村上春樹 文藝春秋 2013年
再読。前回読んだのは13年4月の刊行時。
村上作品の中で、本作品はあまり印象に残ってはいなかった。ずっと再読しなかったのもそのためだが、今回読んでみて気がついたことがある。
ひじょうにバランスの良い、洗練された構成、練り上げられた、読みやすい文章、適度にちりばめられた村上テイスト、どこをとってもとてもレベルが高い(などと僕が言うのもなんなんですが)。
それゆえか、あまりにもすっと読み切ってしまい、再読する気になれなかったのかもしれない。
長編の例えば「ねじまき鳥クロニクル」などは、部分的にはとっつきが悪くゴツゴツした?読み味で、なにか非常に危ういところで何とかバランスが保たれているような座りの悪さを感じる。そのせいか、一度読んでも消化した気分になれず、何度も反芻して読んでしまう。ねじまき鳥は5-6回、もっとかな。最新の長編「騎士団長殺し」も、たしか3回だか読んでいる。「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」はたぶん10回ではきかない。
本作品は(初版ハードカバーのもので)370ページの中編だが、この位の長さのものだと村上氏はとても上手い。「国境の南、太陽の西」なんかもこの部類だ。「海辺のカフカ」はちょっと異質かな。
これらの中編はいずれもほとんど再読してない。。考えてみれば。。
つくる君のメンタルの壊れ方とその回復過程は、いかにも村上作品的で必ずしも共感できないけど、心の奥底に固い古傷を抱えた姿は共感できる。
多感な高校生から、少し大人の世界に入りかけた二十歳前後にかけての不安定な時期と、そこで受けた傷の深さ。
なんかつい、自分の経験に照らして、思いにふけってしまいたくなる。。
巡礼の旅を始めるのが、ある程度社会にも根を張り、その一方でまだこれから家庭を築き生活を固めていく前の、30代半ば、というのもいい。未熟な自我がもたらす不安定さは消え、目の前の可能性はたっぷり残っているという、(今の自分が見れば)とてもいい時代だ。
つくる君は、彼の人生の次の段階に足を踏み出すために、過去の自分と向き合おうとする。
男の友達(アオ、アカ)との再会もそれぞれに印象深いが、女友達(クロ=エリ)との会話は特に味わい深い。
ただ、エリは、この年齢にしてはずいぶんと大人の女性だな、と思った。
確かに旧友のことで散々苦労して、その中で自分の可能性を見出して運命の出会いをし、はるか北欧の地で新しい生活をはじめる、という、とても前向きで行動力のある人ではあるけど。
素敵な話ではあるけど、でも幼い子を抱えた、この世代の女性が、少女時代に憧れた男友達に久しぶりに再会したら、ほとんどのばあい、これとは違う展開になるのではないか。
そこまで考えてみると、つくる君の仲間たちで一番興味深いのは、アカかな、という気もする。この二人の出会いは、つくる君だけではなくアカの心も溶かしてくれたのだろうな。
しまったもうこんな時間。今週はとても忙しくてね。明日、ちょっとたいへんかも。
*5月14日、タイトル訂正しました。田崎→多崎