出演:吉永小百合、坂東三津五郎
『母べえ』、観ました。
日中戦争が泥沼化しつつある頃。野上家では、ドイツ文学者の夫・滋と妻・佳代、そして
しっかり者の長女・初子と天真爛漫な次女・照美の4人が貧しくも明るく暮らしていた。
互いを「父べえ」「母べえ」「初べえ」「照べえ」と呼び合う仲睦まじい家族だったが、昭和
15年2月、滋が治安維持法違反で検挙されてから苦難の日々が始まった。そんな折、
滋の教え子・山崎徹が訪ねてくる。それ以降、徹は一家の手助けをするのだった…。
オイラみたいなヒネた輩には“山田洋次の映画”って聞くと、チョット身構えちゃうんだ。
あの、青臭いくらいにまっさらな人情ものを観るほどに、自然と体がこそばゆくなっちゃう。
なら観なきゃ良いじゃん、とワイフが言った。ナルホド、おっしゃる通り。それですべてが
救われる。すべて丸く収まるのだけど、それがそうもいかないのが、映画好きゆえの
宿命ってやつ。話題となった映画は、とりあえずは一通り観てみようってことになっちゃう
んだよ、オレは。まして、今作は、あの吉永小百合嬢とのコラボともあって、国民的な
期待も高まるところ。興行的にもかなりのいい線、いったみたいデス。きっと松竹さん
としてもホクホクで、さぞほくそえんだことでしょうな。何はともあれ、日本映画が
当たるのは嬉しいことです。良かった良かった。で、その中身の方はといえば、あらぬ
罪から一家の主を投獄され、母一人で残された二人の娘を養いつつも、“戦中の貧困”を
耐え忍んで生きていくというもの。勿論、内容的にも日本人好みで、ヒロインの、その
耐え忍ぶ姿に“美徳”を感じちゃいます。かつての国民的ドラマの『おしん』の例をとっても、
この手の映画が当たるってのは、元来日本人は“M気質の国民”かもしれませんな。
あ、オイラ、改めましてヒネた輩ですから、少々不適切な表現には目をつぶってくださいね。
では、ここからは真面目に書きます。映画の本題に戻すと、ストーリーに動きがあるのは
最初の15分くらいで、後は一家の周りに出入りするメンツが変わるだけ。むしろ、ここでは
その交流を通じて、その“時代”を描くことに専念してるみたい。クロいものを当たり前に
「クロ」と言えなかった時代――。個人の人権よりも国益の方が優先され、自由な思想や
モラルさえいとも簡単に踏みにじられた時代――。国全体が“見えない力”によって
誘導され、血生臭い戦場とは違うところにある“何か”に怯えて暮らす――、例えば、
それは“お役人の荒んだ心”とか、“周囲の冷たい視線”とか。あえて、戦争のドンパチを
封印し、ホームドラマとして“戦争”を描いた山田洋次監督の狙いは、そこにあったと、
オイラはニラんでいる。
ラストシーンは、病床に臥せる彼女の“予想だにしない一言――、それは多くの愛する
人たちを失った哀しみと、戦争への怒りが最後にして噴き出たようで胸が痛くなる。ただ、
全体の印象として、良くも悪くも吉永小百合を主人公にした時点で、この映画の行き先が
決まってしまったのかなって思うんだ。良い言い方をすれば、彼女がそこに居るだけで、
花が咲いたように画面を輝かせる。しかし、悪い言い方をすれば、彼女の神聖化され
過ぎたイメージと、その演技における幅の無さが、映画を平凡なものにしてしまった感は
否めない。彼女が国民的女優でありながら、代表作と呼べるものがほとんど無いのは
そのせいじゃないのかな。
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