蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

詩 夏は夜死ぬ 1

2010年10月19日 | 小説
昨日約束した長編詩 夏は夜死ぬ の全文掲載です。
注意:日付は本日19日が新しいですが、これが前半
です。昨日の投稿とほぼ同じ(一部推敲してる)
日付が古い昨日分を後半に入れ替えていますので、
そちらに移ってください。
全文を一気読みたい方はHP部族民通信へブラウザ。
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夏は夜死ぬ  (前)
              蕃神 伊佐美
 
夏の夜には悲鳴が聞こえる
捨てられた寡婦が
置きざりを苦しみ、星の光を恨み
ささやく風に呪いを乗せた。
悲しみを風が運ぶのだから
丘を越し谷にまわり、この地にとどく。
街灯の下を漂う呟き声が黒いのは
寡婦の呪いが籠もるからだ

あの悲鳴を知ると女が言う
二十七㌔南の海浜には松林が茂り
砂浜に操車場が丸く囲われる。
環状レールの下に幾つもの死体が埋められた。
砂の底で亡者共は立ち上がり、
捨てられた気動車に乗り、夏を待つ。
砂浜を抜け、夜の海に向かうのだ
冷たい海流に身を投げ、白波に混じり、
光の届かぬ海底を探すのだ。
今、気動車が砂から抜け出た。
海に亡者を預けようと沖をめざす
レールがきしみ車輪は砂にめり込む
どう動こうにも、重い図体は進まない
風に笑われ波に阻まれ、泣いて砂に立ちつくす
潮におびえる気動車と浜を去れない亡者
海を逃した彼らの悔しさを夏に伝えよと、
あの悲鳴を風に託したのだ。

私はこたえる。
泣きじゃくる気動車を見た
裸に剥かれ、うち来る波に鉄の肌を犯され
赤錆の血が下腹部を濡らし、浜を穢した
海風が狂いの鞭を彼女の背に落とした。
彼女が泣いたのは鞭が骨をえぐるからでない
沖に去る波に亡者を捨てられず
みすぼらしいおのれ身が海に漂わず
砂に責められるその迷い姿を恥じたのだ。
亡者共は干からびて、砂に消えた。
悲鳴は、だから、砂浜からの叫びではない。

(前半の了、後半は10月18日投稿へ移ってください)
コメント
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