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日の高いうちにマオウ様にお散歩に出ていただくために、わたくしの外出は午前か午後の短い時間か、夜になります・・・とほほん。
マオウ様を外出させたまま出かけるのは怖いのですよね。
マオウ様を外出させたまま出かけるのは怖いのですよね。
眼鏡屋さんに眼鏡を見に行ったんですが・・・すんごい好みのフレームがあったものの、仕事にはつけられないようなデザイン・・・うーん。仕事用のが欲しいのだけれど。安い値段でもないので・・・悩み中。2本買っちゃうかなぁ・・・でもなぁ・・・うーん。
・・・と、無駄に悩み中。年内には決めよう。
・・・と、無駄に悩み中。年内には決めよう。
長野まゆみさんのエッセイ系の本を図書館でパラ読みしてきたのですが・・・うーん、私が今勝手にパロってる内容は、この方の意に沿わなすぎな内容なのだな、と。
分かってましたけど。
・・・まぁ、妄想が止まらなくて勝手にやってることなのですけどもね。
広大なネット世界の中、空中に浮遊する塵芥ほどの小さき存在の同人作家が趣味でやってる事なので誰も気にしないでしょうが。
分かってましたけど。
・・・まぁ、妄想が止まらなくて勝手にやってることなのですけどもね。
広大なネット世界の中、空中に浮遊する塵芥ほどの小さき存在の同人作家が趣味でやってる事なので誰も気にしないでしょうが。
・・・というわけで、今日は自分だけ楽しい内容の日記です。
はい、白いひつじもの創作。
前後編で今日・明日でUPする予定。
百合子さんがとんでもないやきもち妬きなのが分かるお話。それから、鳥貝ちゃんがどれくらい百合子さんの事が好きなのかも分かるお話。
はい、白いひつじもの創作。
前後編で今日・明日でUPする予定。
百合子さんがとんでもないやきもち妬きなのが分かるお話。それから、鳥貝ちゃんがどれくらい百合子さんの事が好きなのかも分かるお話。
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<オリジナル小ネタ7>
『彼』<前編>
鳥貝がTK大で過ごす、2年目の春の初め。
入学式、オリエンテーションが終わり・・・新入生達が、構内を物珍しそうにうろうろする季節だ。
自分も昨年は同じ状態だった事を思えば、彼らの道案内をしてやるのも去年の恩返しとも云える。
鳥貝は1年次、なかなかの成績を残して、希望する建築科に進める事となった。この大学では、一年時は類に分けられ、学科は二年時から、成績順に希望学科に進める事になっている。建築科は人気のある学科なので、倍率が高く、心配していたのだ。
もちろん、そこの3年に百合子がいる事も理由とは云えなくもないけれど、そもそもこの大学に入ったのも建築学を学びたかったからなのだから、百合子がいてもいなくても関係ないとも云える。
希望の学科に入れた事で足取り軽く、今期の履修講義の書類を受け取るため、新入生がたむろする大学に来ていた鳥貝が構内を移動する間に、新入生と思われる迷い人数人に声を掛けられたのは、道案内の為だと純粋に思っていた。真面目な鳥貝はひとりひとりに丁寧に案内をしてあげた上、お礼をしてくれるという言葉もそれぞれに辞退した。
もちろん、全部が全部ではないけれど、大半がナンパ目的でもある事に、鳥貝は一切気づかない。
ちなみに、在学生の大半が百合子と鳥貝のお付き合いを知っているものだから、一度、お礼を強要されかかっている鳥貝を見かけた、通りすがりの百合子の同級生と鳥貝が記憶する男子学生が、その場を助けてくれた。
「百合子のかーのじょ、お困り? 新入生くん、この子にちょっかいかけると、怖いセンパイにタコ殴りにされるから要注意だよ。」と、冗談が本気か分からない言葉をかけると、鳥貝の腕を掴んでいた男は、鳥貝からすぐに離れた。「とはいえ、あいつの腕力の程は知らないから、言葉のタコ殴りだけどね。」と、後で笑って付け加えた。ついでに、「百合子の彼女さんは随分隙が多そうだね。そりゃあ、百合子も目を離したくないか。」とも付け加えられ、鳥貝はそれほど親しくない人間にもそう捕らえられていることに、少なからずショックを受けた。
鳥貝は大学の構内一人歩きでも、未だに危険かもしれない。
珍しく百合子が今日別行動なのは、単に鳥貝が百合子を巻いてきただけの事。
履修講義を選ぶ相談を兼ねて、お昼を女友達と食べる事になっているのだ。百合子つきでは、女友達が気を遣ってしまって、悪い。
百合子からは鳥貝の居場所を尋ねるメールが何度かあったし、着信もあったけれど・・・メールで「放課後になったら会います」とだけ返信してほとんど無視した。
多分、今頃怒っているだろうな、とは思いつつ・・・鳥貝だって、女友達とまったりする時間も必要なのだ。もちろん、百合子といるのも楽しいけれど、百合子とは大学以外でいつでも会っているのだから、時々は許して欲しいと思う。
数週間前の鳥貝の誕生日だって・・・まぁ、色々あったのである。
<オリジナル小ネタ7>
『彼』<前編>
鳥貝がTK大で過ごす、2年目の春の初め。
入学式、オリエンテーションが終わり・・・新入生達が、構内を物珍しそうにうろうろする季節だ。
自分も昨年は同じ状態だった事を思えば、彼らの道案内をしてやるのも去年の恩返しとも云える。
