ちょっと忙しいとブログの更新が遅れてしまいますね。この週末からお盆の週は夏休みをとりましたので、三重の実家でいっしょうけんめいブログを書くことにします。
さて、「あまりにも異常な論文数のカーブ」のブログには、たくさんのコメントをいただき、まだすべてのご質問にお答えができていないのですが、そろそろDさんに以前からいただいている「お金を大学につぎ込めば、それで解決するのですか?」という本質的なご質問に対する議論に移っていきたいと思います。
実は一昨日(8月8日)、財務省の神田眞人主計官(財務省主計局、前文教担当)と、本間政雄立命館アジア太平洋大学副学長、元京都大学理事副学長)と私が鼎談をもつ機会がありました。
これは本間さんが中心にやっておられる「大学マネジメント研究会」が企画したもので、この研究会が発行している「大学マネジメント」誌の記事になる予定です。
実は、その8月号には、大学病院の経営改善がテーマとして取り上げられ、私のインタビュー記事が掲載されています。他の著者の皆さんも、錚々たるメンバーであり、本格的で中身の濃い記事になっています。大学病院の関係者の皆さんには、ぜひ、お読みいただくと大いに参考になると思います。
さて、今回の鼎談で、本間さんが企画したテーマと趣旨は次の通りです。
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「激変する環境下における大学改革の方向性・・・『大学改革実行プラン』を中心に」
趣旨・・・18歳人口の急減、厳しさを増す財政状況、国際状況の激化、産業・社会からの人材ニーズの変化(グローバル人材)、社会的説明責任の強化など、大学を取り巻く環境は急速に、しかも、激しく変化している。
これに対し、大学の改革は旧態依然たる意思決定システムに、スピード感を欠くだけではなく、部分的で対症療法であることが否めない。これらを踏まえて日本の大学(とりわけ国立大学)が、どうすればこうした変化に対応して、経営改革、教学改革を前進させ、国際的な競争力のある大学に変わってゆけるのか、財政当局(神田主計官)、国立大学(豊田理事長)、グローバルな立場(本間)からそれぞれ意見を述べていただく。
・ 質問1「現在の大学の在り方についての基本的な認識とは?大学は、激変する環境の下で適切に対応しているか?」
・ 質問2「大学の対応が不十分とすれば、その根本原因はどこにあると考えるか?」
・ 質問3「今後の大学改革の方向性はどうあるべきか?文科省が発表した大学改革実行プランをどう考えるか?」
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この鼎談をお引き受けした時、国立大学の学長経験者としての立場であり、また、大学を支援する機関の理事長という立場でもある私には、これはちょっと微妙な立場になるかもしれないと感じつつ、しかし、データに基づいて私の主張ができる良い機会かもしれないと思い、お引き受けをしてしまいました。
なお、「大学改革実行プラン」については文科省のホームページ上で見ることができます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/06/1321798.htm
財務省主計官の神田さんとは、私は初めてお会いしました。本間さんもお会いするのは初めてとのことでした。消費税の法案が通るかどうかという国会が非常に緊迫した状況の中で、神田さんには鼎談のためにたいへん貴重な時間をさいていただきました。
神田さんは、約束の時刻に部屋にお入りになるなり、深々とお辞儀をされ、ほんとうに真摯にものごとをお考えになる方であるという印象を受けました。
過去2年間の文教と科技を担当しておられたご経験にもとづいて、多くの有識者の皆さんとのインタビュー記事を含めて、ご自分のお考えをおまとめになり、「強い文教、強い科学技術に向けて・・・客観的視座からの土俵設定」というご著書をこの6月に上梓されたかりですね。
「客観的視座」とは、要するにデータにもとづいて政策を決めなければいけない、というご主旨だと思います。これは、私がブログで論文数のデータにもとづいて、いろいろと主張していることと同じであり、私の姿勢と完全に一致しますね。また私どもの意見で作られた国立大学病院データベースセンターも、まさに、データに基づく大学病院についての政策提言に欠かせない存在になっています。また、国も「政策のための科学」の必要性を認識し、検討しはじめていますね。
ただし、神田さんご自身がこのご著書の中で「勿論、例えば、一つの統計をとっても、様々な見方があるし、その統計の弱点もあるから、小生の見方が唯一絶対であると強弁するつもりはない。」とおっしゃっているように、このご著書にあるデータの中には、私の見方とちょっと違うデータもあります。これについては、また後日お話したいと思っています。しばらく前の私のブログでも、同じデータでも、人や立場によっていろいろな捉え方があることをお話しましたね。
