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気まぐれ読書・映画・音楽の記録。本文に関係のないコメントについてはご遠慮させていただきます。

桜庭一樹「荒野」

2009-02-13 | 小説

恋愛小説家の父をもつ山野内荒野。ようやく恋のしっぽをつかまえた。人がやってきては去っていき、またやってくる鎌倉の家。うつろい行く季節の中で、少女は大人になっていく。

荒野、12歳。大人以前、~16歳。時は過ぎた。青春のページ。

 

桜庭さんの小説で、もっとも軽めの読み物でした。

このファミ通文庫刊の加筆修正と3章は書き下ろしというもので、たぶん、対象読者が、なんとなく想像できるような。

 

この荒野ちゃんは、随分とアニメのキャラクターを思い起こさせる巨乳で、その他は折れそうに細く、華奢で、男の子の前で、すぐにボロボロ自然に涙が出てきちゃう可愛らしい娘。

 

このほかにも、友人たちは、それぞれ、注目を浴びる美少女たちで、全員個性のはっきり違うキャラクターが、アニメっぽい。

そして、この小説家の父とその愛人関係もなかなか宜しい。

大人の女性では、家政婦であった奈々子さんが、一番いい女だな。

離れを見ながら、煙草を吹かし、男言葉で。何でもない料理をさっと出す。そして去っていく人。

さくさく読めちゃう505ページ。でした。

 

「遠くに行きたい、なにも所有したくない。それって人間のひとつの本能だと思う。その本能を邪魔するもう一つの本能、所有欲が、恋じゃないかと思っている」

 

~青年は荒野をめざす~

五木寛之の本を読む大人びた少年との出会い

 

”スイングとは何か~アンビバレンツの美学。対立する感情が同時に緊張を保って感覚されるような状態の中で、激しく燃焼する生命力がスイング。

愛と憎悪、絶望と希望、転落感と高揚感、瞬間と永遠、記憶と幻想、それらがスパークする所にスイングが生まれる。

 

男たちは常に終わり泣き出発を夢みる。

安全な暖かい家庭、薔薇の匂う美しい庭、友情や、愛や、優しい夢や、そんなものの一切に、ある日突然、背を向けて荒野をめざす。

だから彼らは青年なのだ。それが青年の特権なんだ。

世界とは?人間とは?青春とは?そして音楽とは?”

 

離れていても、気持ちはべつに変わることはない。暖かな、何かを発見した時のような驚きと愉しさが、胸に静かに息づいている。でも荒野はそれを、誰にも話していない。~目をかたく閉じ続ける。水音のようなジャズ。ナガレよ流れ落ちよ。

 

愛しさは、さみしさ。

あんなにたくさんの、ぽわぽわした感情に日々、さいなまれていたというのに。大人になった今も、憶えていられるのは、はたして、どれとどれだろう。

忘れ去られてしまったのは、どの愛しさ、どのさみしさだろう。

それらは、この世のどこかをいまも、漂流しているのか。

透明なあぶくのように、生まれては、消えていった、ものたち。

時が流れて。ときには、ぼんやりとしている荒野自身をも置き去りに、流れて。振りかえると、あの季節は、あっという間。瞬きするほどの一瞬の日々よ。

あの少女はずっと、いる。

遙かな荒野に佇んでいる。

風がふくと、少女の髪が、揺れ…。

 

…本当は今のことしかわからない。

今だけ!恋は、今だけ

過去は眩暈がするほど遠く、未来も又、晴れない霧のむこうにある国のように、いつまで経ってもたどり着けないと感じるほどに、やはり、遠い。

 


 



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