鳥貝は1年次、なかなかの成績を残して、希望する建築科に進める事となった。この大学では、一年時は類に分けられ、学科は二年時から、成績順に希望学科に進める事になっている。建築科は人気のある学科なので、倍率が高く、心配していたのだ。
もちろん、そこの3年に百合子がいる事も理由とは云えなくもないけれど、そもそもこの大学に入ったのも建築学を学びたかったからなのだから、百合子がいてもいなくても関係ないとも云える。
希望の学科に入れた事で足取り軽く、今期の履修講義の書類を受け取るため、新入生がたむろする大学に来ていた鳥貝が構内を移動する間に、新入生と思われる迷い人数人に声を掛けられたのは、道案内の為だと純粋に思っていた。真面目な鳥貝はひとりひとりに丁寧に案内をしてあげた上、お礼をしてくれるという言葉もそれぞれに辞退した。
もちろん、全部が全部ではないけれど、大半がナンパ目的でもある事に、鳥貝は一切気づかない。
ちなみに、在学生の大半が百合子と鳥貝のお付き合いを知っているものだから、一度、お礼を強要されかかっている鳥貝を見かけた、通りすがりの百合子の同級生と鳥貝が記憶する男子学生が、その場を助けてくれた。
「百合子のかーのじょ、お困り? 新入生くん、この子にちょっかいかけると、怖いセンパイにタコ殴りにされるから要注意だよ。」と、冗談が本気か分からない言葉をかけると、鳥貝の腕を掴んでいた男は、鳥貝からすぐに離れた。「とはいえ、あいつの腕力の程は知らないから、言葉のタコ殴りだけどね。」と、後で笑って付け加えた。ついでに、「百合子の彼女さんは随分隙が多そうだね。そりゃあ、百合子も目を離したくないか。」とも付け加えられ、鳥貝はそれほど親しくない人間にもそう捕らえられていることに、少なからずショックを受けた。
鳥貝は大学の構内一人歩きでも、未だに危険かもしれない。
珍しく百合子が今日別行動なのは、単に鳥貝が百合子を巻いてきただけの事。
履修講義を選ぶ相談を兼ねて、お昼を女友達と食べる事になっているのだ。百合子つきでは、女友達が気を遣ってしまって、悪い。
百合子からは鳥貝の居場所を尋ねるメールが何度かあったし、着信もあったけれど・・・メールで「放課後になったら会います」とだけ返信してほとんど無視した。
多分、今頃怒っているだろうな、とは思いつつ・・・鳥貝だって、女友達とまったりする時間も必要なのだ。もちろん、百合子といるのも楽しいけれど、百合子とは大学以外でいつでも会っているのだから、時々は許して欲しいと思う。
数週間前の鳥貝の誕生日だって・・・まぁ、色々あったのである。
お昼、約束していた時間の食堂に女友達数人が集まっていた。
席についてすぐの「百合子さん、鳥貝ちゃんの事探してたけど?」の言葉に、ぐっと押し黙った。
実は、百合子を避けながら構内を移動していたのだったが・・・やはり鳥貝の友人には声を掛けていたか。
鳥貝の反応に、どうやら彼女が百合子から隠れていたことを悟ったらしい女友達は、にやにや笑う。「愛されてるわねぇ、」とは、聞き慣れたからかいの言葉。
「わたしが食堂に来る事、云った?」
「や。今日は会う予定はあるよ、とだけ云ったけどね。なに、ケンカでもしてる?」
「・・・してないけど・・・たまにはひとりで行動したい。」
「羨やましい通り越して、鬱陶しいくらいべったりだものね。そりゃ、ね。」
「付き合って一年経つのに、よく持つわね、その熱。」
「春休みも、どうせいちゃいちゃでしょ?」
「う・・・、」
否定できない。けれど、肯定もしたくないから、話題をそらす。
「で、履修講義、決めた?」
あからさまな鳥貝の話題そらしを、あえて深く突っ込むメンバーはいなかった。この手の会話はされ飽きている部分もあり、鳥貝の反応が予測できてつまらいらしい。
お昼を食べながら、あるいは食べ終えたものはお茶をしながら、各所から寄せ集めた情報・・・つまり、あの教授の講義は面白いとか、あの講義は単位が取りやすいとか・・・を話し合っている最中だった。
鳥貝は、どうせ食堂なんて目立つ場所だし近いうちに百合子にかぎつけられるだろうな、とは思っていたけれど、その前に、また、厄介ごとが・・・。
春の食堂は殊更賑わう。広い構内に何カ所かある食堂だけれど、春にどの食堂に集うのも、新入生の割合が高い。
特に、一番広くて綺麗なここの食堂は、明らかに新入生と思われる生徒達が多かった。・・・見極める点は、挙動不審さと綺麗すぎる身なりである。女子はともかく、年期の入った男子学生は、プライベートスペースと変わらない服装でいる者も多い。
新入生といえど、やはり男子率は高いのは相変わらずだ。だから、正直有象無象。特別目立つ格好でなければ目立たない。
逆に、女性は目立つ。
鳥貝たちの一角も、他から見ればひどく華やいで見えているに違いない。
だから、その男は割合簡単に・・・見つけた。
「春海ちゃん?」
鳥貝にとって、聞き覚えのある、けれど、記憶に遠い声だった。
その声が誰か、一瞬では思い出せず数秒要したけれど、振り向いたと同時に、理解した。
百合子より長い、2年という歳月を恋人として付き合ってきた男に対して、鳥貝は結構ひどい記憶力を持つ。
そう、鳥貝の高校時代の恋人のNがそこにいた。
「・・・ぅ、あ、Nくん・・・っ、」
驚きすぎて変な声が出た。
