肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『ミュンヘン』、観ました。

2006-08-24 20:59:39 | 映画(ま行)

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 『ミュンヘン』、観ました。
1972年、ミュンヘン五輪開催中、パレスチナゲリラによるイスラエル選手団襲撃
事件が起こった。これに対しイスラエル機密情報機関“モサド”は暗殺チームを
編成、報復を企てる。リーダーに任命された一人の男アヴナー。人を殺したこと
などない彼は、妻と子供を残し、ヨーロッパに渡る……。
 良くも悪くも“今の”スピルバーグらしい作品だ。光と陰を最大限に利用した
洗練された映像美。特に、編集・撮影・照明を含めたヴィジュアル部門は、他の
追随を許さない充実ぶり。さすが、ハリウッドの一流どころが結集しただけの
ことはある。加えて、このところ今ひとつ精彩を欠いていた(?)スピルバーグの
演出力も、こういうサスペンス映画でこそ、その持ち味が発揮される。何だかんだ
言っても、やはり“映像にする力”は今もトップクラスに位置する監督さんだ。
ただ、どうなんだろう…。ここでは、あまりに人が死に過ぎる、あまりに血が
流れ過ぎる。いわゆる、「暴力」を使って「暴力」を批判する彼(スピルバーグ)の
作風に、ボクは“ある種の不安”を感じてしまう。いや、曲がりなりにも(?)
「世界最高の監督」と呼ばれる才人だからこそ、もっと“他の描き方”があるんじゃ
ないのかなと…。映画の主人公は、祖国からの命令によってミュンヘン事件に
関与した11人の暗殺を命じられる。しかし、一人ずつ殺していく過程において、
主人公はその使命に疑問を持ち始め、やがて自らも(殺した相手からの)報復に
怯えるようになっていく。自分が…、仲間が…、家族が…、いつ誰に狙われる
やもしれぬと思うと“恐怖”が襲ってくる。怖い…、怖くてたまらない。そこに
至るまでの展開で、スピルバーグの演出は終始的確で、僅かの隙もない。完璧だ。
しかし、いつも(スピルバーグの映画を観て)思うのが、『シンドラーのリスト』も…、
『プライベート・ライアン』も…、“戦争の恐怖”をもって(観客を)怯えさせ、
“表面的な反戦”を描いているだけのようにみえて仕方ない。そして、この映画も
同じ…。ボクは彼に、戦争によって“流れた血の量”ではなくて、“流した涙の
数”を描いて欲しい。人々が受けた“心の傷の深さ”を描いて欲しい。今回、
彼の人間描写に問題有りなのか…、あるいは、事件全体をテロリスト側から描いて
いるからなのか…、この映画でボクは主人公を含めて登場人物の誰一人として
感情移入出来なかった。確かに、これが“完成度の高い映画”であるのは認めよう。
だが、「優れた映画」であるとは思っても「良い映画」だとは思わない。「上手い」
とは思っても「凄い」とは思わない。