蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

詩 夏は夜死ぬ 2

2010年10月18日 | 小説
夏は夜死ぬ 後半

白い太陽と乾いた風にうなされる私は、暑さに狂った記憶を惨めにも封印してしまった。
あの夏の夜と女、そしてあの行為を、もう思い出せない。
その夜、献げ物を受け取れと女に強要した。熱く勃起した私の一物は夏からの献げ物と
して、冷たい女の心に最適だった。
女は献げ物を拒み、褥に横たわるまま汗を滴りおとした。うつぶせの背と丸い尻、股間の
繁みに汗粒が流れる。裸身がいつの間にか冷たい汗の膜に覆われたではないか。
濡れた肌を苛む私は狂っていたのだ。私の抱擁から逃れようと、女は裸身をねじ曲げ褥
から逃げる。そして部屋の底でのたうつ私をさげすみ、一物の熱さをののしる。
女よ、なぜ暑さを受け入れないのか、お前は死者だと私は反論した。そして、部屋には
男と女の息がむせる。私はむさぼり、女は黙った。
熱いたぎりは冷たい汗と混じりあわなかった。汗が冷たく滲み肌が青く光るので、私は女
が死体と知った。夏の夜に狂ったのは女と私、死者と生者が死姦に迷った。
悲鳴が聞こえた。遠くから微かにブブブイーーン、ブイイブイーン

女よ、今あの声を聞いただろう。
黒い海原のはるか南からの叫び。
風の巻く夜の沖の冷たい波間に海獣が啼いて漂う。
彼は波間に隠れ現れ、力尽きて死ぬ。最期の叫びが、
今お前の部屋に届いたのだ。
夜の海流に死骸が流れ、沈み、海底に消えた。
女よ、死に路をさまような。悲鳴はお前の旅立ちの祝福なのだ。

いま夏が死んだ。          (了)

(長編詩です。これが最初の投稿ですが、後半です。前半は明日10月19日にブログに
出稿します。順序を逆にしたのは、日付の新しい投稿が先に読まれる為です。
全体を部族民通信のHP、左のブックマークから入る、で照覧下さい)

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