このご著書を読ませていただくと、単に予算を削減することが財務官僚の仕事ではないことがわかり、神田さんの真摯さが伝わってきます。実際に、昨年と本年、文教・科技予算は、当初10%削減と言われつつも、民主党政権と財務省のおかげでなんとか確保されたわけです。
実は、この本を読ませていただいて、神田さんと私とは同じ高校の出身であることがわかりました。「精力善用、自他共栄」という加納治五郎の言葉を校是にしている高校ですね。
本間さんは、もと文科省の官僚ですが、京大の理事副学長をお勤めになった後、いわゆる天下りの人事ではなく、ご自分で今の要職につかれ、大学マネジメント研究会(前国立大学マネジメント研究会)を立ち上げられた方です。本間さんは“普通”の官僚とは違って、歯に衣を着せないご発言をどんどんされます。ご自分の出身母体である文科省の批判もされるんですよね。私は、今までにも、この研究会が発行している「大学マネジメント」誌に何度か記事を投稿させていただいており、本間さんとは、三重大学の学長時代からのお付き合いです。
この「大学マネジメント」誌の7月号に、本間さんが「狭まる大学包囲網・・・『国家戦略』としての大学政策はあるのか?」という論説を載せておられます。(今日のブログの最後に引用しました。)
この論説では、財務省から強く求められていた大学改革に対して、6月4日の国家戦略会議で、平野文部科学大臣がお示しになった「大学改革実行プラン」についての、本間氏の考えが述べられています。文科省の示したこの案では、財務省を納得させるには不十分であるというご認識から、一歩も二歩も踏み込んだ思い切った改革案を書いておられます。もちろん、本間さんの提案については、いろんな議論が巻き起こると思いますが・・・。
果たして鼎談が始まると、私が懸念していた通りに、返答に困る場面も何度となくありました。たとえば、質問1の「大学は、激変する環境の下で適切に対応しているか?」に対して、私は、自分が学長をしていた三重大学でのさまざまな改革の取り組みについて話はじめました。私自身は、激変する環境の変化に対応して、地方大学てできる限りの大学改革をやったと断言できますからね。学生が自ら学ぶ教育改革もやったし、地域のイノベーションを促進するための産官学連携の取り組みや、「地域イノベーション学研究科」という、地域の企業の皆さんがどんどん入ってくる大学院設立、中国の天心師範大学との学部レベルでのダブルディグリー制度も・・・。
でも、本間さんに途中で私の発言を遮られて、「そういうことを聞きたいのではなく、若年人口が半減して、このままの国立大学でいいのかということが聞きたい。大学を守るということを前提にするのではなく、大学の存在そのものもセロベースにして議論していただきたい」というような主旨の発言を言われました。正直痛いところをつかれたな、と思いましたね。
私は、「日本は大学進学率が5割程度ですが、今後それを何割にしようとするかによって変わってくるのではないですか。」とような発言をしたら、神田さんから、「韓国が大学進学率を8割以上に高めて、しかし大卒の正規職員就職率が5割という就職難に苦しんでいるのだから、これ以上大学進学率を高めることはダメですよ。」というご主旨のことを言われてしまいました。
たしか、この7月20日に鈴木寛衆議院議員をはじめとする「民主党大学改革ワーキングチーム」の皆さんがおまとめになった報告書(http://www.toshiro.jp/PDF/houkoku.pdf)
では、「現在の『大卒5割・短期高等教育2割・高卒2割、ニート等1割』から、『大卒6割・短期高等教育3.5割、高卒0.5割』へ」と書いてあったはずではなかったかと思いつつも、「若年人口が半減するのなら、半減する時期に合わせて計画的に学生定員を削減せざるをえないでしょうね。」などとお答えすることになってしまいました。
ただ、この鼎談は、後で発言を修正してもいいし、何を付け加えてもいいということになっているので、私としては、このブログの読者のみなさんにもご意見をお伺いしつつ、「大学マネジメント」誌に掲載される時までに、私の発言を修正したり、言い足りないところを付け加えたりして、完成させたいと思っているところです。
そんなことで、
質問1「現在の大学の在り方についての基本的な認識とは?大学は、激変する環境の下で適切に対応しているか?」
質問2「大学の対応が不十分とすれば、その根本原因はどこにあると考えるか?」
質問3「今後の大学改革の方向性はどうあるべきか?文科省が発表した大学改革実行プランをどう考えるか?」
という3つの問いかけに対して、ブログの読者の皆さんからもご意見も頂戴できたらうれしいです。
次回につづく
(このブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)
以下は、本間さんの論説です。本ブログに掲載するご許可をいただきました。