記憶が一瞬にして蘇る。
そういえば、彼は今年もこの大学を受験すると云っていた・・・その結果が、これなのだ。
けれど、郷里の誰もこの事について触れなかったのは・・・わざと、かもしれない。先週も郷里の友人と携帯で話をしたけれど、そんな事一言も云っていなかった。
「良かった、さっそく会えた。女性が少ないから、すぐに分かったよ。久しぶり、元気だった?」
やけに浮かれた声には、志望の大学に受かった事と鳥貝に会えた事と、二重の喜びが込められる。
「Nくん、受かったんだ、おめでとう。でも・・・最近連絡したYちゃんも、Mもその事に触れなかったんだけど・・・、」
「ぼくが口止めしてた。驚かせたくて。」
「うん、驚いた。そっか、今年から東京なんだ。寮?」
「アパート。ぎりぎりだったけど、良いところが見つかったから。」
昔の恋人、だからではない。郷里の友人だから、会話をするし、鳥貝だって懐かしさと親しみはあるから、こうして会えて話すのは嬉しい事は嬉しい。
大学の友人が鳥貝の背中をつつく。
「友達?」
さすがに、元カレとは云いづらい。
「・・・郷里の同級生のNくん。」
「この春からTK大生です。仮面浪人を経て無事合格しました。」
Nは鳥貝の言葉に余計なことは云わない。そこの所の分別は百合子よりある。
女友達は、Nの事を先ほどからずっと観察している。その結果はどうだろう。さすがに本人の前では云わないけれど・・・多分後でアレコレ話題に上るに違いない。
「とりあえず、連絡先・・・変わっていないけど、渡しておくね。君も前のまま?」
別れた相手の連絡先。鳥貝はそんなにマメではないし、別に憎み合って別れたわけでもないから、携帯のメモリにはまだ彼の連絡先は残っているはずだ。どうやら、彼もそうらしい。
鳥貝が頷くと、それじゃあ、聞くまでもないね、と笑った。
メモリを消去しない鳥貝の安易な理由はともかく、Nの理由が何なのかまで、鳥貝は推測しようとする事さえしない。
Nが先ほどから気にしていた事に触れたのは、その後だった。
「・・・指輪、変えたの?」
鳥貝の左手薬指を見て、呟く。
そこに含まれる意味をそういう事に鈍い鳥貝は気づかない。
指輪はこの間の鳥貝の誕生日に月成から贈られたものだった。月成プロデュースのものである。てっきり、鳥貝にだけくれたのかと思ったのだけれど、実はペアリングで片方を有料で百合子に売りつけていた。
鳥貝も好きな杏の花をモチーフにしたシルバーの指輪で、百合子の方は杏の幹をイメージしているという。ふたつの指輪を重ねると、一本の杏の木になるようなデザインだった。
以前つけていた、百合子からもらった(押し付けられたとも云う)プラチナシルバーの指輪は、部屋のアクセサリーケースの中でお休み中だ。
「誕生日に、友人からもらったの。」
「友人って・・・え?」
Nがどんな穿った考えを持っているのか、その驚いたような表情からも読み取れないなんて、鳥貝はなんて鈍い。
だから、誤解もされ放題。
「はーるーみ、ちゃん。よかった、見つけた。」
後ろから肩をたたかれた。
とても聞き覚えのある声は、振り向かないでも誰か分かる。ついでに、目の前の女友達が色めきたつのを見ても誰だか分かる。
「安羅さん?」
振り返ると、この春院に進学した安羅が、いつも通り人好きのする感じの良い笑顔で立っていた。
今は髪型を以前より少し短めのストレートにしている。元々クセっ毛なのを、整髪料とドライヤーで整えているのだという。元が綺麗な顔立ちだから、どんな髪型も似合う。
今日は白いセーターの下に落ち着いた色合いの臙脂色のシャツを着ている。下は色の薄い細身のデニムパンツだ。
「探していたんだけど・・・お話中かな?」
「そうですけど、でも・・・急用ですか?」
「や、そうでもない。」
安羅はNを見てにこりと笑って「お邪魔したね、ぼくは後でいいから、」と、近くの席に鞄を置いて、自動販売機のある一角に向かった。
均整の取れた後姿も、姿勢のいい歩き方も、彼の整った容姿と含めて人目を惹く。
「・・・もしかして、あの人からもらったとか?」
安羅の後姿を横目で見送ったNの声は、少し調子が崩れていた。
女友達は、この妙な雰囲気にとうに気づいて、にやにやしているけれど、本人の鳥貝だけが気づかない。
「ううん、違うけど・・・どうして?」
「・・・彼氏、変えたのかと思って。」
「・・・。・・・は?」
Nの目つきが険しくなっている理由に、気づかない。
別れた恋人。・・・まだ、鳥貝に未練を残す彼。未練というか、かつてより随分綺麗になった鳥貝に改めて惚れているのだけれど・・・そういう男の心の機微に気づく事がないのが鳥貝。
「さっきの男の人は・・・?」
「えーと、先輩? 色々お世話になってて・・・、」
「ふぅん・・・で、彼氏は、まだ、去年の人?」
「?? うん、そうだけど・・・?」
「そう・・・、」
あからさまだと思うのだけれど。
態度も、口調も、その内容も。
女友達は、顔を見合わせてにまにま笑う。
「・・・。良かったら、この大学のこと、色々教えてくれないかな? 春海ちゃんは建築科に入ったんだろう? 僕も来年目指しているし。」
「ええ、別に構わないけれど。」
「それじゃ、連絡してもいいよね。」
「うん。・・・でも、どうしてそういう風に確認取るの?」
「彼氏のいる女の子にはこう聞くのが礼儀だろう。・・・相変わらずなんだから・・・、」
