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角田光代「ツリーハウス」

2011-09-05 | 小説

謎多き祖父の戸籍──祖母の予期せぬ“帰郷”から隠された過去への旅が始まった。満州、そして新宿。熱く胸に迫る翡翠飯店三代記。第22回伊藤整文学賞

誰しも戦争の傷跡を密かに心に隠して、そうそう孫子に語ることもなく亡くなってゆくのかなと感じる。戦争が終わって。僕らが産まれた時代。

小学生で終戦を迎えた父母の太平洋戦争は?祖母は?産まれる前からとう亡くなって顔も見たことがない祖父達は…。

私は、なぜ、この蝦夷の地に棲息するのか。も戦争に少なからず影響を受けている。

ツリーハウスは、謎の多い祖父の戸籍、沈黙が隠した家族の過去。そういったすべての家庭に不遜でいる、戦争の記憶を辿る孫・良嗣君と3世代の物語です。

ずっと逃げてきた。泰造。戦うことから、命令から。何かが違うと感じたとき。自分の命を守るため。逃げる事は、勇気なんだと思う。時には女装して。助けてくれたのは、日本人じゃない。満人の一般人。自国を乗っ取った日本人をなんの見返りもなく、食べさせ休む場所を与えかくまってくれた。

命令に従うことの方が、簡単なことだといって戦地で亡くなった保田。

命令されたり殴られたりするのではなく、話、笑い、ふざけるという人との関わりかたがあるのだと泰造は保田に教えられた。

逃げていることを忘れていくような、ずっと前から目指していたどこかにただ純粋に近づいているような心持ち。男でも女でもなく、脱走者でも脱落者でもなく、日本人でも満人でもなく、もはや体すらもなく、そこに目指す気持ちだけになって移動しているような、爽快といってもいい気分に、ほんの束の間満たされるのだ。

どこかにいくってことは、故郷に戻れないくらいの覚悟が必要なんだろうね。もう帰れないかもしれない。それでもかまわないって思わなきゃ、どこかには行けないのかも。(繁子)

あの時こうしていれば。こうしていなければ、生きていくと言うことは、人とかあくぁるということは、この苦い後悔を増やしていくことなのかもしれない(父・慎之輔)

結婚しようなんて思わないさ。今の人と違うもの、愛しただの恋しただの、そんなのはないさ。でもね、私は無理だと思ってたよ。妻だの母だのになるのは、そういう普通のことをするのは自分には無理だと思っていた。…その時、春で、花が咲いていて、そりゃきれいで、大丈夫って思ったんだ、私でも大丈夫だって。できるって。(祖母ヤエ) 

ふつう知らないだろう。自分の父さん母さんのこと、爺さん婆さんのこと、知っているようでみんな知らないんじゃないか(おじ太二郎)

自分の気持ちをなかったことにするっていうのはさ、考えること、決めることを誰かに委ねるって事で、楽なんだよ考えずに従うことは。でもそれ、もしかしたらすっごく怖いことだ。(太二郎)

ここじゃない、どこか遠くに行けば、すっごいことが待っているように思うんだろう。でもね、どこにいったって、すごいことなんて待ってないんだ。その先に進んでも、もっと先に進んでも、すごいことはない。そうしてもう二度と同じ所に帰ってこられない。出ていく前のところには戻れないんだ。(祖母ヤエ)

今いる場所よりもっといい場所があると信じ、深く考えずそこを目指し、けれど思い描いたようなものが手に入らず落胆をくり返しながら、でも、今日を生きるしかない。歴史に荷担しているようで、その実、歴史に関わっている意識もなくただ時代が与えてくれるものを受け入れていく。もし祖父母と自分たちと違うところがあるとするなら、彼らは帰れなかった。必死になって帰ってきた場所では、かつて彼らがやったことは悪いことだと見なされて、しかも、生きて帰ってきたことは名誉だとは見なされない。彼らが出ていった場所は異国だったが、戻ってきた場所も異国だったのではないか。(良嗣)

もし、なんてないんだよ。後悔したってそれ意外ないんだよ、何も。私がやってきたことがどんなに馬鹿げたことでも、それ以外は、なんにもない、無、だよ。だったら損だよ、後悔するだけ損。それしかなかったんだから。(祖母)

時代に呑みこまれ。ただ今を生きるために必死で逃げて、生きるために働きずくめだった祖父母達の人生と。僕らの時代。生きていくことに、そんなには違いがない。と思う。



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