蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

「裸の男HommeNu」を読む5

2019年11月11日 | 小説
(2019年11月11日)
レヴィストロースの神話北上説はブラジル神話が北米プラトーにまで伝わったとする。神話学全4巻で全体の基準神話として取り上げられているM1(マトグロッソBororo族)から始まり、アマゾン中流、下流(Tukuna、Mundurucu、Arawak、カリブ海沿岸に住むWarrau,Carib族)などの居住地をなぞれば、ブラジル中央からアマゾニア、そして海域へとつながる経路が想定できる。
カリブ海に住んでいただろう諸族は新大陸発見の後、早々と絶滅したから神話の採取などあり得なかった、今も残っていない。同じ経緯がフロリダ、ミシシッピ河岸にも当てはまるのだろうか、少なくともレヴィストロースの著作にはこれら北米南部の諸部族の神話は登場しない。
オレノコ河岸Warrau族の後には、8000キロを隔てたプレーンズ(大平原)のArapaho族となる。

写真:裸の男掲載の図を加工した

しかしArapaho神話(月の嫁)は、南米モンマネキ神話の後継譚としてすんなり読み解けるのである。「昔々、平原に1 夫婦しか住まなかった。彼らは天に移住して二人男子をもうけた」夫が太陽と月の父となるのだが、彼がArapaho嫁に小うるさい。「人間なんだから、月の障りが無かったら十月十日で…」と小言を言いまくる。モンマネキの老母がカエル嫁に「人間は毛虫とかムカデを喰うもんじゃない…」などと小言を浴びせ、カエルは居たたまれず逃げ出した顛末を思い起こさせる。Arapaho神話の天上老父はモンマネキのなれの果てと受け止める次第です。
前回は基準神話M1と伝播の末神話M538(イシスの冒険)を比較しました。罪と罰(近親姦)のあり方でM1が単独の発生にたいし、M538 は4度の繰り返しでした。
もう一つの比較を提言しているが、それは(罪と罰のみではなく)神話全域を被うSyntagme=共時因果を探り出すになります。
M1、およびブラジル中央部神話群(部族の形成神話、火の起源神話、同盟のあり方神話、ブタの起源神話などM16俗神カルサカイベ神話まで)をまとめる共時因果を探ると;
分断、同盟、道具の取得、目的の創造と(小筆は)考えます。
1 分断の原理:主人公バイトゴゴは再生して村に戻り父、その妻複数、村人全員を殺戮する。過去の連続世界(自然が横溢する社会)を洪水で滅ぼす。再生に当たって8の支族で分断する村を造った。
2 同盟:神話から読み取れる実情は婚姻同盟を模索している。M16でカルサカイベが姻族をブタにした理由は彼らが「嫁のもらい手」の義務を果たさなかったからである。M20では嫁いだ嫁が兄弟(オウム)に2の禁忌を犯す(不正な手段で手に入れた蜂蜜を渡す、男小屋を覗く)、結果兄弟は同盟を解消する。模索する流れはモンマネキ神話に引き継がれる。
3 道具とは火、水、服飾、狩り具である。水の取得はM1,以降火の取得(盗み)がM2~7に続く。
4 目的は野ブタ。ペカリ種の野ブタを人は自然に気兼ねなく狩りとれる経緯がカルサカイベ神話の主題である。

上写真の拡大

ではこれらをM538は共有できるのか。
1 近親姦とその破断とは同盟(模索)と分断と読み取れる。
2 道具について。イシスが樹上に遺棄され助けられて臥す床にヤマアラシが「捉まえられないだろう」と徴発する、イシスは重篤を装い、翌夜に捕殺しトゲ毛を服の飾りとした。漁労の名目、起源も語られる。
3 目的は魚に変わる。漁獲する名目は「孤児にさせた怪物を探し復讐する」ため。手法(夜の篝火漁)場所も特定されている。
共時因果での共通項は上記で解明されている。前回投稿では起因、行動、断絶の経時因果の共通を説明したので、両者の枠組みたるグローバル野において、M1とM538は共存していると言える。 
「裸の男HommeNu」を読む5の了

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