苦笑するNにきょとんとする鳥貝。
昔の恋人・・・けれど、鳥貝にとっては今は同郷の友人といった所。
近くの席で缶コーヒーを飲みながら、携帯片手に安羅がにやけているのにも鳥貝は気づかない。
聡い安羅は、鳥貝と話をしているのがどういう男なのか、とっくに察している。そして、片手にもった携帯で連絡した先は・・・。
「食事も、誘ってもいいよね?」
「お昼ご飯なら。夕ご飯は必ず寮で食べるから。」
「もちろん、それでもいい。」
Nは、当然ふたりきりでの食事前提で誘っているのだが、鳥貝は百合子や女友達と一緒くたに考えている。
「春海ちゃん、あのね・・・、」
Nが少しだけ真剣に言い出そうとした所。
「春海っ、」
がばっと背中に抱きついてくるのは。
構内でもこういう事を、TPOもあまりわきまえずに平然とやってのけるのは、この男しかいない。
百合子は抵抗する鳥貝をものともせず、その頭にほおずりしながら云う。
「おまえ、探したんだぞ! おれが何度も連絡してるのに、全部無視りやがって、もしかして、それって、こいつのせい?」
言葉の最後は、Nを睨みあげてのものである。
「は?」
とは、鳥貝とNと、ほぼ同時の声。
「TK大にまで追いかけてくるとは、結構なストーカーくんだよな、」
棘だらけの百合子の言葉に、Nは苦笑した。
後ろから安羅のため息混じりの声が聞こえた。
「おまえの方が余程ストーカーだよ、百合子、」
「なんか、変なこと云ってますけど、Nくんは元々TK大志望だったんですよ?」
百合子の腕を抓り上げて、自分から引きはがしながら鳥貝は呆れ気味に云う。
「それに、ここで会ったのも偶然ですよ。ぼくが春海ちゃんを見つけて声をかけたんです。」
昨年、N県でちらりと会っただけのふたり。
百合子はNを完全に敵認識している。
Nは、完敗を認めながらも、それでも・・・。
「百合子さん、ですか。僕も建築科志望なんで、今後ともよろしく。」
かすかな敵意をにじませて、Nは百合子に笑いかける。
百合子は何も云わず睨み付ける。
「それじゃ、ぼくはこれで。春海ちゃん、また連絡するから。」
と、ごくさわやかに手を振りながら去っていった。
女友達が「爽やかだねー、」「結構イイ男だよね、」と囁きあっているけれど、それより百合子だ。
「連絡? するのか、あいつと?」
「・・・いいじゃないですか。同郷の友達ですよ。」
「ともだちぃぃ? あれが?」
「・・・。何度も云ってますけど、もう何でもありませんから。」
「おまえはな、」
「・・・どういう意味ですか、」
「おまえが、鈍いって事だよ。」
「は?」
「さっき、同級の奴に会ったケド・・・新入生に軟派されてたって? 構内で軟派されるなんて、どんだけだよ。」
「話が逸れてます。・・・なんで、そんな事、」
「おまえの隙の多さと迂闊さをおれは心配してるんだ。」
「何を・・・、」
意味が分からず戸惑う鳥貝にくすくす笑う女友達の方が説明を入れる。
「つまり、あのNくんは、あんたに未練たっぷりで、ヨリを戻したいと考えているのよ。」
「実際、大学まで追ってきたのではないにしても、よっぽどよね。あんたの事忘れられないのよ、」
「・・・はぁ?」
云われている意味は分かるけれど、把握できないというか。
彼は別れた恋人であり、今はもう何とも思っていない相手。そして、鳥貝は今、恋人のいる身。
鳥貝にとって、復縁なんてあり得ない事。
鳥貝は、彼だって、同じようなものだと思ってしまっていた。
「でも、恋人がいるって聞いたけど?」
「そんなの分からないわよ。東京に進学するって事で別れてるかもしれないし。」
「まだ別れていないにしても、鳥貝ちゃんに未練あるから、別れるかもしれないし。」
そもそも、鳥貝と彼が別れたのも、鳥貝が東京に進学してしまうというのが表向きの理由だった。
その点について考えれば・・・彼ならあり得る事かもしれない。
「春海は、自分がどれだけカワイイか自覚していない。昔の男が後悔する程かわいい。」
百合子の人目をはばからない惚気もいつもの事。いつもの事だけれど、恥ずかしさには慣れない。
「・・・ともかく・・・。わたしにはそんな気はまったくないので、この話をこれ以上続けるのはなし。それに、勝手な憶測はNくんにも失礼です。」
百合子を睨んでから、女友達にも視線を送る。
相変わらず、特に己の色恋に関しての話題は苦手なのである。
「百合子さんも、今日くらいは別行動にしましょう。わたしだって、友達とまったりしたいんです。」
「おれも一緒に・・・、」
「男の人とはできないお話もありますからっ、無理ですっ。」
「・・・わたしたちはいいんだけどね。百合子さんって見てるだけで楽しいし?」
女友達の意見を、睨み付けて却下させた。鳥貝、結構強い。
しばらく百合子は拗ねたような表情で鳥貝を見ていたけれど、頑固な彼女の意志が早々変わる事がないと見て、ため息をついて肩を落とした。
「わかった。じゃあ今日は寮で待ってるから、遅くなるなら連絡を、」
「いつも云ってますけど、子供じゃないので大丈夫です。」
「いつも云い返しているけど、子供じゃないから心配なんだ。」
鳥貝はむっとするけれど、素直に「分かりました、どのみち夕食の準備までには帰ります。」と返事した。でないと、いつまでも色々と言い募られかねない。
