出演:三船敏郎、山崎努、香川京子、仲代達矢、木村功、三橋達也
『天国と地獄』、観ました。
見渡しの良い高台に門を構える権藤邸。製靴会社重役である彼の子供と間違えられ、
権藤のお抱え運転手の子供が誘拐された。権藤は悩みに悩んだ末に全財産を
投げ出して3000万円の身代金を払い、子供を救い出す。そして、やがて警察の
捜査線上に、悪魔的な哲学を持つ一人の知能犯の青年が浮かび上がってくる‥‥。
ジョージ・ルーカスはこの映画を評して“映画史上最強サスペンス”だと言った。
同じくボクは黒澤明監督の『野良犬』を1位に推し、この『天国と地獄』をそれに次ぐ
“(サスペンス史上)№2”の評価を下す。映画は、冒頭の息詰まる密室劇に始まり、
疾走するこだま号での身代金受け渡し、更には地道な捜査の段階を経て、ついに
邪悪な犯人像が浮かび上がってくる映画終盤まで…、その間、糸をピンと張り詰めた
ような“緊張感”は片時も弛(たる)むことなく、怒涛のような展開の“スピード感”は
観る者を圧倒する。また、真夜中の花畑の中から浮かび上がってくるサングラスの
犯人や、焼却場の煙突から立ち上るピンクの煙、ラジオから流れる音楽の使い方と
何の前触れもなく鳴り響く断末魔のベル(電話)の音、そして権藤と犯人がガラス越しで
二重写しになるラストの面会場面など‥‥、黒澤明の演出は、本作でも映像面に
音響面、ありとあらゆる部門で切れまくり、冴えわたり、凄みすら感じさせる一級品だ。
さて、この映画の“成功”は、冒頭の僅か十数分によって約束され、決定付けられた
といっても過言ではない。…というのは、会社の重役幹部が集まって乗っ取り計画を
議論する中、主人公・権藤という男が何を生き甲斐にして、どんな価値観をもって
生きているのか…、すでにその時点で“権藤の人物像”がほぼ確立されているのだ。
それによると権藤は、勿論、自分の会社を持ちたい野心はあるが、それは質の良い
靴を作るという“夢”を叶えるため。ゆえに頑固な職人気質のきらいがあるが、一方で、
冷酷になりきれない“人間的な優しさ”も併せ持つ。映画中盤から終盤にかけて、
権藤は画面からほとんど姿を消すが、権藤の持つ“人間性”はこの映画を土台から
支える地盤になり、それと対比するように浮かび上がってくる“犯人の陰湿さ”を
一層際立てている。
そして改めて、この作品が一介のサスペンス映画と異なるのは、単なる犯人捜しの
追跡ゲームに収まらず、この誘拐事件の背景に戦後の高度成長によって生じた
“深刻な格差社会”が浮き彫りとなって見えくる点だ。丘上で見渡すように
聳(そび)え立つ権藤邸の雄大さとは対照的に、一歩丘のふもとに足を踏み入れて
みれば、風も通らぬほどに“密集した貧民街”と、その周囲を流れるドブ川には
“使い捨てられた家電の残骸”が浮かんでいる。そこで目にするものは、華やかな
高度成長の裏側で、腐りかけた“掃きだめの世界”が横たわる。その刹那、ボクは
その格差社会の歪みに“犯人の歪んだ内面”の根幹を垣間見たような気がした。
しかし、考えてみれば、権藤と犯人‥‥、それぞれの人生の明暗は、ほんの些細な
考え方の違いによって生じたのだと思えてくる。権藤は靴作りという“小さくとも
確かな夢”を持ち、犯人は“それ”を持たなかった‥‥、いや、犯人が“医学生”だった
ことを考えれば、むしろ“成功するチャンス”は権藤よりあったはずなのに何故??、
結局、その知識と才能を“成功者への嫉妬”という形でしか表せなかったのが、何とも
皮肉な結末だ。ラストシーン、刑務所の金網越しに対面する権藤と犯人の姿が、
強烈なインパクトとなって観る者の心に迫ってくる。虚勢を張り、まるで自身に
言い聞かせるように、これまでの身の上話をする犯人に、権藤は改まったように
聞き返す。「キミはそんなに不幸だったのかね…?」と。その言葉が、勝者と敗者に
分けた“象徴的な言葉”として、両者の頭上に重たく圧し掛かってくるように感じたのは、
ボクの気のせいだろうか。
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