joy - a day of my life -

日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

『ER緊急救命室』

2006年06月04日 | 映画・ドラマ


ドラマ『ER緊急救命室』を相変わらず毎週テレビで見たり、知人からDVDを借りたりしています。

ERをずっと見ていると、“死”というものを身近に感じるようになります。“病気”ということについても“死”ということについても、それが人にとって持つ大きな意味を、このドラマを何度も何度も見ていると、今までより感じるようになります。

ERでは末期治療の問題が繰り返し繰り返し取り上げられます。延命治療が同意するかどうかがいつも大きな論点になり、そのことをめぐって医者同士が衝突もします。苦痛を伴う延命治療を倫理的に批判する医者がいれば、法律遵守の点から治療拒否を行った患者に治療を施すことを厳しく戒める医者もいます。またどう治療すべきかという点で、知らず知らずのうちに患者を心理的にコントロールして自分の思い通りにしようとする医者もいます(それはもちろん善意からですが)。

このドラマを見ていて分かるのは、病気とその人の心理的状況・家族・人間関係が密接に結びついていること。病気をもつことの原因として、患者の周囲の人間との関係・仕事との関係などがそれとなく取り上げられます。それらの人生上の問題が病気として表れる、と明示的にセリフで語ることはしませんが、淡々とした事実の描写で語ります。

また貧困と病気との問題の結びつきもいつも取り上げられます。これは州立病院だからかもしれませんが、つねに貧困に陥る人が病気にかかることの多さをこのドラマは強調しています。

また「医者」という職業に就く人たちのメンタリティの描写も鋭い。明らかに倫理観に欠けていたり、虚栄心から医療に携わるような医者も描かれていますが、そんな分かりやすい“悪人”はドラマの中心人物ではありません。

むしろ中心になるのは、倫理的な潔癖さ・完璧主義・立派な医者になりたいというエゴをもつ、普通の秀才たちです。彼らは皆一様に倫理的に正しくありたいと願い、どこかで自分が絶対正しいと思い、それゆえにまわりの人と衝突します。

そうした普通の人がもつエゴを正確に描いているからこそ、このドラマでは医者が人間臭く伝わってくるのです。

またそうした倫理的潔癖さ・完璧主義と、彼らが金銭的不安につねにさらされていることとの結びつきも垣間見えてきます。

“医者”というと高給取りであるというイメージがあり、それは実際そうなのでしょうが(日本では平均で1千万を越える程度と言われている)、かと言って悠々自適に暮らしているわけではない。

とりわけこのドラマは公立病院だからか、奨学金の貸与を受け苦学して普通か貧しい家庭から“頑張って”医者になった人物が多いので、それゆえにどこかで金銭に対するコンプレックスをもち、それゆえに金銭からを目を背けるために・あるいはこの世に金銭など存在しないかのように、人助けである医療に打ち込み、つつましい生活をし、満足に睡眠も取らない生活をします(強いられます)。

いくら高給取りでも、官僚制としての病院の中では自分の思い通りに治療ができるわけではなく(このプレッシャーはアメリカではとくに強いらしい)、レイオフの危機にも曝されています。

医者という立場の不安定さ、そこからくるストレス、それが医療の現場に及ぼす様々なネガティブな影響、どこかギスギスした職場環境。また研修医の間は日本円で300万ほどの給料でやり過ごさなければなりません。


延命医療をめぐる問題では、主にこのドラマでは患者は安らかな死を選びます。安楽死を扱う回もあります。

安楽死の問題は、なぜ人は自殺してはいけないのか、という問いとして言い換えられるでしょう。毎年のように3万人以上の自殺者が出る日本では、この問いが無効になるほど、多くの人が規範を破っています。

安楽死を否定する人には、自分で死を選ぶ人の中に一種の怠惰、生き続ける努力からの逃避というものを感じ、そこに人間の目的から外れる安易さを感じているのかもしれません。

私たちはどこかで生の目的とは人間的成長であり、人生の道を前進することであり、壁があれば克服することであり、生きる目的とは生きることの意味を見出すことであるという観念があるように思います。

安楽死とはそのような成長の機会からの逃避のように、生を肯定する人たちには思えるのでしょう。

では、安楽死とは本当にすべてがそういう安易な選択なのでしょうか?

安楽死の選択には、諦め・断念・逃避という側面しかないでしょうか?

安楽死をすべて肯定することはできませんが、安楽死を一律に否定することも、真剣な選択とは何か?成長とは何か?という問題をつきつめて考える努力の欠如があるようには見えないでしょうか。

涼風


最新の画像もっと見る

post a comment