百合子は、そばで成り行きを見守っていた安羅と共に食堂を立ち去った。
「あのふたりが並んでいる所は、眼福よね。なんかそこだけ世界が違うというか。」
百合子と安羅の事だろうか。
「この大学、こんなに男がいるのに、目の保養になるような男って少ないのよね。それこそ、砂の中から砂金を探すようなもの。あのふたりは、かなり大粒クラスの砂金。」
百合子と安羅の背中を見送りながらのうっとした女友達の声だ。
「百合子さんも相当イイ男だと思うけど、目に見えて鳥貝ちゃんにべったりだから、私はやっぱり安羅さんかな。」
「安羅さんにも恋人はいるよ、」
「他校でしょ? 目に見えないからいい。というか、目の保養してるだけだから、それでいいの。」
「私は目の保養だけなら百合子さんがいいな。鳥貝ちゃんにデレてない時の百合子さんがステキ。安羅さんはソフトなイメージだけど、百合子さんはクールだよね。わたしはクール好み。」
「・・・っ、」
恋人の事を、分かっていて真横でこういう風に云うのは、どうかと思う。
褒められているのは嬉しいけれど・・・ちょっとだけやきもちを覚える。
百合子を褒める友人とは別の子が少し拗ねた鳥貝の表情に気づいて、頬をつつく。
「寂しいオンナに目の保養くらいさせたげなさい。どうせあんたは昼も夜も朝も、あの美形な恋人と一緒にいるんだから。それに、・・・鳥貝ちゃんにしか見せない顔もいっぱい見てるのよねー?」
「そっ、そんないつも一緒にいるわけじゃない、」
朝一緒にいるのは月に数度くらいだもの、と心の中で付け加える。それから、自分しか見られない百合子の顔に心当たりを覚えて・・・熱っぽく自分を求める、その時の顔、それを思いだして、顔を赤くした。
「相変わらずねぇ。鳥貝ちゃんは、ふたりきりになって甘えるタイプだ。」
「それが、かわいいんでしょ、百合子さんは。いいなぁ・・・、ベタ甘ラブラブで。」
「すごく過保護なのも含めて、ちょっと鬱陶しそうだけど。あそこまで心配しなくても、鳥貝ちゃん、しっかりしてる方だと思うんだけどね・・・男女間の事以外。」
「男女間の事こそが恋人としては一番心配なんでしょうよ。」
人の事を好き放題云っている。
鳥貝は自分が口を挟むと好き放題の輪が更に広がりそうな気がして、とりあず口をつぐんだ。しばらくすれば話題に飽きて収まるだろうというのが、経験上の知恵。
「えーい。羨ましー。いっそ、Nくんが二人の仲をひっかき回しちゃうと楽しい!」
「あ、それ面白いかも。百合子さんの魅力には及ばないけど、Nくんも好青年だしね。」
「二人の間に火花散ってたよねー、」
「元カレVS今カレ・・・おいしいわね、」
元カレだと紹介したわけでもないのに、すっかりバレている。
鳥貝はため息をついて、Nの事を思い起こした。
彼女にとってNはただの郷里の友人で・・・やはり、百合子が最愛の人で彼以外には考えられないのだけれど・・・それをこういう場で口に出すには、鳥貝は羞恥心が強すぎた。
ふたりが付き合いだしてまだたった一年。けれど、Nと付き合った2年よりも、遙かに密度は濃い。
確かにあったNへの恋情も思い出せないくらいに、強く百合子に恋している。愛していると云ってもいい。
だから、絶対に今の鳥貝が百合子から離れる事はあり得ない。
鳥貝は、まだ何か言い続けている女友達の声を無視して、履修科目リストに目を落としながら、時々勃発する百合子の無駄なやきもちに思いを馳せて、何事も起こらないと良いと思うのだった。
・・・何事も起こらないわけがない。
席についてすぐの「百合子さん、鳥貝ちゃんの事探してたけど?」の言葉に、ぐっと押し黙った。
実は、百合子を避けながら構内を移動していたのだったが・・・やはり鳥貝の友人には声を掛けていたか。
鳥貝の反応に、どうやら彼女が百合子から隠れていたことを悟ったらしい女友達は、にやにや笑う。「愛されてるわねぇ、」とは、聞き慣れたからかいの言葉。
「わたしが食堂に来る事、云った?」
「や。今日は会う予定はあるよ、とだけ云ったけどね。なに、ケンカでもしてる?」
「・・・してないけど・・・たまにはひとりで行動したい。」
「羨やましい通り越して、鬱陶しいくらいべったりだものね。そりゃ、ね。」
「付き合って一年経つのに、よく持つわね、その熱。」
「春休みも、どうせいちゃいちゃでしょ?」
「う・・・、」
否定できない。けれど、肯定もしたくないから、話題をそらす。
「で、履修講義、決めた?」
あからさまな鳥貝の話題そらしを、あえて深く突っ込むメンバーはいなかった。この手の会話はされ飽きている部分もあり、鳥貝の反応が予測できてつまらいらしい。
お昼を食べながら、あるいは食べ終えたものはお茶をしながら、各所から寄せ集めた情報・・・つまり、あの教授の講義は面白いとか、あの講義は単位が取りやすいとか・・・を話し合っている最中だった。
鳥貝は、どうせ食堂なんて目立つ場所だし近いうちに百合子にかぎつけられるだろうな、とは思っていたけれど、その前に、また、厄介ごとが・・・。
春の食堂は殊更賑わう。広い構内に何カ所かある食堂だけれど、春にどの食堂に集うのも、新入生の割合が高い。
特に、一番広くて綺麗なここの食堂は、明らかに新入生と思われる生徒達が多かった。・・・見極める点は、挙動不審さと綺麗すぎる身なりである。女子はともかく、年期の入った男子学生は、プライベートスペースと変わらない服装でいる者も多い。
