的独走によって、農業と水産業とは、ドンドン存在が不可能になりつつ有る。

大規模流通による、小売り業の圧迫。

そこから来る、中小企業の経営難。


とにかく、マクドナルドやスターバックスが、溢れ過ぎた。

フランスの「伝統的社会階層」は、アメリカナイズに、心底うんざりしているのだ。



保守派層は、逆に「社会党政権」による「経済破壊」を恐れた。

オーランドは、公務員の7万人増を掲げている。

サルコジーが打ち出した、移民家庭の配偶者への保険適用廃止政策を、オーランドは否定する。

社会党の、金融面でも外交面でも「素人」のオーランドが政権を取れば、フランスは<ギリシャ><イタリア><スペイン><ポルトガル>と同じ結果に落ち入るに違いない…。


第一回投票の後、オーランドはサルコジーに6ポイント以上の差をつけて優位を保って来た。

当然、保守派似とっては必死で挽回しようと言う事になる。


結果として、フランス人は、アメリカ型新自由主義を否定した。

但し、その差は3%台にまで縮まった。


しかし、フランスの国民は、昔ながらの「伝統有るフランス」を選んだのだ。


サルコジーが、敗北宣言で語った言葉。

「選択は為された。私が守りたかった<大切な物>を国民は選んでくれなかった。この選択は受け入れなければならない。しかし、フランスがフランスである為にも、国民は常に監視を続け、国のためにならない事には、断固反対しなければならない。わたしは、スランスのリーダーから、一人のフランス人二もどる。私の愛して止まないフランスの為に、今後も努力を続ける」


     
     敗戦の弁を語る「ニコラ・サルコジー」



この言葉は、保革どちらの候補者の「敗戦の弁」にも通じるものだ。


彼等は、強烈な「祖国愛」に、突き動かされている。

大統領から、一般の市民に至るまで。

ただ、求め方が違うだけなのだ。

そして、その「祖国の為に」求める物を託す「指導者」を、老いも若きも全国民が必死になって選び、後押しをする。


勝った側も、負けた方も、選挙権を持ったばかりの十代の若者から、お年寄りまで何万もの人々が集まって、喜びに叫び、悲しみに泣いている。


政治は、生活そのものなのだ。



     
     当選の喜びを支持者と分かち合う「フランソワ・オーランド」



選挙の度ごとに、私は心底フランス人が羨ましくなる。



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7 コメント

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Unknown (kappa)
2012-05-07 15:56:55
>選挙の度ごとに、私は心底フランス人が羨ましくなる。

同意!
Unknown (junk_in_the_box)
2012-05-08 01:42:21
 選挙の王道というのがあるのかどうかはともかく、選挙のあるべき姿をフランスは持っている。そう思いました。ちょっときれい事に過ぎるかも知れませんが・・・。アメリカの選挙はぶっちゃけ“イベント”の延長線上で、お祭りが大きくなっただけみたいな幼稚さというか底の浅さを感じてしまうというか・・・。有権者が能動的に参加するという面は失っていないので全く意味がないわけではないのですが。

 有権者はもちろんのこと、国を背負う側の人間たちも生活の延長線上に自分たちの地位はあるのだ、背負う以上はそれ相応の責任を付託されるのだという覚悟を持っている。だから、必然的に選挙に真摯な姿勢になるのでしょう。

 流血を繰り返した歴史を持つフランスなら当たり前の精神なのでしょうが、日本ではそうした経験がない。その世代ではないですが、安保闘争くらいしか真剣に向き合ったことがないとズレたことを思ってしまいます。日本はその点本当に空虚だと思わざるを得ません。
どうでしょうね (不識)
2012-05-08 13:37:08
合衆国とはまた違った意味で、いつだってle numero unでなければ気に入らないフランスが、何ヶ月か後も、今回のこの決断に我慢していれば大したものです。

半年後の記事を楽しみにしています。

同じ感想で居られればいいですね。

何せ、フランス一国で世界が成り立っている訳では無いですから。 
kappa様。 (時々パリ)
2012-05-09 01:00:33
コメントありがとうございました。
老いも若きも、上流階級も底辺の人種も、皆が意識を持って選挙に積極的なのは、「羨ましい」です。
junk_in_the_box様。 (時々パリ)
2012-05-09 01:05:22
コメントありがとうございました。
アメリカの選挙は「ディズニーランド」の延長線上に有る様に見えますね。
こちらは、もっと「生活臭」がムンムンしています。
『権利』の意識が希薄なのは、やはり教育のやり方のせいなのでしょうか。
小学校一年生の子供でも、家庭での親の会話を聞いて、選挙の事に「何らかの」意見を持ちます(親の影響ですが)。
やはり、父親抜きで「テレビを見ながら夕食」というのが、日本をダメにした原因かもしれませんね。
不識様。 (時々パリ)
2012-05-09 01:17:12
初めまして。
コメントありがとうございました。
>いつだってle numero unでなければ気に入らないフランスが
それは偏見です。
本文にも書きましたが、政治的にも、経済的にも、軍事的にも、サブカルチャーや生活様式の影響力でも、アメリカに敵わない事は、良く解っています。
中国みたいに「大国」「一番」でないと気が済まない、そんな国民性での行動でもありません。
ただ、仏人達は「自分達のプライド」と言う物に対する向き合い方が、違うのです。
この点を、「アメリカが唯一」としか見ようとしない「思考停止」の日本の現状を分って頂きたくて、書いています。
今回の選挙で、オーランドが大統領になればなったで、問題が沢山起こるであろう事は、フランス人達も、私自身も、分っています。
それでも敢えて、これまでのサルコジー主義に<NON>を突きつけたのです。
最後まで、ためらい、悩み、考え抜いた結果が、当初の10ポイント差から4ポイント差にまで、縮めたのです。
これで、左翼は勢いづき、労組は気に入らない度にストを頻発するでしょう。
サルコジー時代に労働組合が押さえつけられていた分、勘違いして社会を混乱させる事にもなるでしょう。
そんな事は、皆分かっています。
>何せ、フランス一国で世界が成り立っている訳では無いですから。 
そんな事は、言われなくても当然で、むしろ<アメリカ一国で世界が成り立っている>としか考えない、日本の発想がおかしいのだと、拙ブログで常々訴えているのです。
日本にいらっしゃると、日本が如何に「アメリカ以外」が見えていないかが、ご理解頂けないと思います。
これは、アメリカ以外の外国に住んでみて、始めて気がつく事なのです。
Unknown ( 通りすがり)
2013-12-12 06:43:16
眺めてるだけの「お客さん」は気楽でいいですね

せいぜい円背負ったカモさんは

ごちそう喰い散らかして

テレビで他人事の外国政治に感心していてください

その方が豚沢応援団なんかされるよりは

人畜無害ですから。

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