もちろん一度も会ったことなどない。すべて、「ロッキング・オン」で連載していた音楽エッセイやアルバム評や、単行本になった書籍を買って読んできたに過ぎない。
そんな大好きだった音楽評論家でアーティストの松村雄策さんが亡くなった。2022年3月12日、永眠したのである。
松村雄策さんは1951年東京生まれ。雑誌「ロッキング・オン」の創刊時から深く関わり、渋谷陽一氏との親交も長く共作もある。バンドを組んでプロデビューしてアルバムもリリースしている。
ここ数年はずっと闘病生活を続けていたようで、「ロッキング・オン」に載らない時期も結構あって、心配していた。
その松村雄策さんの遺作エッセイ集が出た。
タイトルは「僕の樹には誰もいない」である。ビートルズの「アクロス・ザ・ユニバース」の歌詞から取ったのだとか。
「僕の樹には誰もいない」は松村雄策さんが闘病中にタイトルを決めていたという10冊目のエッセイ集ということになる。これまでの9冊も全部読んできた。
本の内容は、いつものビートルズやフーやキンクスの音楽を俎上にのせながら、自らの私生活を綴ってゆく。
これがまたいい。優しくて素直な文体が心に沁みる。本当に沁みる。
死期が迫っていることを自覚しながらも、ポールやジョンのことに触れる文章を読んでいると、目頭が熱くなってくる・・・。
誰もがいつかは死んでゆく。
自分もそうだろう。いつかこの世界から消えてゆく。
もうこの歳になると、半分は居直りのような不思議な感情も生まれたりするからおかしなものだ。
辛くて苦しい毎日だけれど、ぶざまに生きてゆくしかない。
一日一日を丁寧に、そして優雅に。それがカラ元気だったとしても、そうやって虚勢を張って前を向いて走り続ける。ほんと、それしかない。
合掌。