新入生といえど、やはり男子率は高いのは相変わらずだ。だから、正直有象無象。特別目立つ格好でなければ目立たない。
逆に、女性は目立つ。
鳥貝たちの一角も、他から見ればひどく華やいで見えているに違いない。
だから、その男は割合簡単に・・・見つけた。
「春海ちゃん?」
鳥貝にとって、聞き覚えのある、けれど、記憶に遠い声だった。
その声が誰か、一瞬では思い出せず数秒要したけれど、振り向いたと同時に、理解した。
百合子より長い、2年という歳月を恋人として付き合ってきた男に対して、鳥貝は結構ひどい記憶力を持つ。
そう、鳥貝の高校時代の恋人のNがそこにいた。
「・・・ぅ、あ、Nくん・・・っ、」
驚きすぎて変な声が出た。
記憶が一瞬にして蘇る。
そういえば、彼は今年もこの大学を受験すると云っていた・・・その結果が、これなのだ。
けれど、郷里の誰もこの事について触れなかったのは・・・わざと、かもしれない。先週も郷里の友人と携帯で話をしたけれど、そんな事一言も云っていなかった。
「良かった、さっそく会えた。女性が少ないから、すぐに分かったよ。久しぶり、元気だった?」
やけに浮かれた声には、志望の大学に受かった事と鳥貝に会えた事と、二重の喜びが込められる。
「Nくん、受かったんだ、おめでとう。でも・・・最近連絡したYちゃんも、Mもその事に触れなかったんだけど・・・、」
「ぼくが口止めしてた。驚かせたくて。」
「うん、驚いた。そっか、今年から東京なんだ。寮?」
「アパート。ぎりぎりだったけど、良いところが見つかったから。」
昔の恋人、だからではない。郷里の友人だから、会話をするし、鳥貝だって懐かしさと親しみはあるから、こうして会えて話すのは嬉しい事は嬉しい。
大学の友人が鳥貝の背中をつつく。
「友達?」
さすがに、元カレとは云いづらい。
「・・・郷里の同級生のNくん。」
「この春からTK大生です。仮面浪人を経て無事合格しました。」
Nは鳥貝の言葉に余計なことは云わない。そこの所の分別は百合子よりある。
女友達は、Nの事を先ほどからずっと観察している。その結果はどうだろう。さすがに本人の前では云わないけれど・・・多分後でアレコレ話題に上るに違いない。
「とりあえず、連絡先・・・変わっていないけど、渡しておくね。君も前のまま?」
別れた相手の連絡先。鳥貝はそんなにマメではないし、別に憎み合って別れたわけでもないから、携帯のメモリにはまだ彼の連絡先は残っているはずだ。どうやら、彼もそうらしい。
鳥貝が頷くと、それじゃあ、聞くまでもないね、と笑った。
メモリを消去しない鳥貝の安易な理由はともかく、Nの理由が何なのかまで、鳥貝は推測しようとする事さえしない。
Nが先ほどから気にしていた事に触れたのは、その後だった。
「・・・指輪、変えたの?」
鳥貝の左手薬指を見て、呟く。
そこに含まれる意味をそういう事に鈍い鳥貝は気づかない。
指輪はこの間の鳥貝の誕生日に月成から贈られたものだった。月成プロデュースのものである。てっきり、鳥貝にだけくれたのかと思ったのだけれど、実はペアリングで片方を有料で百合子に売りつけていた。
鳥貝も好きな杏の花をモチーフにしたシルバーの指輪で、百合子の方は杏の幹をイメージしているという。ふたつの指輪を重ねると、一本の杏の木になるようなデザインだった。
以前つけていた、百合子からもらった(押し付けられたとも云う)プラチナシルバーの指輪は、部屋のアクセサリーケースの中でお休み中だ。
「誕生日に、友人からもらったの。」
「友人って・・・え?」
Nがどんな穿った考えを持っているのか、その驚いたような表情からも読み取れないなんて、鳥貝はなんて鈍い。
だから、誤解もされ放題。
「はーるーみ、ちゃん。よかった、見つけた。」
後ろから肩をたたかれた。
とても聞き覚えのある声は、振り向かないでも誰か分かる。ついでに、目の前の女友達が色めきたつのを見ても誰だか分かる。
「安羅さん?」
振り返ると、この春院に進学した安羅が、いつも通り人好きのする感じの良い笑顔で立っていた。
今は髪型を以前より少し短めのストレートにしている。元々クセっ毛なのを、整髪料とドライヤーで整えているのだという。元が綺麗な顔立ちだから、どんな髪型も似合う。
今日は白いセーターの下に落ち着いた色合いの臙脂色のシャツを着ている。下は色の薄い細身のデニムパンツだ。
「探していたんだけど・・・お話中かな?」
「そうですけど、でも・・・急用ですか?」
「や、そうでもない。」
安羅はNを見てにこりと笑って「お邪魔したね、ぼくは後でいいから、」と、近くの席に鞄を置いて、自動販売機のある一角に向かった。
均整の取れた後姿も、姿勢のいい歩き方も、彼の整った容姿と含めて人目を惹く。
「・・・もしかして、あの人からもらったとか?」
安羅の後姿を横目で見送ったNの声は、少し調子が崩れていた。
女友達は、この妙な雰囲気にとうに気づいて、にやにやしているけれど、本人の鳥貝だけが気づかない。
「ううん、違うけど・・・どうして?」
「・・・彼氏、変えたのかと思って。」
「・・・。・・・は?」
Nの目つきが険しくなっている理由に、気づかない。
別れた恋人。・・・まだ、鳥貝に未練を残す彼。未練というか、かつてより随分綺麗になった鳥貝に改めて惚れているのだけれど・・・そういう男の心の機微に気づく事がないのが鳥貝。
