おかんのネタ帳

日々の雑感や興味のあることを書いています

焼肉ドラゴン

2016-04-09 23:58:22 | 舞台・映画・ドラマ
年とともに、涙腺がゆくなったような気がする。
いや^そうでもないか。ずっと前から、泣き虫ではあったけど。

朝ドラ「あさがきた」が終わって、新しい朝ドラが始まり、
金曜日に、西島さん演じる「とと」が亡くなりました。
亡くなったシーンは亡かったけど、残された幼い娘たちの健気な姿にホロリ・・

ネットでは、5週続けて金曜日に大切な人が亡くなる、
○○ロスが続く・・・なんてつぶやきが多いらしい。

そういや、私の大好きな「ちりとてちん」も、
1週目に、おじいちゃんが亡くなり、
あのかわらけ投げのシーンで、私らも泣きましたわ。
ドラマの手法は、9年前と、あんまり変わってないのね。

ドラマの話しは、ともかくとして、昨日は西宮へ。
兵庫芸術文化センターで、「焼肉ドラゴン」の舞台を観てきました。



鄭義信さんの脚本、演出。
在日の鄭さんだからこそ書けた、1970年前後の関西のとある町の、
時代に埋もれ、取り残され、けれど「生きていた」人たちの、
面白くも、切ない、にぎやかで、寂しい、そんな生活が描かれた物語。



新国立劇場と韓国ソウルの劇場「芸術の殿堂」との共同で制作され、
2008年の初演の時には、数々の演劇賞を受賞し、
韓国でも上演、成功を収めたという名作です。

2011年に再演された時に、この作品のことを知ったのですが、
ずっと、観たいと思っていたら、今年、新国立劇場が、
鄭さんの他の二作とともに、戦後三部作として上演すると。
関西公演が今回もあると聞いて、三部作の通し券を買いました。

でも、観て、良かった~~
途中から涙がこぼれ来たのですが、ラストシーンでは、
サクラの花びらが舞う美しい舞台を、泣きながら観てましたね。
ストーリー自体は、けして楽しくなくて、悲観的な展開やけど、
でも、音楽は軽やかで、人々は前向きで、
どことなく希望を感じさせる終演でした。

昨秋観た鄭さんの舞台「GS近松商店」を彷彿するような、
セリフやシーンが、いくつもありましたね。
ラストも、少し似てるような気がします。
でも、あの作品よりも、もっと切なくて悲しかった。

在日の人たちの叫びが、リアルやったからでしょうか。



出演は、韓国人俳優と日本人俳優が半々です。
焼肉店「ドラゴン」の店主夫婦は、ともに純粋に韓国の俳優さん。
在日ではないので、日本語のセリフとか、いろいろ大変やったようです。

韓国語のセリフも飛び交いますが、左右の黒いボードに、
字幕が出ます。ちゃんと、関西弁でね。

なので、芝居観たり字幕見たり、忙しい舞台ですけど、
でも、ストレートに人々の思いが伝わって来ました。

ストーリーは・・→ こちらから

開演前から、ステージの焼肉店では、ほんまに肉を焼き、飲んでます。
七輪の上に網をおいて炭火で焼いてるから、煙が立ち上り、
香ばしい香りが、劇場中に充満してます。

三女の美花ちゃんや、お客のアコーディオン弾きと太鼓奏者が、
懐かしい昭和の歌を次々に奏で、歌い、楽しそうにしてるんです。

客席に入って来たお客さんはとまどいながらも、
もうすでに、昭和40年代の大阪近郊の町に引き込まれるという・・・

鄭さんの舞台なので、吉本のようなコテコテの笑いもあります。
面白いセリフの言い回しは、3回繰り返す、みたいな。
常に、飲み、歌い、言い合いをし、とっくみあいをし、
テンポの良い大阪弁の応酬があって、にぎやかです。

でも、そのあとに来る静寂が、とても切ないんですね。

15歳の長男時生くんが屋根の上で叫ぶところから、物語が始まります。

「ボクは、この町がキライです。おっちゃんらは昼間から飲んでるし、
 おばちゃんらは、共同の水場で、そんなおっちゃんらの愚痴を言うてる・・・」

大阪空港から近いので、すぐ上空を飛行機が飛び、
轟音とともに飛行機が通るとサクラの花びらが舞い、
トタン屋根をピンク色に染めていく・・・
その情景だけはキレイだと、彼は言います。

お父さんは静花さん、梨花さんの娘二人を連れて、
美花ちゃんをつれたお母さんと再婚。
二人の間に時生くんが生まれ、少しずつ血がつながってるという家族。

無口なお父さんは、戦争で片腕をなくしてるし、
国有地で焼肉店をしていると、役所から再三立ち退きを迫られるけど、
お父さんは、この土地を買ったと言って立ち退きを拒否します。
常連の客の中には、同じように立ち退きを迫られ、転居していく人も。

新婚の次女梨花さんのダンナの哲夫さんは、大学を出たのに職に就けないでいる。
プライドと差別の狭間でもがき、酒を飲んではぐずぐずしてる。

時生くんは優秀ならしく、有名私立の中学生なんやけど、
いじめにあって登校拒否・・・留年してでも学校へ行けというお父さんに、
やがて彼は自殺してしまいます。

終盤、市役所の職員に立ち退きを迫られる時に、お父さんが叫ぶんですね。

「・・・返せ! 私の腕を、 返せ!、息子を・・・」

涙がこぼれて来ます・・・

娘たちもそれぞれの道を歩み、家族はバラバラに。
幸せになるかどうか、それぞれが前途多難です。

ラストで、時生くんがふたたび、屋根の上に現れ、
強制執行で家を奪われ、リヤカーに荷物を乗せ、
母を乗せて引いていく父を見送るシーンがあるのですが、

最初と同じようにセリフを言うんです。力強く。

そして、最後に、言うんですね。

「ボクはこの町が、本当は好きやったんです」

去りゆく両親に手を振る時生くん。
サクラ吹雪が舞い、屋根を、地面をピンクに染めて行きます。

もう、私は、涙、涙・・・美しいサクラ吹雪を眺めていました。

書き足らないんですけど、とりあえず、今夜はこの辺で。