蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

規定外への大騒ぎそして排撃 3

2020年02月14日 | 小説
(2020年2月14日)
ウワナリ打ち、金目当て結婚、日蝕大騒ぎを結びつける思想は「周期性」です。
周期性を破壊しかねない行為、現象に対する部族民の怖れが怒りに替わって表出した。

周期性他は何か?文化を創世し維持する原理です。

レヴィストロース著神話学全4巻(1の生と料理から4裸の男まで)はまさに、一貫して「文化」の形態と思想を周期性とのつながりで解き明かしている。その創造は一人の英雄の行為に帰せられるが、肉付けとなる「形成、維持」は個の力量を越えているから、族民全員を統制する制度、それは共同幻想ともイデオロギとも比せられるが、なにがしかの統一の原理を産み出す必要がある。

数にして800を越す南北アメリカ大陸先住民の神話群は、統一の原理こそが「周期性」であると主張している。

第3巻「食事作法の起源」では「周期性の大三角形」を発表している(117頁)。その頂点には周期性を安堵した同盟(婚姻)とある。左右には、左に近すぎる同盟右に遠すぎる同盟を下の頂点に傅かせる。いずれも周期性を形成できない。

文化の大三角形、レヴィストロース食事作法の起源から

この図を用いて婚姻における周期性なる概念の説明から入る。

近すぎる同盟を先住民は近親婚と規定する。
日本、西欧などでは近親の定義が法にて規定され、それら間の結婚は認められない。理由付けに「遺伝子重複による人性、知能の劣化」を上げる。(遺伝子の概念はこうした法の整備後に出てきたので、この語を引用する事はなく、曖昧に「遺伝」の劣化を想定していた)。
親子、叔父姪(叔母甥)は許可されず、イトコは認められる。日本も西欧もこれは同じ。また西欧にはcousins germainsなる規定があるが、両の父親母親が兄弟姉妹の関係である。この組み合わせは遺伝子的には血が濃いけれど、germainゲルマン族からの風習なので認められるし、推奨されている。

結婚を「血の濃さ」を基準にして諾非するこれら地域とは異なり、先住民は「近さ遠さ」を同盟形成の基準としている。ここでの近遠の意味は地理もあるが、制度として同盟関係を決めても、機能するかしないかを判定材料にしている。
例えばモンマネキ神話(事作法の起源の基準神話)では大洪水から一人生き残った(老母も残るが、婚姻対象ではない)モンマネキが、社会を形成しようと同盟形成に奔走する。けれどいずれも結成に至らない。理由は「周期性が担保できない」関係であるから。

中央の灰塗り部分が周期性が同盟、天地、制度に渡り確立され、文化が生き残れる帯域となります。本稿では同盟(婚姻)の周期性を取り上げております。

彼が地上のそこいら(近辺)で見つけた相手とはカエル、トリ、上下分離式女で、それらは食事作法=食べる物自体、あるいは取得する方法で文化と相容れない。遠すぎる上に「周期律」がカエルなどとは形成できない。
アサワコ神話は遠すぎる関係の例である。通過儀礼でカヌー下りを選んだ若者がと、ある村で麗しきアサワコと出会う。愛を交わすが二人は結ばれない。遠すぎる(川下りの旅程では時間以上に距離は積もる)から周期性が確立できないのだ。

周期性を保証する同盟を造らなければ社会が維持できない。先住民の解は;

イトコ婚である。ボロロ族(ブラジル・マトグロッソに居住)は村落を2の部、8の支族に分割して居住区域を円周の上に固定し、対抗する支族とのみ通婚する婚姻規則を持つ。自が所属する支族内での婚姻は「近親婚なので」あり得ず、対象から離れる他の支族との婚姻も(おそらく)厳禁されている。この制度ではイトコを強制しないが、同世代で婚姻するから相手がイトコとなる率は高い。
オーストラリアアボリジニでもイトコ婚は厳しく実行されていた(レヴィストロース著親族の基本構造から)。

英国でイトコ婚は奨励されており、ダーウィン家とウエッジウッド(陶業家)の通婚は知られている。フランスではノートルダム(ユーゴー作)でエスメラルダに懸想する貧乏貴族が、裕福イトコとの婚姻をまとめるために「ma cousine私のイトコよ」と甘く囁くシーンが印象的だ(貧乏貴族の囁き方がいかにも作為的で、金目狙いと理解できる。ユーゴーの筆力である)

誰と誰が結婚するとは、過去は、社会の規則で決まっていた。同盟から再同盟、再々同盟へとつなげる労力コストを可能な限り低廉に抑える仕組みである。婚姻を巡る周期性である。図の三角形の頂点の位置である。さらに;

婚姻圏とは現在の日本では1億千万人の人口の母体から選べる。しかし昔は遙かに狭かった。
ボロロ族は(盛期に)3000人ほどの人口であった(悲しき熱帯より)。8の支族に分かれるから、一支族の構成員は400人弱、さらに支族は3の階層(カースト)に分割されるから、婚姻可能な支族カーストは総人口で130人ほど、女は幼女から老婆を入れて65人となる。この分母から、己に見合った適齢期の娘を捜し出す、出来るだろうか。

適齢期の娘の人数は20人未満であろう。可能かも知れない。しかし、若者一人が20人から選ぶのではなく、20人の若者が20の娘を選ぶ。となると、もし娘が(若者が)一人抜けたらワリを喰う若者娘が出てくる。盛期のボロロ族でもこの程度の狭い婚姻圏。弱小部族の若者労苦を思いやられる。

かつての日本西欧にしても、村落共同体での生活だから、地域と制度に規定されていたから、対象人数の多寡はあるだろうが、狭隘な環境の中での嫁選びであったとは間違いがない。
しかしこの制度こそが同盟周期性を保証する。

封建時代なら老領主の婚姻権実行か、あるいは高利貸しが金貨を撒いて若い村娘を嫁にするのも知れない。すると、嫁をもらえない若者が必ず出てくる。村の維持に欠かせない、婚姻周期性の侵害である。大騒ぎvacarmeはこうした不均衡婚姻に対する不同意で、その発生機構は突発的に自然に、まるで道路渋滞でいらつく運転者が一斉に警笛を鳴らす(パリで頻繁)大騒ぎとserialite連続性の共通性で似通う。

その仕組みが、周期性への依存を思い出し、ウリナラ打ちの記憶が蘇って、ネット社会で跳梁していのか。続く

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