「さっきの男の人は・・・?」
「えーと、先輩? 色々お世話になってて・・・、」
「ふぅん・・・で、彼氏は、まだ、去年の人?」
「?? うん、そうだけど・・・?」
「そう・・・、」
あからさまだと思うのだけれど。
態度も、口調も、その内容も。
女友達は、顔を見合わせてにまにま笑う。
「・・・。良かったら、この大学のこと、色々教えてくれないかな? 春海ちゃんは建築科に入ったんだろう? 僕も来年目指しているし。」
「ええ、別に構わないけれど。」
「それじゃ、連絡してもいいよね。」
「うん。・・・でも、どうしてそういう風に確認取るの?」
「彼氏のいる女の子にはこう聞くのが礼儀だろう。・・・相変わらずなんだから・・・、」
苦笑するNにきょとんとする鳥貝。
昔の恋人・・・けれど、鳥貝にとっては今は同郷の友人といった所。
近くの席で缶コーヒーを飲みながら、携帯片手に安羅がにやけているのにも鳥貝は気づかない。
聡い安羅は、鳥貝と話をしているのがどういう男なのか、とっくに察している。そして、片手にもった携帯で連絡した先は・・・。
「食事も、誘ってもいいよね?」
「お昼ご飯なら。夕ご飯は必ず寮で食べるから。」
「もちろん、それでもいい。」
Nは、当然ふたりきりでの食事前提で誘っているのだが、鳥貝は百合子や女友達と一緒くたに考えている。
「春海ちゃん、あのね・・・、」
Nが少しだけ真剣に言い出そうとした所。
「春海っ、」
がばっと背中に抱きついてくるのは。
構内でもこういう事を、TPOもあまりわきまえずに平然とやってのけるのは、この男しかいない。
百合子は抵抗する鳥貝をものともせず、その頭にほおずりしながら云う。
「おまえ、探したんだぞ! おれが何度も連絡してるのに、全部無視りやがって、もしかして、それって、こいつのせい?」
言葉の最後は、Nを睨みあげてのものである。
「は?」
とは、鳥貝とNと、ほぼ同時の声。
「TK大にまで追いかけてくるとは、結構なストーカーくんだよな、」
棘だらけの百合子の言葉に、Nは苦笑した。
後ろから安羅のため息混じりの声が聞こえた。
「おまえの方が余程ストーカーだよ、百合子、」
「なんか、変なこと云ってますけど、Nくんは元々TK大志望だったんですよ?」
百合子の腕を抓り上げて、自分から引きはがしながら鳥貝は呆れ気味に云う。
「それに、ここで会ったのも偶然ですよ。ぼくが春海ちゃんを見つけて声をかけたんです。」
昨年、N県でちらりと会っただけのふたり。
百合子はNを完全に敵認識している。
Nは、完敗を認めながらも、それでも・・・。
「百合子さん、ですか。僕も建築科志望なんで、今後ともよろしく。」
かすかな敵意をにじませて、Nは百合子に笑いかける。
百合子は何も云わず睨み付ける。
「それじゃ、ぼくはこれで。春海ちゃん、また連絡するから。」
と、ごくさわやかに手を振りながら去っていった。
女友達が「爽やかだねー、」「結構イイ男だよね、」と囁きあっているけれど、それより百合子だ。
「連絡? するのか、あいつと?」
「・・・いいじゃないですか。同郷の友達ですよ。」
「ともだちぃぃ? あれが?」
「・・・。何度も云ってますけど、もう何でもありませんから。」
「おまえはな、」
「・・・どういう意味ですか、」
「おまえが、鈍いって事だよ。」
「は?」
「さっき、同級の奴に会ったケド・・・新入生に軟派されてたって? 構内で軟派されるなんて、どんだけだよ。」
「話が逸れてます。・・・なんで、そんな事、」
「おまえの隙の多さと迂闊さをおれは心配してるんだ。」
「何を・・・、」
意味が分からず戸惑う鳥貝にくすくす笑う女友達の方が説明を入れる。
「つまり、あのNくんは、あんたに未練たっぷりで、ヨリを戻したいと考えているのよ。」
「実際、大学まで追ってきたのではないにしても、よっぽどよね。あんたの事忘れられないのよ、」
「・・・はぁ?」
云われている意味は分かるけれど、把握できないというか。
彼は別れた恋人であり、今はもう何とも思っていない相手。そして、鳥貝は今、恋人のいる身。
鳥貝にとって、復縁なんてあり得ない事。
鳥貝は、彼だって、同じようなものだと思ってしまっていた。
「でも、恋人がいるって聞いたけど?」
「そんなの分からないわよ。東京に進学するって事で別れてるかもしれないし。」
「まだ別れていないにしても、鳥貝ちゃんに未練あるから、別れるかもしれないし。」
そもそも、鳥貝と彼が別れたのも、鳥貝が東京に進学してしまうというのが表向きの理由だった。
その点について考えれば・・・彼ならあり得る事かもしれない。
「春海は、自分がどれだけカワイイか自覚していない。昔の男が後悔する程かわいい。」
百合子の人目をはばからない惚気もいつもの事。いつもの事だけれど、恥ずかしさには慣れない。
「・・・ともかく・・・。わたしにはそんな気はまったくないので、この話をこれ以上続けるのはなし。それに、勝手な憶測はNくんにも失礼です。」
百合子を睨んでから、女友達にも視線を送る。
相変わらず、特に己の色恋に関しての話題は苦手なのである。
「百合子さんも、今日くらいは別行動にしましょう。わたしだって、友達とまったりしたいんです。」
「おれも一緒に・・・、」
「男の人とはできないお話もありますからっ、無理ですっ。」
「・・・わたしたちはいいんだけどね。百合子さんって見てるだけで楽しいし?」
女友達の意見を、睨み付けて却下させた。鳥貝、結構強い。
しばらく百合子は拗ねたような表情で鳥貝を見ていたけれど、頑固な彼女の意志が早々変わる事がないと見て、ため息をついて肩を落とした。
「わかった。じゃあ今日は寮で待ってるから、遅くなるなら連絡を、」
「いつも云ってますけど、子供じゃないので大丈夫です。」
「いつも云い返しているけど、子供じゃないから心配なんだ。」
鳥貝はむっとするけれど、素直に「分かりました、どのみち夕食の準備までには帰ります。」と返事した。でないと、いつまでも色々と言い募られかねない。
百合子は、そばで成り行きを見守っていた安羅と共に食堂を立ち去った。
「あのふたりが並んでいる所は、眼福よね。なんかそこだけ世界が違うというか。」
百合子と安羅の事だろうか。
「この大学、こんなに男がいるのに、目の保養になるような男って少ないのよね。それこそ、砂の中から砂金を探すようなもの。あのふたりは、かなり大粒クラスの砂金。」
百合子と安羅の背中を見送りながらのうっとした女友達の声だ。
「百合子さんも相当イイ男だと思うけど、目に見えて鳥貝ちゃんにべったりだから、私はやっぱり安羅さんかな。」
「安羅さんにも恋人はいるよ、」
「他校でしょ? 目に見えないからいい。というか、目の保養してるだけだから、それでいいの。」
「私は目の保養だけなら百合子さんがいいな。鳥貝ちゃんにデレてない時の百合子さんがステキ。安羅さんはソフトなイメージだけど、百合子さんはクールだよね。わたしはクール好み。」
「・・・っ、」
恋人の事を、分かっていて真横でこういう風に云うのは、どうかと思う。
褒められているのは嬉しいけれど・・・ちょっとだけやきもちを覚える。
百合子を褒める友人とは別の子が少し拗ねた鳥貝の表情に気づいて、頬をつつく。
「寂しいオンナに目の保養くらいさせたげなさい。どうせあんたは昼も夜も朝も、あの美形な恋人と一緒にいるんだから。それに、・・・鳥貝ちゃんにしか見せない顔もいっぱい見てるのよねー?」
「そっ、そんないつも一緒にいるわけじゃない、」
朝一緒にいるのは月に数度くらいだもの、と心の中で付け加える。それから、自分しか見られない百合子の顔に心当たりを覚えて・・・熱っぽく自分を求める、その時の顔、それを思いだして、顔を赤くした。
「相変わらずねぇ。鳥貝ちゃんは、ふたりきりになって甘えるタイプだ。」
「それが、かわいいんでしょ、百合子さんは。いいなぁ・・・、ベタ甘ラブラブで。」
「すごく過保護なのも含めて、ちょっと鬱陶しそうだけど。あそこまで心配しなくても、鳥貝ちゃん、しっかりしてる方だと思うんだけどね・・・男女間の事以外。」
「男女間の事こそが恋人としては一番心配なんでしょうよ。」
人の事を好き放題云っている。
鳥貝は自分が口を挟むと好き放題の輪が更に広がりそうな気がして、とりあず口をつぐんだ。しばらくすれば話題に飽きて収まるだろうというのが、経験上の知恵。
「えーい。羨ましー。いっそ、Nくんが二人の仲をひっかき回しちゃうと楽しい!」
「あ、それ面白いかも。百合子さんの魅力には及ばないけど、Nくんも好青年だしね。」
「二人の間に火花散ってたよねー、」
「元カレVS今カレ・・・おいしいわね、」
元カレだと紹介したわけでもないのに、すっかりバレている。
鳥貝はため息をついて、Nの事を思い起こした。
彼女にとってNはただの郷里の友人で・・・やはり、百合子が最愛の人で彼以外には考えられないのだけれど・・・それをこういう場で口に出すには、鳥貝は羞恥心が強すぎた。
ふたりが付き合いだしてまだたった一年。けれど、Nと付き合った2年よりも、遙かに密度は濃い。
確かにあったNへの恋情も思い出せないくらいに、強く百合子に恋している。愛していると云ってもいい。
だから、絶対に今の鳥貝が百合子から離れる事はあり得ない。
鳥貝は、まだ何か言い続けている女友達の声を無視して、履修科目リストに目を落としながら、時々勃発する百合子の無駄なやきもちに思いを馳せて、何事も起こらないと良いと思うのだった。
・・・何事も起こらないわけがない。
※つづく※
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何事かが起こりつつ、結局いっちゃいちゃ。
これがこのシリーズのコンセプト
鳥貝ちゃんの誕生日のお話は、形に出来たらまた今度。
いつも思うのは、妄想をそのまま瞬時に形(文章)に出来たらどんなにかいいだろうかと。
これがこのシリーズのコンセプト
鳥貝ちゃんの誕生日のお話は、形に出来たらまた今度。
いつも思うのは、妄想をそのまま瞬時に形(文章)に出来たらどんなにかいいだろうかと。
さぁて、明日は何しよう。
※ウェブ拍手ありがとうございます!
頻繁にくださっている方ですね。
世間一般に3連休ですが・・・いかが過ごされてますか。
仕事にしろ、お休みにしろ、家事があるにしろ・・・普段、お忙しい日々を送られているのであれば、お休みの日はどうぞリフレッシュされてくださいね。
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